第103話ー台湾州府ー
前回の更新からだいぶお待たせしました。
私事ですが体調が良くなったことで忙しくなり、
小説を書くのにかまけておりました!
細く長くお付き合いくださいますと幸いです。
「ここからは私が台湾州府へとご案内します。」
レイピアを腰に指し武装した梅花が、台湾の州府へ4人を案内していく。
賑やかな屋台街や、物々しい武器屋街を抜け、過去の栄光の名残のビル群の所へ進んでいく。モニュメントと化したそれらを背景に、近代的な建物が見えてきた。
「おお!なかなか綺麗な建物だな。鉄筋造りのビルがまだ稼働しているのか。」
と、縁は言った。見えてきた台湾府は、ヤオたちが見たことの無い、ガラス張りのビルだった。
「へぇ〜。これが先史時代のビルですか。」
とヤンガが興味深く観察する。
「先史時代って…。私はその時代生きてたんだが、まぁ現代から考えたら確かに”先史”と言われても仕方がないかぁ。」
と縁がボヤく。ヤオとユエが、
「「あははは!」」
と思わず笑った。梅花は、この話題に入るかどうか困惑した顔をしていた。
梅花を先頭に、台湾府に入っていく。ガラスの自動ドアが、音もなく開いていく。弟子3人は初めての体験に若干驚きながらも、態度には出さず、黙々とついて行った。梅花が、受付嬢に話をすると、事前に通達が届いていたらしく、
「台湾州知事、まぁ民衆は昔の名残で総統と呼びますが、お会いになるそうです。私がご案内します。」
と言い、勝手知ったる様子で先に進んでいく。
そして入って右側のエレベーターのボタンを押す。ヤオは、
「これって、なんですか?」
と小声で縁に尋ねる。
「エレベーターつってな、簡単に説明すると人が入った箱をワイヤーとモーターで上げ下げしてるんだ。」
と縁は弟子3人に伝えた。3人はなるほどといった様子で、エレベーターが1階にやってくるのを待った。
「ポーン」
エレベーターの自動ドアが開き、5人は乗り込んだ。梅花は最上階のボタンを押した。
「うわ、なんか足元がフワフワする〜。」
初めてのエレベーターに、ユエが笑顔を見せる。ヤオもヤンガも、体験したことのない感覚に新鮮な顔をしていた。
最上階に着き扉が開く。梅花はそのまま廊下を突き進んでいく。赤い絨毯に、木目の美しい扉の個室が幾つかあり、隅には子供ほどもある立派な花瓶が品良く置かれている。
「コンコンコン。」
梅花が『総統室』と書かれた部屋の豪華な扉をノックし、
「冒険者ギルドの梅花です。”蓮花の理”の皆さんをお連れしました。」
と言った。するとドアが開き、
「皆さん、中へどうぞ。」
と男性の声がする。ドアをあけたのは、スーツを優雅に着こなした青年だった。5人は『総統室』に入っていく。
目にしたのは、全面ガラス張りの窓を背に、執務机に座った妙齢の女性だった。どこか、ギルドマスターの宋 美齢を彷彿とさせる。
「妹から話は聞いたよ。台湾州のことは内々に済ませたかったが、台湾の魔術師、風水師たちには荷が重かったようだ。どうやってこんなに短時間に日本から通達が行ったのか、それは詮索しないが、助かる。」
と総統こと、州知事は言った。縁は、
「急に目通り申し訳ない。だが、ことが事。急かしてもらった。私は滝野縁、銀髪の子がヤオ、黒髪に赤い目の子がユエ。茶髪の子がヤンガだ。それぞれ私の弟子だ。」
と淡々と自己紹介した。
「なるほど。あんたが世界に20人しかいないSSSランクの1人かい。強欲の5《フィフス》。そして見るからに陰陽を象ってそうな、銀髪の子と、黒髪の子ね。そして、茶髪の方も随分と魔法が達者らしいじゃないか。頼もしいね。私は宋 慶齢。妹と共に、歴史の彼方の名前を貰っているのさ。私は台湾州の州知事を任されている。」
慶齢は、4人にソファに座るように手で示しながら言った。4人は大人しくテーブルを挟んで、2人ずつ座った。
「秘書のお兄さん。あまり私達の背後を取らないで貰えないか。私達に敵意はないし、害をなす理由もない。気が散るから頼むよ。」
縁は向かいのヤオとユエの背後に佇む、青年に声をかけた。
「まさか、私が武装していることに気が付かれるとは。私も一応Sランクのアサシンなのですが、手も足も出ませんね。」
青年は困った顔をして、慶齢と縁を交互に見た。
「潤風、お前じゃ、かないっこないことはわかってるさ。お前の仕事は私の警護。私の後ろを守っとくれ。梅花、茶と菓子を用意しとくれ。前から場所は変わってないよ。」
と、慶齢は言った。2人は、
「「畏まりました。」」
と返事をして、それぞれの仕事に当たった。
縁は、
「それで?今、龍脈はどうなってるんだ?」
縁は空間術式から、愛用の煙管を取り出しながら聞く。刻み煙草を詰めると指先で火をつけて、フーッと煙を吐く。梅花はすかさず、灰皿を縁の前に出し、それぞれに茶とクッキーをサーブした。
「そうさね、冒険者ギルドと、州兵から合わせた情報では、龍頭の剣潭山の龍穴が1番狂ってるようだ。龍穴とは、龍脈の気が最も噴き出す結節点。ここを鎮めない限り、他を鎮めてもすぐに暴れだす。魔術師や風水師達は、これが現時点でわかっている龍脈の性質だと言っていた。」
「モンスターは今まで見たことの無い奴らばかりさ。小物は倒せる。だが強敵がいる。“狂華の暴樹”。恐らく木の性を持つトレントが、陽気に充てられてモンスター化したもの。Aランクパーティー2つが対処に当たったが、散り散りに逃げたお陰で死者が出なかった。“白熱の爆炎獣”。こいつは火の性が作用して凶暴化した、猿型のモンスターだ。こいつは頭が良い。州兵20人を消し炭にしやがった。一瞬現れたらしいが、ボスらしき変異種がいる。逆鱗龍魔獸と名前をつけさせてもらった。」
眉間に皺を寄せながら、言った。
縁は煙管をふかしながら、
「うむ。なかなかことは厳しいな。梅花、ちなみに”蓮花の理”のランクはどうなっている?福州のギルドマスターがランク申請の紙を渡してくれたんだが…。」
と梅花に顔を向けた。彼女は、
「お弟子さん達はAランク+になっております。Sランクには経験が足りないとの事で、その為に+という併記になっております。正式なランクではありませんが、Sランク候補を示す内部評価です。その為、”蓮花の理”《レンカノコトワリ》はSランクパーティーにランクアップです。」
と微笑んで言った。
ヤオは、
「そこまでアップしたんですか?」
と驚く。ユエも驚いた顔をしている。ヤンガに至っては、
「え?僕もAランク+なんですか?!」
と戸惑いの顔をしている。
「3人とも、自分の歳を考えろ。人間じゃないし、私がその才を見抜き、指導しているのだから当たり前だろ?」
と縁は言った。そう言われれば確かにそうで、弟子3人は納得の表情を浮かべた。
「詳しい情報は分かった。通行証を出してもらおうか。ギルドではすぐに出せないとの事だったからな。」
縁は慶齢を見て言った。慶齢は、
「もう準備してある。普段は、冒険者がこのクエストに相応しいか、確かめるために時間が要る。”蓮花の理”は日本からの勅使も兼ねているし、この書類を検問に見せたらいい。」
と言うと、4人分の書類を潤風に持たせると、縁に渡させた。
「じゃあ、このあと早速現場に行ってみるとするよ。」
縁はその書類にサッと目を通すと、空間術式に格納した。弟子たちは縁が話している間に、ちゃっかりお茶とクッキーを食べてしまっていた。縁は冷えても渋みのないお茶を飲み干すと、立ち上がった。
「潤風、お前が案内しておくれ。梅花はギルドにお戻りな。」
慶齢は机の上で指を組んだまま、指示を出した。
「総統、あなたの身の安全はどうします?」
潤風が尋ねる。
「私も年はとっちゃいるが、元はAランク冒険者、遅れは取らないよ。このクソ忙しい時に、私を狙うメリットはないさ。福州のマフィアどもが一掃されたおかげでね。」
慶齢はポケットから紙巻きたばこを取り出すと、指先で火をつけた。そして、
「気をつけて行っといで。」
と言った。
縁たちは潤風に案内され、いよいよ龍頭の龍穴である剣潭山に向かう。そこには、確実に強敵がいる。縁は態度も変えず飄々としているが、弟子達は己を鼓舞する。
ー陰陽の乱れを整えるのは私達にしかできない。ー
その強い思いは、闘志となって瞳に宿る。
龍穴での戦いは、カウントダウンが始まっているのであった。




