第101話ー台北上陸ー
港の窓口で、縁は飯の美味い宿の名を聞く。
それを見てヤオが、
「師匠、のんびり宿とってる場合なんですか?!すぐに冒険者ギルドに行って、台湾府に行くべきでは?」
と焦った声で言った。
ユエとヤンガは、うんうん、と頷いている。それを見た縁は、ふっと笑い、
「お前たち、いいか?3人とも初めて海を渡ったんだ。知らず知らずのうちに疲れが溜まっているんだぞ?それに、ギルドや台湾府を急かしたところで、夜は遅い。明日の朝イチで行ったとて変わりはない。」
と答えた。
そうすると、
「ぐぅぅぅぅ〜。」
とお腹が鳴る音がした。すると、顔を真っ赤にしたユエが、
「…お腹、減りました。」
と呟いた。そうすると男2人も、
「あれ、俺もお腹ぺこぺこだ。」
「僕も。すごく腹ぺこ。」
と言い始めた。縁は、
「ほらな?龍神の件で気づかなかっただけで、体は慣れないことをして、疲れているのさ。」
と言って歩き出した。
「そう言われると、ものすごくお腹減りました…。」
とヤンガがお腹をさすさすしながら言った。
「今回の宿は五味楼だ。飯がうまい、量も多いっていういい宿だぞ。屋台を冷やかしたいのは山々だが、部屋を取らなきゃならないから、急いでいくぞ!」
縁が港の検疫に早歩きで近づいて行く。
縁の影から、使役獣達が姿を表す。
「海の上にいると、毛皮がしょっぱくなりますからね。影に潜んでいて正解でした。」
と黒曜。白曜も、
「しかり、しかり。港ぐらいならまだいいんだが、潮風は毛並みがベタつく。」
とボヤいた。
台北の港の検疫で、冒険者カードの提示と、使役の首飾りを受け取り、目的の宿へと向かう。
古いが手入れが行き届いた街並みに、赤い提灯が随分と映える。奥には過去ビルがひしめいていた名残が、モニュメントのように残っている。大通りには屋台が並び、海産物や串焼き、めん類に、デザートまで、通っているだけで腹の虫が主張してくる。細い路地裏では、猫の瞳がキラリと光り、迷宮へと誘っているかのようだ。
丘の階段を登った先に、五味楼の看板は立っていた。立派な外観に赤い提灯、紺ののれんが、宿の暖かい雰囲気を醸し出している。眼下には、屋台の明かり、そして港の灯りが幻想的に煌めいていた。
「すみませーん。」
ガヤガヤとした食堂の隣のカウンターで、縁は声をかける。しばらくすると、
「はい!すみません!お待たせしました!」
と坊主頭の少年が受付に飛び込んできた。
「1人部屋を4つ借りたいんだが、空いてるかい?」
縁は少年に尋ねる。少年は帳簿をめくると、
「姉さん、悪いけど、一人部屋は2つしか空いてないよ。あと、2人部屋が1部屋あるから、姉さんと、赤い目の姉さんが一人部屋に泊まって、兄さん達2人が2人部屋にしたらどうだい?」
と提案する。縁は弟子3人を見回すと、
「少年の言う通りにするよ。お前たちも構わないか?」
と、尋ねる。3人は、
「構いません。とにかく、早く部屋に荷物を置いて、晩御飯にしましょう!」
とヤオが即答した。
カウンターで手続きを済ませ、部屋に荷物を置いてくると、4人は食堂に集まった。年季の入った食堂だが、汚いということはない。それさえも、飯が美味いという雰囲気にピッタリだった。
席につくと、4人はメニューを開いて、暴れる腹の虫を宥めながら選んでいく。
「台湾と言えば、魯肉飯が有名だな。どうやら卵もついてくるようだし、私はそれの大盛りに決定だ。」
縁はろくにメニューも見ず決める。ヤオは、
「牛肉麺にする!もちろん大盛りで!」
とヤオが目をきらきらさせて言った。ヤンガも、
「僕もその麺食べたい!大盛りは決定だね!」
と言った。ユエと言えば、
「両方食べる!うん!ギルティだけど、今日は特別に許す!」
と悩んだ末に言った。
ウェイターを呼び、それぞれ注文する。縁はついでに、ツァイタオグイと言う大根餅も12個ほど頼んだ。弟子たちもジーパイという顔ほどもあるフライドチキンを4人前頼む。縁は、
ージーパイまで頼んで、食べ切れるのか?ー
と苦笑する。
注文し、まだかまだかと待っていたが、さすが人気店。料理の提供も一流だ。5分も待たないうちに、魯肉飯と牛肉麺が湯気を立ててやってきた。
魯肉飯は、やや大振りにカットされた豚バラ肉が香ばしい五香粉の香りをたたせながら、白米の上に鎮座し、食べられるのを今か今かと待っている。豚肉の脂身がプルプルとレンゲを誘う。
牛肉麺は、柔らかそうな牛肉がゴロゴロと赤褐色のスープに浮いていて、ガツンとした匂いが、脳みそにダイレクトに響いてきた。
「さあ食べよう!」
と縁は声をかけると、
「「「「いただきまーす!」」」」
と手を合わせ、それぞれの料理にがっついた。
「う、うまーーーー!!!」
ユエが魯肉飯を食べながら言った。
「牛肉麺もうまいぞ!牛肉がホロホロっと柔らかく、麺はコシがあってスープによく絡む。」
ヤオが興奮した様子で言った。
ヤンガといえば、無言で食事に没頭している。
縁は若人のキラキラした様子を、微笑んで見守っていた。
その後もツァイタオグイや、ジーパイをバクバクと食べる。
「ツァイタオグイってもっと大根の味ばっかりするかと思ったら、肉とかエビとかの味もして、タレとマッチしておいしい!」
とユエがタレで照りがある、ツァイタオグイにパクリと食べた。ついでに、
「ウェイターさん!ご飯中盛りでお願い!」
と、おかずと白米のペース配分も忘れない。
「僕もお願いします。」
終始無言だったヤンガも、ついでに白米を追加する。ジーパイに齧り付いているヤオは、ジェスチャーで白米追加をお願いしていた。
縁といえば、掃除機並みの吸引力で、2度目の
「魯肉飯おかわり!」
というマイペースぶりであった。
明日、龍脈で何が待ち受けているのか、誰にも分からない。
だからこそ今は食べ、眠り、身体を整える。
強者ほど、戦う前の一夜を疎かにはしない。
台北の夜は、美味い料理の湯気と人々の笑い声に包まれながら、更けていった。




