第100話ー龍神の願いー
寝過ごしました!
いつもと違う時間帯になり申し訳ないです 汗
100話に到達できたこと、
これは皆さんが読んでくださるからこそです。
ありがとうございます!
海は凪ぎ、音のない世界に人々は息を潜める。海鳥の影さえない秋晴れの空。
そこに堂々たる体躯の、青い鱗に水色のたてがみが美しい龍が、長い髭を波打たせている。
黒水溝の主である龍は言った。
「陰陽の化身を引き連れる者よ。そなたが此度大陸全土に及んだ陰陽の乱れを正したのだな?」
縁は、
「そうだ。私の空間術式と、産土神の力を用いて、陰陽の乱れを鎮めた。ヤオ、ユエ、この方は黒水溝の主、挨拶しなさい。」
と答えた。ヤオとユエは背筋を伸ばし、
「私が陽の化身、ヤオです。」
「私が陰の化身、ユエです。」
それぞれ名乗った。
黒水溝の主は、
「陰陽の化身達、それぞれ良い面構えをしている。もう1人の者も、聡い目をしているな。」
弟子3人を見て言った。ヤンガは慌てて、
「私は、弟子の1人のヤンガと申します。名乗りが遅れ申し訳ありませんでした。」
と頭を下げた。縁は、
「3人共良い子ですよ。賢く努力も怠らず、驕りもせず、敵を前にしても挫けることのない強さがあります。」
縁は微笑みながら、黒水溝の主に語った。
「そうだろうよ。滝野縁。そなたを師とするならば、それだけの資質がなければ無駄であろう。」
黒水溝の主は髭を波打たたせて言った。
「さすが、黒水溝の主。我が名を看破されるとは。」
縁はにっこりと微笑む。黒水溝の主は、
「名を見通されてなお微笑むか。食えぬ女よ。名は見える、されど魂の最奥にある真名だけは、霧に包まれておる。」
と口角を上げて言った。
「ーーーさて、お主たちを止めたのには理由がある。」
黒水溝の主はひたと縁の瞳を見据えて言った。
「ここに、この海に何か異変があるのか?」
縁は周りを見渡して尋ねる。
黒水溝の主は、
「ーー半分当たりで半分外れだ。海の異変は我々海神が力を合わせてなんとか、平穏に済ませている。問題は…台湾島の龍脈だ。そちらが震源になっている。陽の気に傾き、魔物が活発化しているのだ。我らは海を司るもの。大地の理たる龍脈には、我らとて易々と手を出せぬ。そこにやってきたのが、陰陽の化身とそなた、ーー強き者だ。」
と語った。縁は顎に手を当てると、
「なるほど、問題は明確だな。実は琉球王国でも龍脈に異変が起きている。大きな龍脈がある台湾でそれが起こらないはずがない。活性化している魔物を鎮め、ヤオとユエが陰陽の乱れを整えれば良いということだな?」
と黒水溝の主に言った。
「そうだ。しかし、"今"の陰陽の化身だけでは龍脈は整えられぬ。龍脈とは大地そのもの。導く者なくして、その力は散る。長く生きた強き者、お主が彼の者らを導くのだ。そして台湾島の異変を鎮めて欲しい。」
黒水溝の主は深く頭を下げた。
弟子3人は、驚愕した。龍神は誰に対してもおもねらない。誇り高く、他者に頭を垂れることなど聞いたことがない。
それなのにーーー。
黒水溝の主である龍神は、自分たちに向かって頭を下げている。さすがの縁も驚いていた。
「頭をあげられよ、黒水溝の主殿。龍神に頭を下げさせるなど、誰かに見られていたら雷が降ります。台湾島の龍脈の件は、我らが請け負います。必ずや、黒水溝の海神に吉報をもたらしましょう。」
と、縁は言った。
その言葉に、
「私共、陰陽の化身たる身、力の限りを尽くすとお約束します。」
とヤオが言った。
「黒水溝の主様、必ずや陰陽の乱れを整えてご覧にいれます。」
とユエが言った。
黒水溝の主は、
「ありがたい。陰陽の乱れは全ての生き物に影響を及ぼす。生態系でさえ崩れる。強き者よ、陰陽の化身よ、聡い目の子よ、台湾島の龍脈をお任せする。我々が海を保つのもそろそろ限界だ。龍脈が整うことを、私達は水底で待っている。」
と言った。
「要件は伝えた。さらばだ。そなたらの武運を祈る。」
と身を翻し、
「ザブン!!」
と海に溶け込むように、深い水底に降りて行った。
静寂の中、トンッと縁は甲板に降り立ち、
「台湾では手短に話をまとめて、琉球に行ってしまいたかったが、足止めされそうだな。」
とやれやれという様子で言った。
ヤンガは、
「師匠、相手は龍神、しかもあの大きさ!なんで対等な話ができるんですか?!」
と混乱した様子で問いかける。
ヤオとユエに至っては、この先に待ち受ける難題に頭を悩ませていて、それどころではなかった。
「そりゃあ、黒水溝クラスの海神になると、あんな感じだろ??大河の神もあんな感じだし。気にしたら負けだ。ヤオもユエも龍脈に行ってみないと、整えるも何もどうすればいいか分かりはしない。今わかっているのは陽の気に当てられたモンスターが暴れていることぐらい。大きくドンと構えていればいいさ。」
と縁は楽観的に言った。
ヤオとユエは素早く思考共有で、会話を交わす。
…乱れを鎮めると啖呵をきったものの、全くどうすればいいのかわからないんだが。…
とヤオ。
…私も全く想像がつかないわ。私たちにできるのかしら。…
とユエ。
その二人を見ながら、縁は、
ー厄介なことになってきたなぁ…。私が旅に出るとだいたいなにか起こるんだよなぁ…。ー
とため息を着いた。
そこに船長が、
「おいおいおいおい!縁様!今のは龍神か?!黒水溝の主か?!」
と駆け寄ってきた。
「そうだよ。黒水溝の主だそうだ。」
縁はボヤき気味に言った。
船長は帽子を脱ぐと、海に向かって深く礼をした。船の中を見ると、船乗りたちは全員帽子を脱ぎ、龍神が去っていった方へ頭をたれていた。
そしてーーー
船が動き出して数時間、日がどっぷりくれた頃。台湾は、台北の港に劈浪号は着いた。
ザワリ、ザワリ。
縁と陰陽の化身たるヤオとユエは感じる。そして、常に3人に付き従い、感覚が研ぎ澄まされているヤンガも感じた。
ー空気が、あつい。島が泡立っている。ー
その感覚が全員にあった。
「これは思ったより、厄介そうですね。」
ヤオが呟く。
他の3人も頷く。
ーー島が悲鳴をあげている。
台湾の龍脈で何が起きているのか――
その答えは、龍脈へ赴くまで誰にも分からない。
そんな未知の世界に、4人は立っているのであった。




