三十話︰初めての出会い
『人間の魔物』が入ってきた部屋の側壁に開けた大穴。身を乗り出して外を見てみる。
俺が連れ込まれた拷問部屋は随分と高所にあったようで、街の光が遠く遠くに窺えた。
察するにこの建物は、城塞都市から離れた郊外から魔物の接近を観測する砦のようなものなのだろう。
部屋の血痕はすべて拭き取ったし、『人間の魔物』は追い払い、再び国の外周で魔物の警戒に当たらせている。
そんなわけで、俺は空に向かって炎魔法を放つ。
火柱はぐんぐんぐんぐん高くに伸びて、まっくろな夜空が橙に瞬いた。
『少しでも身の危険を感じたら空に魔法をぶっ放して。二秒で駆けつける』
ノンディアさんは今朝の別れ際にそう言っていた。
「──────ダアスちゃんどうしたの怪我とかしてない大丈夫!!?」
「うぉっ速っ……!!」
炎を放ってから一秒六七後、ノンディアさんは部屋の中に飛び込んできた。
お仲間を探して一日中飛び回っていたのがいい練習になったのだろう。カーブ時も音速を超えており、それでいて着地した部屋の中は全く荒らさない完璧な制動。
将来有望にも程がある成長曲線を前に、俺は戦々恐々である。
「………………別にどこにも傷はないみたいだけど……ダアスちゃんなんで国の端っこまで出てたの!?私移動したら危ないって言ったよね!!」
「えっあっあっ、いやこれには深い事情が……!ほ、ほら!ノンディアさんのお仲間さんたち見つけましたよ俺!すごいでしょう俺!」
ノンディアさんの忠告を今の今まで完璧に忘れていたゴリラは必死になって話を逸らす。
俺の指差した方向にノンディアさんの視線が滑り、コクリコさんとパクレットさん、お二人の姿を目撃した瞬間、彼女の肩がびくりと跳ねた。
「────な、なんで二人が一緒にいるの!?無事だったの!?」
「このとおり無事ね。ごめんね、ちょっと特殊な魔物が近郊に現れて、その対応に追われてたの。片っ端から人員かき集めて外に出てたから城に誰もいなかったと思うけど」
「…………だとしても書き置きくらい残してよぉ!何かあったかもって思ったじゃん!!」
ノンディアさんは疲労感を感じるため息を吐き、けれどちょっとだけ頬を緩ませる。
パクレットさんのほうをちらりと見て、眠たげな様子で机に突っ伏し手を振っている姿を目にし、呆れたように苦笑していた。
「あぁもう、全くもう………………ダアスちゃんとはどういう経緯で?」
「ぐうぜんここでばったりと。実を言うとノンディアが国に帰ってきてるって事自体、彼からついさっき聞いたの。ダアスくんありがとね」
コクリコさんは平気な顔で嘘を言い、朗らかに笑って俺の頭を撫でてきた。
「………………ど、どういたしまして」
本人からすれば記憶通りのことを言っているだけなので、全く無理もない罪のない嘘だ。
コクリコさんとパクレットさんに施した『改竄』は『洗脳なんてなかった』。ノンディアさんが操られていることに気がついたこと、それに付随した俺への拷問をお二人は完璧に忘れてしまっている。
コクリコさんの驚くほどの態度の急変の理由は、やはり彼女は元々悪い人ではなかったということなのだろう。ノンディアさんの仇でなければこんなもの。普通に人当たりのいい優しい人だ。
しかしながら、わかっていても身体に触れられると若干寒気が走る。ブチ切れられたのがトラウマになりつつあるのかもしれない。
まあ、それはそうとして。
「…………そ、そう!そうなんです!お仲間お二人はノンディアさんの帰郷を知らなかったので、こんな迅速に合流できたのはお二人を見つけた俺のおかげなんです!というわけでノンディアさん役に立ったご褒美を頂いてもよろしいでしょうか!」
「えっ、ダアスちゃん欲しいものあるの?いいよいいよ!何でも言って!」
「やった!デートしてください!」
ノンディアさんはポカンとしていた。
コクリコさんもわけがわからないという表情で、パクレットさんだけが寝息をたてている。




