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さえこさん  作者: 古木花園
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第1章 黒目秋人 6

「なんだよコレ…」


まっ暗な廊下を突き進み、階段を降りてようやくたどり着いた出入口は入ってきた時と変わらないのに開く様子がない。全くあかないトビラを開けるために何度か蹴破ろうと試みたが、ビクともしなかった。


「…これもあの幽霊たちの仕業だってのか…」


黒目は希薄な笑いがこみ上げるのを必死に抑える。こんな馬鹿げたことがあるわけがない。

幽霊など、人の心の不安や隙間に出来た溝を埋めるように現れた妄想や幻覚の類いなのだ。決して現実ではない。まっ暗な場所、使われていない旧校舎。

そして七不思議。これら全ての条件が幽霊を妄想するのに適した要因だっただけだ。

そして、この扉もただ古いために立て付けが悪くて、開きにくくなってしまっただけだ。


「…幽霊なんているわけがない。ただの妄想、たまたま地震が起きた、そして、何らかの催眠にかかったんだ」


自分にそう言い聞かせながら放置されていた消化器を持ち今度は窓ガラスに思い切りぶつける。ガンと金属同士がぶつかりあった音を立て床に転がり落ちる。黒目は窓ガラスに瞬時により、当たったところを見た、そこには一切の傷跡もなく、びくともしていなかった。


「嘘だろ…」


こぼれ落ちる言葉はこの状況に落胆した声だった。


「認めるしかないのか、しかし、幽霊なんてどう対抗したらいいんだ…」


黒目は見た目は陰気な空気を醸しているが、かなりフットワークが軽く、あらゆる格闘技に精通している。とはいえ多少かじったという程度でさほど自信はない。

ましてや相手が幽霊という、肉体を持たないであろう相手など闘える訳もなく、逃げるつもりで出入口に来たのに封鎖されて外には逃げれない。あの子供の幽霊は実害が無さそうだが自分だけだと何をされるかわかったものではない。

校舎全体を揺らす超常現象を起こす幽霊など危険に決まっている。

そして、幽霊の存在を認めるのならば「首吊り女教師」は実在することになる。

黒目は悪い冗談だとため息をついた。


ぞわっ…


背筋をピリッとした電気が流れた。

それは危険に対する電気信号。黒目は真後ろに何か迫ってくるのを感じた。タッタッタッと小さく、でも確実に足音が聞こえる。

それはひとつではない。

何人かの足音は徐々に近づいてくる。

黒目はとっさに消化器を持ち上げ曲がり角に身を寄せる。

ごくり。

固唾を飲み込み、必死に消化器を構えるがこんなものが役に立つのか不安でしかない。走ってくる足音はあと数歩という所で止まった。

黒目は額から流れる汗を無視し、止まった原因に思い当たってしまった。

月の光がちょうど自分の影を作り出していたのだ。その影は真っ直ぐ伸び黒い湾曲を廊下に伸ばしていた。

黒目はまずいと悟ると2歩後ろに下がった。

すると、ガシャン!と激しい轟音を立てながら先程いた所に斧が突き刺さっているではないか。

肝を冷やすとはこのことを言うかのように引っかかった斧を抜き取り、ふらっと斧を振り抜いた何者かが姿を見せる。


「あ、く、黒目くん。なんでこんな所にいるの?白石さんと一緒だと思ってた。」


「お前は…神凪有栖。お前こそなんでこんなところに…」


アリスは少し考える仕草をとる。

挙動がいちいちおかしいのを抜きにして、黙って立っていればこの子はお人形さんのように綺麗で愛らしい見た目をしている。

まん丸の目をその秀逸な丸メガネで覆い隠していなければもっと可愛いらしいだろう。

もしくはそれが可愛いのかもしれないが。


「わ、わ、私はし、白石さんを手伝おうと…」


「手伝おうとしてそんな物騒なもの持ってんのか?」


訝しげな視線を送る黒目に気圧されたアリスは目を器用にそらす。


「こ、これは護身用に。悪霊に効くようにおまじないをかけた呪斧よ。」


「そ、そうか…」


黒目はじゃっかん顔をひきつらせながら、呪斧を手でスリスリと愛でるアリスをみる。そしてすぐにこのことには触れないことにした。


「まぁ、なんでもいいや、じゃあちょっと手伝ってくれよ。白石とはぐれちゃってさ。見つけないといけない。」


「わ、わかりました。目的が同じなら、て、手伝うわ」



神凪有栖は仲間に加わった。

そんなテロップが流れるイメージを頭に浮かべつつ、少しだけ頼もしさを覚えた。こういう幽霊の類は黒目の専門外で、すごく詳しそうなアリスのような人間がいっしょにいるだけで心強いというものだ。しかし、先程の足音は、1人ではないように感じたが。


「で、何処にいったか、わ、わかる?」


「だいたいならな。多分はぐれた田中を探しにいったんだろうが、あのまま進んだとすると音楽室辺りかな」


「音楽室…ちょうど真上ね。」


「何が?」


「いや、教員トイレの。彼女の真上なの。あの音楽室。」


「あー、そう言えばそうだな。…なにかあると思うか?」


「ええ。とっても。」



そう言ってアリスは不気味な笑みを残した。


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