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くんくん

「いったい、なにが…?」

クグラの疑問の声。

イェゼ君越しにそちらを窺うと、尻餅をついたまま不思議そうな顔をしているのと目があった。怪我は無さそうだ。

「…お、お嬢さんは、大丈夫ですか?」

クグラが、私との間に入る見知らぬ少年を気にしながら聞いてきた。

「平気よ。クグラこそ…」

クグラはほっとしたように「なら良かった」と言い、立ち上がる為に、投げ出していた足を体側に折りまげる。


「立てますか?」

イェゼ君がクグラへ一歩踏み出し、手を差し延べながら言った。


紳士なイェゼ君、大変素敵です。

でも、絵面としては微苦笑を誘う。

22歳男性を9歳の子供が助け起こせるとは思えない。

ゴメンね。その可愛い手、真っ当な大人なら逆に取れないよ?引き倒しそうで…。


「ありがとう。どこも何ともないですよ。…ところで、貴方はイェゼ・グユエン様でいらっしゃいますか?」

助けに出された手に、温かい笑みだけで応えてクグラは問うた。

問いかけの形だったけど、確信してるよね?


商隊は移動中、本部と密に連絡を取っている。

商隊の留守中に決まった縁談だが、皇族との縁は商談の場では強力な後押しになるから、商隊には、決定後何より急いで連絡されただろう。

再婚話を知っていれば、私を姉と呼ぶ彼が誰かはすぐに解る。


イェゼ君が「そうです」と頷くと、クグラは苦笑気味に相好を崩した。

イェゼ君が差し出していた手を、更にクグラ側へ伸ばしたので、クグラは握手のために取り、そのまま深々と頭を下げる。


「このようなままで、失礼します。私はダルテ・エッカ様の補佐でクグラ・ポーレと申します。以後お見知りおきを」

出された手を頼りに立つ訳にも行かず、握手に逃げてクグラは胡座をかいたまま挨拶した。


「クグラ殿はエッカの家と縁の深い方と姉上に聞きました。俺も今日からこの家の末席に加えてもらいましたが、商隊については全くの素人ですので、先達のクグラ殿には色々と教えていただきたい。よろしくお願いします」

イェゼ君はにっこりと笑みを浮かべた。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


挨拶を終えたクグラが手を離しかけると、イェゼ君はその手をグイッと引っ張って、いとも簡単にクグラを立たせてしまった。

クグラ、軽っ!…な訳ないか。

その証拠に、子供に簡単に引き起こされたクグラの目は、先程以上に見開かれている。


弟君、何かの体術を会得してる!?

驚くクグラをよそに、意外な怪力を披露した弟君は、クグラを引っ張りあげた自らの手をじっと見ている。


三人に無言の時間が落ちる。

あの、これ、何待ちですか?と思ってたら、怪力の子犬君がこちらを向いた。

「姉上。残念ですが二人きりは少しお預けです。商隊の現状でクグラ殿に至急確認すべき事があるようです」

「そうなの?うん。私は全然いいよ?」

クグラは忙しいから、手短にね?と内心思いながら承諾する。


イェゼ君がクグラに向き直った。

「クグラ殿。商隊に体調不良者は出ていませんか?それも、おそらくは街に近くなってから」

「…それは、どういう…?」

イェゼ君が声を落として言った指摘に、クグラはわずかに眉を潜めた。


え?クグラ…まさか不調な人が居るの?

クグラは若いが、ダルテ様にかなり交渉術を仕込まれている。

仕事絡みとなれば、なまなかな揺さぶりでは、穏やかな表情は滅多に崩れない。

今のは単に外聞の悪い言いがかりに、不快を現しただけかも知れないけど。


イェゼ君の指摘に、商隊が分けられて戻ってくるという情報を思い出した。

もしも本当に居るなら大変な事だ。

体調不良者の出た外域から戻った商隊は、普通なら西域の外周壁の検疫に入場を阻まれる。

外の病や、害悪などを西都へ持ち込ませない為に。


「隊の扱った品物にレグリウナ所縁の何かがあるでしょう?おそらく香炉か、引出しのある小物入の様な…それが“触り”を起こしてる」

イェゼ君はクグラから目を離さず、思い出すように言葉を続けた。

「!!」

クグラは声は出さなかったけど、一気にひきつった顔が『あれか!』って言ってる。心当たりあるのね?!


さ、“触り”って、呪術のかかった文物を媒介に怪異が起きるってやつだよね…?

商隊に何が起きてるの!?

…で、どうしてそれが解ったの?弟君…


イェゼ君は青くなった私達にニコッと笑いかけた。

「心配いりませんよ、陰陽宮では、よくある事象です。俺が対処しますから、お祖父様のところで相談しましょう。クグラ殿、詳しい話はそちらで。いいですね?」

否も応もあるわけがない。

「「よろしくお願いします!」」

よく解らないまま、陰陽宮の冠三位様に、私達は揃って頭を下げた。

サブタイトル。いつも困ってるけど、今回も思いつかなかった。

弟:くんくん…(手の臭いを嗅いでる)

姉:ど、どしたの…?(ちょっと引き気味)

弟:手がエンガチョになったんで洗ってきます。

姉:あー、うん、どぞ。(遠い目)

クグラ:…エンガチョ…

弟:(戻ってきてカップル繋ぎ)さ、ちゃっちゃと片して、早く離れで…ふふっ♪

ーーーこんな変なの、閲覧に来てくださる方が仏に思える今日この頃ですーーー

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