なぜかフルカウンター
昨日書けてたけど、アイタタ過ぎて上げるの躊躇ってました。でも今更ですので出します。
荷車が近づく。過ぎるまで子犬君が動かないようホールドしとかなきゃ。
「接近、気づいてますよ?」
「なら、早く避けなきゃ。異界を使うのは最終手段だよ」
「そう…なんでしょうね」
くぐもった声。彼は私の胸の間に顔を押し付けていて、表情は見えない。
「5層も、俺には当たり前に存在してたので、つい使ってしまいます。うるさい分、利用でもしないと…煩わしさに階層ごと滅してやりたくなる…」
!!ここに恐怖の大王がいます!!
私の体に異界滅亡を囁かないでーッ!私の体は裏山の穴じゃないからっ!心の声を漏らさないで!
背中に回された手が、私の背中をゆっくりと円を描いてさする。私の動揺を宥めようとしてくれてる?
「俺は滅多に危ないことにはなりません。そして、姉上は俺の全力で守ります」
背中の手が止まり、彼は私の胸の間へ静かに長く息を吐いた。まるで、私の体を通して手のひらに息が届くように。
あぁ、5層を通せば息は届くのかもね。それで何になるのかは、君にしか解らないけど。
イェゼ君が顔をあげて、私の顔を見る。
「怖がらないでください」
何を、とは言わないんだね。
怖いものはないと言いながら、どこか危うげな瞳。
ここに来てようやく、彼との危機感の差を思い知る。彼を害せる物はないから、どこで立ち話しようと不安は無いわけだ。
それよりも彼には別の懸念がある。
はぁー。じゃ、不安を取り除いて、4層的にさっさと移動しようか。
荷車は通りすぎたし、今は誰も通ってない!
よ、よし…!!
気合いを入れると、繋いだ手を離して、両手で彼の肩を掴むと、えぃ!と引き剥がした。一瞬、彼の目が哀しげに揺れるのが見えたが、構わずに私は動いて、
チュ…!
弟君の頬に唇を押し当てた。
素敵な弾力の頬に触れた瞬間、掴んでた肩から彼の体がビシっと硬直するのが伝わってきた。
あー…、ごめん。失敗だったかな。
君の事が、怖いか、怖くないか、もだけど、それよりも『私は君が好きだよ』って伝えたかった、それだけなの。
うん?彼を捕らえた手に、震えが伝わってくる。え?なんか、ぶるってるけど、拒否反応?
さっき、キスしていいって言ったよね…?
顔を離して、彼を見て……即座に土下座したくなった。
ど う し て
普通に『きゃっ』ポッて感じにならず、辱しめられたみたいになってんの!?こっちがドン引きだよ!!
あんま言い表したくないけど…私に肩を掴まれて震えているのは、例えて言えば…『痴漢されて半泣きの男の子』…しかも『ちょっと感じちゃって困ってる』的な?
いえいえ。『感じる』って、どんな感じなのか、自分には未知の感覚ですけどね…
もしくは、まさにアレだ。
ユゥミ先輩に見せてもらった、ちょっとエッチな講談本の『あぁん…いやぁ…らめぇ…!』って爛れてた場面の感じ。
子供も見ていい本だったから、何したのか具体的には書かれてなかったけど…。
ちょ、待てやコラ!狸姉のチュウは猥褻行為の扱いか!!
弟に姉が『すきだよ、ちゅっ』てして、なぜ卑猥な空気になるのだ。
卑猥って思う人が卑猥なの?私が汚れてるの?
さっき散々、君から口にチュウしてきたよね?あれ私の妄想だった?
「…あ、…あね、うぇ…」
はっ!!
震える唇で吐息交じりに呼ばれた。
うん、舌ったらずですね。
蕩けた目をして、お口は半開きで赤く濡れた舌が覗いてます。
弟よ、相当なおバカさんに見えるから口は閉じておくれ。
これ、端から見たら完全に私、有罪だ。
たぶらかすつもりは、なかった…などと、自分が言う日が来ようとは。
あー!もー!きぃぃー!
しっかりしようよ、男の子でしょ!
あんまりしつこく惚けてると、歯ぁ食いしばれーって、一発いくよ?
私の不穏な心中に当てられたかのように、彼の体から強張りが解けて、よろりと倒れかかってきた。うわわわ!
慌てて抱き止めると、彼はするりと腕を巻きつけてきた。…抜かりないな…
「…良かった…うれしい…」
胸にもたれ目を閉じて、うっとりと呟かれた。
あ、そうなの?嬉しかったの?感動でふるっふるしてたの?…そりゃ良かっ…、って、良くないわ!!
嫌じゃないなら、怪しげなリアクション止めてよね!
「良くないよ。ほら、ちゃんと立って。危ないでしょ?」
「大丈夫。俺を傷つけられるのは、姉上だけですよ」
薔薇色の頬を緩め、彼は幸せそうに笑う。
私は傷つけませんって!…あ、ビンタは、しようかと思ったけど。
「…全然大丈夫じゃないね。イェゼ君、壊れてる」
「…それは、姉上のせいですよ?責任取ってくださいね」
ぎゅっとしがみつかれた。
イカン!少しずつは平常モードに戻りつつあるけど、これ以上、バカ姉弟っぷりが人目に触れる前に、この子早く隠した方がいい。
そうだよ、早く移動する為に、チュウしたのに!
あ、でもあれだけは伝えとかねば。
「あのね、イェゼ君。私が異界の事、教えて欲しくて聞いたのに、ここで全部聞けなくて、ごめんね」
状況が許せば君の異界体験談はぜひ聞きたい。
「いえ。俺は充たされてますよ?」
しまった…。
打ち明け話ってタイミングが重要なんでした。
相手は話したがったのに、その場の状況で後で聞く事にして、場を変えて話振ると『なんか、もうよくなっちゃった』っての。
時間の経過で話す気分が失せる位なら、大した話じゃないんだろうとタカをくくってはいけない。
女子に何度かそれやると、会話の波長が合わない認定されて、打ち明け話が来なくなる。そして、疎遠になって気づけば友達じゃなくなってる。
周りの空気より、女子は気持ちのピークを優先しなくてはならないのだが。
周りが無駄に気になる私はソレが苦手だ。
「そう…?あ、でも。途中で遮っちゃった話あったよね?離れに行ってから聞かせて?」
イェゼ君は女子ではないけど、君の話大事だよアピールしておこう。女子ではないから保留が有効だといいな。
「…?あぁ。視点を変えて階を重ねる話ですね」
「…かな?それ、後でゆっくり教えて欲しいな。離れなら二人だけだから、落ち着いて聞けるし」
パッと弟が顔をあげた。目はキラーンで犬耳がピコーンと立ってる。どした?
「そうですね!早く用を済ませて離れに行きましょう!」
俄然、移動する気になってくれたみたいだけど…もしや、二人きりってのに反応した?
またグイグイ来る気じゃなかろうな。これ二人きりになったらヤバイ感じ?チュウしたの、まずったかな…。
学習能力低いって、自覚したほうがいい?
「さ、行きましょう!昼食を先に頂いて、後は誰にも邪魔されないのがいいですね!」
気づけば、さっさか恋人繋ぎに戻った彼が手を引っ張っている。
元々リードを引っ張りすぎる犬の前に、骨をぶら下げてしまったかも…。
ちょっとえっちい講談本を沢山持ってる、耽美大好きユゥミ先輩。




