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小心者のジレンマ

「そうですね。異界は、俺にはとても近しい所です。俺の目には、今俺達がいるここに、異界も重ねて見えています」

「重ねて見えるの?」

「はい。我々のこの世界と異界は、別の階層に別れていると言われていますが、離れた場所に存在しているんじゃないんです」

「えっと、私が祓い師に聞いたのでは。建物の一階と二階みたいな関係だけど、それを繋ぐ階段は存在しない、そんな感じだったんだけど…?」


イェゼ君は『よく出来ました』という顔をした。

「その通りです。それと、補足ですが、ここを含めて世界は8層あると認識されています」


え?そんな細かい説明も今するの?それなら…この話、もう少し続くよね?


ごめん!待って!!


彼は、ふつ~に話してますけど、

今もイェゼ君の向こうを、大人達が三人がかりで、台車押して行きました。ガラガラガラって、かなりデカイ音立てて…。

イェゼ君、周り見えてるんだよね??


「我々の居るのは4層。それに仇なす異界とは、5層の事です」


イェゼ君、喧しい周囲にも全く動じません!

はっ!もしかして、普段から異界が見えてる君は、興味ない物は無視出来るスキルを会得してる?


でも、凡人の私は周りが気になって仕方ありません!

ごめん!『この際、話を聞いとこう』って、ここで異界の話を振ったのは確かに私です。異界の話自体にはすっごく興味あったし、聞ける機会なんてあまりなかったし。

でもここで聞くのは失敗だったと素直に認めます。話はサラっと終わってくれて良かったの。

そのつもりだったの。


異界の仕組みなんて、どう考えたって、渡り廊下の立ち話で、レクチャーしてもらう話じゃ無いでしょ!?


第三者から見れば、子供が二人お手繋いで、この大人がクソ忙しい時に、渡り廊下で立ち話だなんて、無駄に目立つし、通行の邪魔だよ?イラつぼ押しまくりじゃない。

私の居たたまれなさが天元突破です!


私は会話に失礼のない程度に、視線を周りへチラチラ飛ばしてみるが…、


「この4と5は、基本的には接してはいないのですが、霊力が強ければ、簡単に往き来できます。霊力は階層を隔てる壁に邪魔されないんです」


淡々と説明続けますか…

ブレないね、さすがの冠三位!唯我独尊、表彰もんだよ!

でも、マジで、頼むから、空気読んでッ!!

今も書類抱えて走って行ったエッカ商会の事務員さんがチラッとこっち見て『何してんだ?お嬢さん?』って顔してた。できれば『そこ危ない、邪魔』って言ってって欲しかったな。


焦りで溢れる私の感情と、弟の解説の理解を並列思考で処理していくのが、そろそろしんどい。

ここで終わらせる!


「うん!霊力があれば、四階と五階はピョン!と移動できるのね?なぁ~んだ、とっても近いんだ。じゃ、怖がらなくても、いいんだねっ」


私の軽ーい答えにイェゼ君はぱちくりと目を見開いたけど、「そうです」と及第点をくれた。


やたー!頑張って深刻にならないように締めました。真面目に続ける気失せたでしょ?

はい。この話はおしまいです!


真摯に答えてくれていた弟君には、失礼極まりないけど、私が君に無礼と思われても、周囲から君を守れるなら、お姉ちゃんに悔いはない!


イェゼ君はにっこりと笑った。

「姉上は理解が早い。そして、近しいのと同じく、階層は視点を変えることにより…」


うぉおい!!エンドマーク無視すんなよ!!

もう異界の話は終わりにするの!


「ちょ!待って!!」 

キョトンと可愛い顔された。くっ!さっきのパチクリと今のキョトン顔、大好物だよ。

でもね!ここでこれ以上は、どんなに噛み砕いた説明でも私が無理。


げ!向こうから来てる荷車、そのまま進んだらイェゼ君ちょっと危ない!

繋いだ手を引っぱると、彼はそのまま抱きついてきた。繋いでない手を背に回して、彼は私の左胸に頬を押し当ててフフと笑う。


「柔らかいね、どきどきしてる…」

うっとりと呟かれました。

そーゆーこっちゃないんですが…まだ胸の脂肪は少なく心音は伝わりやすいですか?

だが弟よ。胸の大小に係わらずそれはセクハラです。

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