可愛いふりして割とやる
廻廊の内側の慌ただしい動きを横目に入れて歩きながら、私は受け入れの流れを弟君に説明した。
「商隊が着いたら、まずは本宅区画の外で一旦待機になるの。そこで、届いた荷の受け入れの順番を確認。大まかな荷分けをして、物によっては、そのまま外の倉庫に納める。
でも大体は広場に入れて、商隊の報告と照合しながら現物を確認。品物を各倉庫へ収納して、外回りの作業はおわり。
その後で、商隊従事者の精算と、賃金の支払い。で、ようやく最後に皆集まって、終了宣言が出て、解散。
品物の受け入れは、時間こそかかるけど、そんなに問題はないわ。品物は喋らないから。
それより、商隊に参加してる人の事で、毎回何かあるのよね…」
ずっとエッカで雇っている人は、いいのだが、初めての雇用者は、本宅に着いて荷を下ろしたら終わりと思ってしまう人がいるのだ。
個人の旅ならそれでいいけど、商隊は荷を片付けて終了宣言が出るまでが雇用期間。
着いたとたんに賃金をもらって帰れると思ったり、荷から離れて炊き出しに突進したり、順番無視して勝手にお風呂に行っちゃったり…。
結構な割合でトホホな大人が発生する。皆、疲れてるから人の話聞いてるようで、聞いてないからかな~。
あと、どさくさに紛れて、人足から泥棒にジョブチェンジしちゃったり…。
連連と思い出すままに話して、「今回は平穏だといいなぁ」と結ぶうちに、使用人棟へ繋がる渡り廊下まで来た。
ここで曲がって、大外の廻廊から内側へ入る。
前方を人や荷車が横切っていくが、特に何もなく、渡り廊下を半分位まで来たところで、右手から荷車が来た。
あ、反対からも荷車がガラガラガラッと、結構な勢いで…え?ちょ、そのまま行ったら…!
「荷車ッ!双方、左に寄れ!!」
ふぇっ!いきなり横から発せられた怒声に私はビクッとなった。
慌てて声の主を見ると、本当にこの子から?と疑いたくなるような、普通~の顔をしていた。
君、一瞬前に怒鳴った…よね?
警告を受けた荷車は、各々が左に進路を取ったので、無事にすれ違えた。
私達の前を荷車が通過する際、引き手がチラッとこちらを見たので、「お疲れ様です…」と言っておく。
知らない人だったけど、イェゼ君を見る目が「さっきの声は、この子供が??」と言ってた。
噂が回るのは火の手よりも早い。
ウチが貴人と縁者になったのは、とっくに国中に知れている。
先の引き手も落ち着けば、大人を一喝した見目良い子供の正体に思い当たるかもしれない。
ともかく、事故にならなくて良かった。
「衝突、避けられたのイェゼ君のお陰だよ。ありがとう」
と、お礼を言って、また歩き始める。
「いえ…間に合ってよかったです」
「イェゼ君、すごかったね。私なんて『危ない』しか浮かばなかった。それだって言えなかったし…」
可愛い態してるけど、彼は陰陽宮の冠三位。
命令はされるより、する側。とっさに指示したあたり、号令かけ慣れてるのかな。
「咄嗟の対応は、訓練と慣れですよ」
「…訓練してるんだ…」
訓練されて、実践できる9歳児…。
この国って結構怖い国なのかもしれない。
イェゼ君は、スゴいと言われて照れたのか、謙遜の笑みを浮かべる。
「大したことないですよ。それにさっきのは回避出来なきゃ、片方を異界にやっちゃえば済みました」
はいぃ??!!衝撃すぎて、思わずつんのめりかけた。
「姉上っ、大丈夫ですか?」
彼が繋いだ手を器用に引いて、私の体勢を立て直してくれた。
「ごめん、ありがと…」
「いいえ」
心臓がバクバクしてる。
断じて、ときめきのドキドキではない。
だって!イェゼ君の警告聞かなかったら、どちらかの荷車は、異界にやっちゃわれてたんですよっ!?
その『やっちゃう』ってなに!?
もしかして『殺る』ですか?
異界がどんなとこか知らないけど、ほうりこまれたら、只人に自力で帰還は無理だ!
私は顔がひきつるのを止められない。
怖い!怖すぎだよっ!
手のひらのくすぐりは、いつの間にか終わっていて、今は掌をぴったりと合わせて、手を繋いでいる。
どうしよう。さっきから、じわっと手汗をかいてきてるのですが…。
手汗が気持ち悪いからって、私を異界に放り込むのは、やめてね…?
誤字直しました。




