皆忙しそう
マルラが通用口を開けた。
どうなってるかな~♪
「お嬢様、イェゼお坊ちゃまを頼みますよ」
…はい、浮かれてちゃ駄目だね。
ふふっ。マルラはイェゼおぼっちゃまって呼ぶんだね。うちの子って感じだよ~。
「任せて!」
マルラに続いて、通用口を潜る。
主家のある一画は本宅区画より階段にして、10段ほど高く地盤が築かれている。だから、門の前に立つと、少し高みから見渡す感じになる。
開けた視界では、人々や荷車がバタバタ、ガラガラと土埃を立てて、盛んに動き回っていた。
見慣れた顔も、知らない顔も、目の前のことに一杯一杯な様子で準備に奔走している。
いやはや皆さま、お疲れさまです。
階段を降り、本宅区画を囲む廻廊に入ると、そこでマルラと別れた。
マルラの担当は、区画外での炊き出しと、宿泊施設の準備。気をつけて行ってね。
私達はそのまま手を繋いで、廻廊を台所へ向かうべく歩き始めた…のだが、実はさっきから、ずーっと気になってた事がある。
弟と二人きりになったので、もう切り出してもいいだろう。
「イェゼ君。くすぐったい…」
歩いてた間秘かに、彼と繋いだ私の掌は、彼の指先に玩ばれてました。
絡めた指はそのままに、手のひらだけが離されて、彼の親指が私の掌をこしょこしょと、しきりに動きまわっていたのだ。
地味にくすぐったい。
そういえば部屋でも、私の手の甲をコショコショしてたよね。もしかして、くすぐるの好き?
「イェゼく~ん?」
止めてほしいの意を込めて、疑問形で呼んでみる。
ヤメレ!と念を込めて彼を見て…一瞬で後悔した。相手は自分の武器を熟知している。
「もう少しだけ…だめ?」
返す刀は、キラキラで、うるうるな超甘えモード。
必殺のおねだりを使うトコがそこなの!?おかしくない!?
色々、物申したいけど……まぁ、別にダメと言うほどでは無い…。
「…もう少し、なら」
負けた。
「姉上、大好きです」
負けてあげたら、二の腕に頭をスリッスリされた。
親指がまた、さ迷い始める。こそばゆい…。
弟くん。
君の『大好き』を、ちょっと安いなー、と思い始めてる私がいるんです。
お願いだから、無駄使いはやめてね。私には、君からの『好き』は、とても貴重な言葉だから…。
「立派な廻廊ですね」
イェゼ君が感心した声をだした。
足元は石畳が敷かれ、外側の片側だけ壁が造られている。壁には所々格子窓がはめられている。上部には、壁と等間隔の柱に支えられ、屋根も付けられている。
廻廊は、最初は本宅区画内の主家を除く全ての建物をぐるりと囲んで四角く造られた。その後、廻廊と主要な建物を繋ぐよう増設され、建物同士にも廻廊よりは簡単な造りだが、屋根付きの渡り廊下が付けられた。
今では主な建物は、周りのぐるりと建物間を上手く移動すれば、雨に濡れず足元も泥々にならずに移動できる。
とても便利な一方、廻廊と渡り廊下だけを辿ると、移動効率が悪い。
しかも、片側の壁は、周りのぐるりだけでなく、一部の渡り廊下にも、防犯と延焼防止用に作られている為、うっかり壁にぶつかると途切れるまで迂回させられる。
だから、今日のように忙しく、移動を急ぐ時は、誰も大外ぐるりの廻廊や渡り廊下側は通らず、人も荷車も廻廊の内側の、渡り廊下のない側をショートカットで動いている。
縦横に動く人々は、雑踏に慣れているのか意外とぶつかったりしない。器用なものだ。
一応のコツはあるけどね。
秩序なく人が行き交う場所で、ぶつからずに歩くのには、顔はあげて視線は固定せず、少し先をボンヤリ見るように視界を広く取る。その中で近づいて来るだろう相手の、早さと方向を予測して、早めに回避する!だそうです。
あと、急に止まっちゃ駄目。
人が多いところを歩くの苦手で、よくぶつかってたら、見かねたダルテ伯父様が教えてくれました。




