イベント参加の前に
私と弟とマルラの三人で、表玄関に向かう。
離れに行くなら裏出口からの方が近いが、いったん本宅の台所にお菓子を取りに行くのだ。
お茶だけなら離れでも出せるが、お菓子までは置いていない。
この皆が大変な時に、暢気にオヤツ等と、普通なら罰があたりそう。
ま、ウチは『忙しい時こそ、食べられる時に、食べたい人が、勝手に食べる』が暗黙のルールなので、許されるでしょう。腹が減っては…ってやつだ。
なんなら、ちょっと時間早いけど、こっちでお昼を食べちゃってもいいかな?
それなら、離れにお昼を運んでもらわなくて済むし。台所の様子と弟君の空腹具合によるが、一考の価値ありかも。
「姉上、少しいいですか?」
イェゼ君が繋いだ手を軽くにぎにぎして、話しかけてきた。ハイ、なに?
「先程言われた、事情というのを伺っても?」
はい。オヤツの事より、報連相でした…伝達怠ってたよ。反省。
私は歩きながら、隣国に行っていたエッカ商会の商隊が、これから戻ってくる事。しあさっての到着予定だったから、受け入れ準備が整っておらず、急遽対応中だと話した。お義母様はお父さんと一緒に、お祖父様の手伝いをなさることも伝えた。
「それは、大変ですね」
「大人は手一杯になるから、不便がかかっちゃうかも、ゴメンね」
廊下の窓から既に、塀の外の煩さが伝わってきている。外では、もう皆バッタバタしてるんだ。
「いえ。皆が協力して乗り切る局面です。俺も何か出来れば…」
イェゼ君がそう言ったところで、玄関に着いた。
「ありがとう。先ずは、受け入れ場の設営で力仕事が多いから、私達が手伝えるとしたら、もう少し後かな。ね?マルラ?」
「お願いする事が出来たら、離れに連絡しますよ」
マルラがニッコリ笑って請け負ってくれた。二個イチなら、呼んでくれるかな?
あれ?私、この子隠す気満々だったのは、どうなった…?
扉を開けたとたん、塀の向こうのあちこちで上がる喧騒が、耳だけでなく体に押し寄せてくる。
屋内にも、ざわめきは届いていたが、その比ではない。
閉ざされた正門横の通用口に手を掛けたマルラが、こちらを振り返る。
「本当は、こちらは危ないので、裏から直接、離れに行っていただきたいのですが…」
そうだよね。そうなんだけど…
「ちゃんと気を付ける。台所だけで、ウロチョロしないよ。でも、いっそ私達も食堂でお昼を済ませたら、って思ったんだけど…」
台所と食堂は隣り合わせ。台所は調理場と、食材と出来た料理の保管庫と、洗い場になってる。食堂は食べるだけの場所。
台所は身許の判る者しか入れなくて、食堂は誰でも出入り自由。でも食堂は人目があるので危なくはない。
「まあ、食堂だけでしたら…そうなさっても結構です。昼の準備はできておりますので、お二人のお腹次第ですね。ただやはり、食堂では落ち着かれないのでは…?」
マルラは私の顔を見たが、イェゼ君を気にしているのだろう。
「イェゼ君、今の話どうかな?」
「俺なら、何時でも平気です。煩いのには、軍の食堂で慣れてます」
イェゼ君が頼もしいことを言った。軍とか、意外と骨太なんだね。
「じゃ、台所に着いて決めよっか」
「はい」
なんて従順で、しやすいお子様なのだろう。
…番についてだけは、頑なになっちゃうけど。早く目を覚ましてね…
「お二人とも。外に出たら、荷車には充分に気を付けてください。止まってても、荷が崩れてくることもありますから、不必要に近寄らないように。死角も多いですから側で座り込む等は、もっての他ですよ?いいですね?」
マルラが私達の顔をしっかり見て念押ししてきた。
「はーい」
「気を付けます」
“危険は避けられないけど、減らすことは出来る”
商隊の出入りの度に言われてきた忠告に、姉弟で返事をする日がくるとは思わなかった。
弟が怪我しないよう、私がしっかりしなきゃ。
このざわめきを聞いてから、お菓子の云々で来ることにしたけど、彼に本宅側の様子を見て貰いたい気持ちが、どんどん増してきてる。
弟君にウチの事を知って貰いたい。
これからだって機会はあるだろうけど、ここまで緊急なのは珍しいし。
あれ?彼は既に仕事を持ってるから、皇都に戻ったらこっちに来る機会ってあまり無い?
じゃ、やっぱり今回、少しでも商隊に関われたらいいね。




