子犬は着脱式だった
「すぐ離れに行かれますか?」
マルラおばさんの声に、子犬弟からマルラへ目を戻す。
「うん。その方がいいよね」
弟は私の宝なので隠す!
「では、茶菓はあちらへ…」
うん、喉渇いた。つか、弟君がお菓子食べてるとこ見たい。
「あ、それなら。離れに行く時、貰っていくよ。イェゼ君に屋敷内を案内するって言って、全然見てないし、」
と、その時。ついついっと後ろから服の袖が引かれた。ハッとそちらを振り返ると、私の斜め後ろ、マルラ側からは見えない位置に、イェゼ君が寄って来ていた。
全然近づく気配無かった。猫属性も有りか!?あ、兎狩りとかする小型の猟犬?特技は狸狩り…。
「姉上~」
じーっと見つめる眼差しが『こっち見たのに、まだ放置すんの?!』と言っている。
「紹介して?」
イェゼ君が小さな声でお願いしてきた。
はっ!そうだよね、ごめんなさい!
お二人が到着した時、広場に集めた皆に、お祖父様がさらっと紹介しただけだ。使用人側は個別に名乗ってない。
イェゼ君は弟になったのに。
マルラは母親代わりの人なのに。
こういう気の回らないとこが、私はダメだな。
イェゼ君をグッと引き寄せる。あ、嬉しそうな顔しないでね、乙女じゃないんだから…。
扉を大きく開いて、マルラおばさんにイェゼ君を見せる。
「イェゼ君、マルラ。遅くなっちゃったけど照会するね」
イェゼ君はマルラを見上げて、にっこりと上品に微笑んだ。とたんに溢れだすセレブオーラが半端ない。
頭を下げてから、名乗ろうとして口を開きかけたマルラが、思わず目を瞬いて動きを止めてしまった。うわ、こんなマルラ珍しい。
「イェゼ・グユエンです。マルラさんは姉上の育ての母ですね?俺も、こちらの子として受け入れてもらえるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
イェゼ君!麗しい微笑みで圧倒したまま、さっさと先に名乗っちゃったよ。
…マルラを立ててくれてたんだ、ええ子や~。でも、マルラは更に硬直しちゃった…。
「っ、申し遅れました。マルラ・ポーレでございます。お嬢様の育ての母とは勿体のうございます。微力ながら、コーフェ様、イェゼ様のお役に立てるよう、心よりお仕えしたく存じます。何なりとお申し付けくださりませ」
マルラが深々と礼をとると、イェゼ君はゆったりと頷いて、するりと私の体に両腕を回して抱きついてきた。
ん?
「あなたには言っとく。この人は俺の番だから」
ぐはぁっ!ええ子やと思ってたのに、イキナリ爆弾投げよった!
マルラはあまりの驚きに、顔だけあげた姿で固まってる。
「そのつもりで、宜しく」
そう言って、イェゼ君が浮かべた笑みは子供の表情ではなかった。命令する側の顔…子犬はどこーっ!?
「…かしこまりました」
ぎゃー、待ってマルラ!そこは了解しなくていい!
「ねーっ?姉上っ」
私は承諾してないって!
マルラは、すーりすーりと私に懐き始めた彼と、半眼になった私を、困惑気味に見ている。当然の反応をありがとう。すっごく安心するわ…。
弟は私の肯定を待っているようだが、しませんよ!もう移動するから「ねー?」は放置。
「イェゼ君。お祖父様がね、事情ができて、これから本宅は煩くなるから、離れで過ごすようにって。今から、あっちに移るよ」
「はい!姉上と一緒ならば、どこへなりと」
さらりと言って、弟君は私に巻き付けていた腕をほどくと、手を繋いできた。
…やっぱり恋人繋ぎするんだ…。
マルラが私たちの繋いだ手をちらりと見た。
この子そういう病なんです。
まだ9歳だし、温かい目で見守ってやって。
…お願いだから、もう少し眼差しの温度上げて?生温いから…。
はあ、お義母さまも、忙しいのか。
お昼の時に愛息の残念な現状を知ってもらって『子供が何を言ってるの!』『姉と、つがっちゃダメ!』と正してくれるのを、密かに期待してたんだけど。
もうこの際、誰でもいいから、突っ込み人求む。エッカ商会に、突っ込み担当を派遣してもらえないかな…。
彼の黒歴史が広まる前に。
一部ちょっと訂正しました。




