痛姉でスマヌ
「うわ、イェゼ君。あの看板見たの?」
「ガンナーレってヤツの顔が知りたくて、見に行った」
はい、ここでちょっと解説させてね。
スーリブ劇団の設置してる看板は、扉サイズの板を横にしたものです。
3分の2が絵で、そこに上演中の作品のガンナーレの見せ場が絵の具で描いてある。絵の横の空いたとこには絵の解説と、公演情報。かなり派手です。
そして、この看板は末っ子三男のガンナーレだけじゃなくて、ちゃんとお兄ちゃん達のもあるのだ!
長男エリュド兄のは、画塾のユゥミ先輩が、中兄パムディは、同輩のフーリエちゃんが担当。
ふっふっふ、兄達のはそりゃもうスゴいんですよ!
私達三人は、ちょっと画風が違うし、宣伝を広める意味もあって、一枚ずつ別々に設置されている。
描く内容はネタバレにならない程度に、見た人の興味を引くようにを念頭に、基本は絵師の趣味丸出しで描かせてもらっている。
私のですら結構楽しく見てもらえてるみたいだけど、兄達のなんて新作出たら女の子が押し掛けて、毎回もう大変。夜中に盗まれた事も度々あるくらい。
この看板を出すようになって、三兄弟ファンが一気に増えたのだ。
そもそもは、私がファンレターに入れたガンナーレの絵を見たパム兄が「なんだこれ?そっくりで笑えるー!!これ、劇場の表に貼れよ!」と大笑いしながら言ったのが発端だそうです。ガンナーレの兄の物真似は激似だ。 じゃ、話戻ります。
「ガンナーレ本人は、私の絵の5倍は格好いいからね!」
「姉上は、ああいうタイプが好みなの?」
イェゼ君の目に剣呑な光。
「顔もだけど、演じてる時の彼の表情が好きなの。スケッチには連れて行けないけど。一度舞台を観てほしいな。今度一緒に行こうよ」
「デートのお誘いか。嬉しいな。でも劇は興味ない」
何気にバッサリ切ったな。
「スーリブ劇団、面白いよ?筋立てがしっかりしてるから、今は三兄弟が注目されて女性客が目立つけど、元々は男性客が多い劇団だったんだから」
「ふうん。退屈したら寝るけど、それでいいなら…」
演劇、好きじゃないのかな?
「台詞に詞遊びが多いから、頭を使わされるよ。でも、面白くなかったら、私にもたれて寝ていいから。なんなら、膝も貸すし」
パシパシと膝を叩いて言う。
ん?彼の目がキラーンと光った?
「行く。いつでもいい、時間なら空ける」
まさか、寝る気満々じゃないよね?
「それと、スケッチについては、俺の同席無しに姉上は行かせない」
「え?!お願いだから、来ないで。あ…、ガンナーレと舞台以外で会ってみたいから、じゃないよね?」
イェゼ君が露骨に嫌な顔をした。
「絵を描いてる姉上と、描かれていく過程が見たい」
げげっ!描かれていく過程とな!
それ聞くまでの一瞬に、彼ら二人が並んだら超目の保養だなとか、並んだ二人を描けるじゃないかと心が揺らがないではなかったが、もう絶対無理!連れていけない。
「それなら、尚更無理!描いてるのを見られるの、昔から苦手なの。ごめん。勘弁して」
本当に嫌なので、平に頼んだ。
ま、ガンナーレと二人になるなと言われても、素描の日を内緒にするとか、彼が異界巡回の時にすればいいんだけど。
今後、絵を描いてる時に覗かれたくないから、ここでしっかり拒否っておかねば。
「姉上が向けるヤツへの意識を奪えるなら、行くしかないな」
弟君は楽しそうに意地悪な笑みを浮かべた。
しまった。言い方失敗した。
「いやいやいや、気にはなるけど、君の相手はしないよ。描いてる間はガン無視だから」
「気になるんでしょ?無視出来てないじゃん」
ククっと笑われた。
あ、なんか、駄目だ。
この子、私が入られたくない領域を解ってくれない。
思わず視線を下げた私の顔から、表情が落ちた。
自分の気持ちがどんどん下がって、冷たくなっていく。
ここからの私は、弟君からは、投げ遣りな感じに見えるかもしれないが、もう、どうでもいい。
「そうだよ。未熟だから、見られてるとどうしても気になる」
あちらが気を使ってくれないなら、私もそうさせて貰う。
「部外者がただの興味で、私の意識を逸らすのが、言いようもなく不愉快。描いてる時に、横や後ろから覗かれたら、見るな、あっちへ行け、行かないなら即死ね!って思う位イヤなの」
言葉の刃を振り回す。
これはあくまでも、私個人の希望。
人前で見られながら描くの全然平気、むしろ見て見て?って人は沢山いる。そういう人、心底尊敬します。
さて、この私の暴言に対する、正しい相手の感想は『ちょっと見たぐらいで大袈裟に何言ってんだ?自意識過剰かよ!てめえごときの絵なんざ興味あるか!自惚れんな、三流!』です。
弟よ、OKですか?顔あげられなくて表情が確認できないけど。
弟から突っ込みが来ないので、もう少し心情吐露いきます。
「描いてる時、私の周りにあっていいのは、対象物と光と画材だけ。私のただ一つの取り柄の絵の事だから、くだらない拘りだけど、作業中は不可侵と解ってくれない人がいたら、最初から描かない」
つまらなさそうな不機嫌声で長々と、自分は未熟で狭量なのだと、大変偉そうに述べた。聞いてる方は不愉快だよね。ごめん。
君に好かれたいのは本当。
でも、ある部分では近寄られたら迷惑。
それをキチンと説明できず、いきなり刃物振り回すみたいな真似してる。
人付き合い苦手だからって、今日すでに大概ヤラカシタ後だといっても、改めてこれはマズイ。
イェゼ君は、私の勝手な言い分を黙って聞いていてくれた。
いやー、変なのと姉弟になっちゃったね。ごめんよー。
さて、呆れてるか、怒ってるか?…と、ゆるゆると彼の方へ視線をあげると、え?!顔色、白っ!
ちょっと、大丈夫!?
姉、かなり面倒くさいヤツです。ただ、地雷さえ踏まなければ、チョロい。




