2 デスウルフ
弓を引きぼったところで、俺はスキル『罠技』の「罠形成」を使った。
俺の手の中に矢が形成される。そう、これは『指が離れると、矢が飛び出る』という『罠』を形成したのだ。
つまりこの矢は現実物理の矢ではなく、魔法によって形成された仮現質――ミラージュで生成されたものだ。多くの物理的感触がある魔法は、このミラージュを元に魔法素材を形成する。
この罠魔法による矢形成なら、矢を持ち歩かなくて済む。矢は本数が限られてる上に、荷物になって敏捷性が下がる。
その課題をクリアするために俺が考えたのが、罠による矢の形成だ。
順序は逆になるが、安全圏で戦うために弓を選択したらやたら不便だった。そこで考えたのが罠魔法による矢形成で、その一番の適正職として、俺は盗賊を選んだのだ。
弓矢の攻撃は、他の武器術のように気力で威力を乗せることはできるが、体力による加算はない。その分、弓矢は技能性でダメージ補正がある。
それに加えて『罠』も技能性によるダメージ加算がある。罠による弓矢は、通常の弓矢の威力の低さをカバーできる仕掛けなのだ。
「――という事で、こっちからいかせてもらうぜ」
俺は引き絞った弓を放つ。矢は俺に向かって吠えているデスウルフの眉間に見事に――刺さらない。
「やっぱり、ダメージにはなんないか」
多少のダメージはあるが、デスウルフの毛並みの防御力は滅茶苦茶で、今の俺のレベルの弓矢がダメージを与えられることはほとんどないだろう。
「ヴヴ~ッ! ガウガウガウガウバワゥワゥッッ!」
けど怒り狂ってる。それでいい。
俺は罠で弓を作りながら、それを放つ。
「ガウゥッ!」
顔に当たる矢が、ダメージはなくとも鬱陶しいらしく、デスウルフは室内に下がる。
だが室内に下がっても、俺は遠間から弓矢で攻撃し続けた。
「ガルルルル……」
飛んでくる矢を顔の振りで払いながら、デウウルフは唸り声をあげる。
怒りが溜まって来てる感じだ。
「いいぞ――もっと怒れ……」
俺は罠矢を飛ばし続ける。と、デスウルフの眼がカッと開き、凄まじい咆哮を上げた。
「ワオオォォォォンッッ!!」
室内全体の震わせるような遠吠えだ。そしてデスウルフの眼が、赤く光った。
「今だ!」
俺は扉から室内に駆け込む。
と同時に、ようやく射程距離に近づいた俺を、デスウルフが最大の技で噛み殺しにかかる。
デスウルフの最大噛みつき技――それで『ファング・デストラクション』。これはダメージが3000ポイントに昇る技。
……つまり、俺を30回は殺せる破壊力だ。
「これを待ってたんだ! ――『妖精の加護』発動!」
俺は『妖精の護符』の機能、『妖精の加護』を発動させる。
と、俺の全身がピンクの光に包まれる。
「ガバオゥッブッッ!」
そこに猛り狂ったデスウルフが、恐ろしい牙を持って俺を噛み砕きにきた。
「ヒッ!」
あまりの迫力に思わず声が洩れ、俺は本能的に手甲で身を守ろうとした。
しかしその瞬間――妖精の加護の光によって、デスウルフの攻撃が食い止められている。
「今だ――『技盗み(アタック・スティール)』!」
盗賊の固有スキル『技盗み』は、相手の攻撃技を盗める――というスキルだ。
しかしその攻撃を盗むためには一回それを喰らわなくてはならない、というのが条件だ。
つまり、自分のHPの最大値を超えないような攻撃なら盗めるが、自分を瞬殺できるような攻撃技は盗めない。
この仕様により『技盗み』は典型的な「使えないスキル」扱いされてきて、全く見向きもされなかった。
「けど、お前の『ファング・デストラクション』を盗めれば――」
デスウルフから、俺に光の粒子が流れ込んでくる。よし、『盗み(スティール)』完了だ。
「あとは――『逃げ足』!」
猛ダッシュで扉へ向かう。
「バアゥッ、ワウッ!」
ヤバイ、追いつかれる。扉に向けて俺は思いきりジャンプした。
「ガアアアゥッ!」
ジャンプした俺のつま先をギリかすめて、デスウルフが鎖によって止められる。
俺は扉の外に転がり出ると、ぐるぐる回転しながら回廊に出て、やがて止まった。俺はごろんと横になる。
「……ヒューッ――いやぁ……ヤバかったな――」
俺は息をついた。けど――
「クックックッ……ハァッハッハッハーッッ!! やった! 俺はやったぞっ!!」
俺は寝転がったまま、勝利の喜びで雄叫びを上げた。
* * * * *
一息ついた後、俺は別の場所に移動していた。それは『妖精宮殿』だ。
ここには、やり残した事がある。
俺は妖精宮殿に入った。すると大きな青い丸い結晶を顔に嵌めた石人形――フェアリー・ゴーレムが俺に気付く。
「よう――今度はちゃんと、決着に来たぜ」
「ピピピピ……」
反応してる。俺を『妖精の護符』を盗んだ盗賊として覚えてるのか?
それはどうか判らないが、ゴーレムは俺に向かって来た。
「煙幕! ――察知」
俺は辺り一面に煙幕を張りながら、どんどん横へ走り奴から距離をとる。
「罠! 罠! 罠!」
俺は素早く辺りにトラップを仕掛けていく。素早さでは俺の方が上で、しかも奴はまだ俺を見つけきれてない。俺の察知スキルがそう教えてくれる。
この罠は前にも使ったとりもち罠だ、あまりゴーレムに対するダメージはない。
が、動きは止められる。
「煙幕解除」
いきなり灰色の煙幕が晴れる。と、ゴーレムはとりもちに足を取られていた。
俺は離れた場所で弓を引き絞る。
「罠形成の矢!」
俺は矢を放つ。それは狙い違わずに、フェアリー・ゴーレムに突き刺さった。
俺はゴーレムがとりもちから脱出する間、狙い撃ちにする。
「ピピピ――」
ゴーレムがとりもちから脱出すると、俺は素早く、俺とゴーレムを結ぶ線上に罠がある処まで移動!
まっすぐ敵に向かって来る性質のゴーレムは、また罠にかかる。
「ピピピピッ!」
「驚くよな。けど、それが罠の使い方ってもんだ」
そして俺はまた罠矢で狙い撃つ。
しかしこの戦い方をずっと続けられる訳じゃない。
仕掛けた罠はどんどん潰され、俺との線上に何もなくなる。
「けど、結構ダメージあったろ?」
俺はナイフを取り出した。そこで俺は『技盗み』と対の技を発動する。
「『技なぞり(トレース・アタック)』――ファング・デストラクション!」
俺のナイフに、いきなり巨大な狼の幻影が重なった。
この幻影はデスウルフから盗んだ『ファング・デストラクション』のミラージュ。これでこのナイフは、ダメージポイント3000超えの凶器になった。
「ピピピピ――」
ゴーレムが俺に向かってくる。巨大な石のこん棒を俺に振りかざした。
俺はもちろん『妖精の加護』を発動させる。だが、それだけじゃない。
「スキル『刺し違え』発動!」




