第三話 冒険者登録の準備 1 カプセル宿屋にて
宿屋の主人に教わったように行くと、カプセル宿屋なるものがあった。
石造りの高層建築で、妙に立派だ。
中に入ると、小奇麗なカウンターで対応される。
……なんか、モロにファンタジー世界の宿屋だった前の宿屋とは大違いだ。
「お部屋を案内します」
男性スタッフに連れられて、階段を上がる。あ、さすがにエレベーターはない、と。で、男性スタッフが言う。
「右が男性エリアで、左は女性エリアです。男性は立ち入り禁止です、くれぐれもご注意ください」
「はいはい、判りましたよ」
……明らかに俺の元の世界のカプセルホテルっぽい。っていうか、これ作ったの、絶対、転生者だろ。
――で、男性スタッフに案内されると、三階建てのカプセル個室がある。
「こちらが鍵です。中ではお静かに。――それでは」
俺の個室は――23B。真ん中の個室ね。
木製の扉を開いて座るだけの背丈しかない個室に潜りこむ。
「これ、電気あるのか?」
ふと見ると、スィッチはある。押してみると、灯りがついた。
電気はないんだろうから……魔道具的なものか。
とりあえず布団は敷いてある。狭苦しい空間だが、寝るには問題ない。
俺はそのまま、そこで横になり眠りについた。
――翌朝、俺は施設の細かい処を知った。一階には食堂と大風呂があったらしい。なるほど、こりゃ便利だ。昨日のうちに気付いとけばよかった。
しかしまあ、のんびりしててもしょうがない。やるべき事はある。
まずはステイタス・オープン!
そう、スキルポイントは残り8ポイント。ここで最も重要なスキルを取得する。
そのスキルは――
――『技盗み(アタック・スティール)』。
フフ……なかなか『盗賊』っぽいスキルだろ? これは盗賊の固有スキルだ。
これで残り7ポイント。
ここで思いきって、俺はメイン武器のスキルを取得する。
それは――『弓術』! 一気に5ポイント取得してカンストし、残りは2P。
罠技もそうなんだけど、多くのスキルはレベル5でカンストだ。で、それで終わりなのではなく、そこからはスキルポイントではレベル上昇できず、実際に使用する中で成長させないといけないのだ。
というわけで、準備を終えた俺はカプセル宿屋を出て武具屋に向かう。
武具屋に入り、よさげな弓を物色する。
俺は半分に折りたためる魔弓を手に取った。
「これ貰おうか」
「ふむ。矢は何本いる?」
「矢はいらない」
俺は武具屋の主人に、にっと笑ってみせた。
不思議そうな顔をする主人に、俺はさらに付け加える。
「あと、この手甲を貰うよ」
「お、それはミスリル製の高級品だぞ、なかなかいい処に眼をつける」
「高いんで片っぽだけな」
「そうか。まあ、好きにしてくれや」
店の主人はこだわる様子もなく、必要な武具を売ってくれた。
手甲を左腕にはめるのが俺のスタイルで、これは簡易な防御に使えるし、手の甲にまで伸びてる部分を使えば裏拳で殴ったりできる。
ミスリル製にしたのは、ミスリルが強度が鉄以上なのに、がぜん軽いからだ。
盗賊である俺のスタイルは敏捷性が命で、重い武具はつけたくないし、長い剣なんかも持ちたくない。
弓も当然、動くのに邪魔になる長いものは持ちたくない。金はかさむが、普段は折りたたんであって、伸ばして使える魔弓は携帯に便利だ。
こうして準備は完了する。
さて、今日は気合を入れていかないといけない。目指すは――
――『デストワイライト迷宮』だ。
デストワイライト迷宮――それは本来、俺みたいなまだレベル10の駆け出しが行っていいような場所じゃない。最低でもレベル60は必要――と言われる上級者向けのダンジョンだ。
そこの迷宮は、入り口がそもそも難関だ。その迷宮の入り口には『地獄の守護者』がいる。
それが――デスウルフだ!
門の前で伏せている超大型の狼。体長は実に10m以上あるだろう。
黒と灰色の紋様が特徴で、こいつの俊敏さと攻撃力は半端じゃない。
レベル60になった冒険者がパーティーで挑戦して、意外に攻略しきれずに逆にパーテーが全滅したりする、最悪の守護者だ。
そんな最強の守護者にも、弱点はある。
実はデスウルフには首輪がついていて、一定の距離以上には門の前から動けないのだ。
門の前の広場はU字型になっていて、門の真正面の柱から伸びる鎖はU字型の広間の隅まで、デスウルフが届くようになっている。
「……けど、実は届かない場所があるんだよな」
俺は門の前に立った。大きい――高さが5m以上あるんじゃないか?
ゲームの世界よりも、大きさ感を凄く感じる。そして豪奢な扉だ。
この扉を開けると、デスウルフが襲って来る。
……判ってはいるが、俺は身震いした。
もし失敗したら死ぬ。間違いなく、レベルの低い俺はデスウルフになんらなすべくなく食い殺される。
ゲームならやり直しがきくが、現実の死がかかってるのに、そんなリスクを背負って挑戦する意味があるのか?
「けど――それが面白いってことだろ……」
俺は口元に浮かんだ笑みを押さえながら、心を決めた。
扉を開く。目の前に、デスウルフが寝そべっている。
俺の気配に気づいて、眼を開けた。俺が入ってきたら、駆け込んでくるだろう。
だから俺は入る前に、掌を向けた。
「煙幕!」
煙幕スキルを使って辺り一面を灰色の世界にしてしまう。
と、同時に、俺は広間に走り込んだ。
――目指すのは右側、端の出入り口部分。
そこだけU字型のドームに、でっぱりがある。そこに飛び込むのだ。
「くそ、視界が――」
察知で意識してるから、デスウルフがこっちに向かって来てるのが判る。
しかし俺は、煙幕のせいで目指すでっぱり部分が、正確には見えない。
「けど――この辺だ!」
俺は最後にスライディングして、広間のでっぱり部分に飛び込んだ。
その瞬間、背後からデウウルフの吠え声が響き渡る。
「ヴ~ワウワウバウバゥッ!」
俺は慌てて、でっぱりの一番奥に背中をつけた。
顔を突っ込んだデスウルフの牙が、目の前でブンブン振り回される。
……ギリギリだ。ギリギリ届かない処で、俺は冷や汗をかいた。
デスウルフは、滅茶苦茶に吠えて荒い息を吐いている。恐い。
この出入り口の僅かな凹み。ここがデスウルフの鎖の届かない、隠れスポットになってることを知ってる者はほとんどいない。あまりネットにも出回っていなかった情報だ。
「ヴーッ! ガウバゥワウワウバウワゥアウッッ!!」
顔だけで俺の上半身以上の大きさのデスウルフが、俺の鼻先で荒い息を吐いて暴れている。――けど、鎖の長さは、やはりこの隠れスポットにはギリギリで届かない。
「悪いが、お前の相手はもう少し待ちな」
俺はデスウルフに背を向け、背後の扉を見た。
鍵がかかっている。
「解錠」
鍵を開けて、俺はそとの非常用出口から通路に出る。
こうなると、こっちに顔を突っ込んでいるデスウルフはそれなりに遠くなる。
デスウルフの顔は、ほぼ扉いっぱいに見える大きさだ。
そこでしきりと俺に向かって吠えている。
「悪いが、安全圏から攻撃させてもらうぜ」
俺は魔弓を取り出して、折り畳みを解除した。
こういう時に近接武器だと、思わぬ反撃を受けることがありえる。
だが、奴の攻撃は、かすっただけでも即死する類のダメージだ。
絶対に、攻撃を受けてはいけない。
そして俺は弓を持つと、その弦を引き絞った。そして――
「罠!」




