3 『盗賊』の本領
煙幕の中に走り出した俺は、ゴーレムの居場所を『察知』で把握しながら、それを遠巻きにする。そして――
「罠!」
俺はゴーレムから離れた場所に罠を張る。さらに走りながら、俺は次々に罠を仕掛けた。
「トラップ、トラップ、トラップ!」
煙幕が晴れてきそうになる。俺はもう一度、煙幕を張った。
そしてゴーレムから離れて、俺は様子をみる。
「ピピピ……」
石のこん棒を振り回しながら、ゴーレムが歩く。と、ゴーレムは俺の仕掛けた罠にはまった。
「ピピ!」
ゴーレムの足にとりもちがくっついている。罠レベル5のとりもち。かなり強力なはずだ。
「ピピピ……」
ゴーレムは不快そうに足を上げて、とりもちから足を引きはがす。多分、これでもダメージはほんの少しだ。だが、それでいい。
俺は煙幕に隠れながら、次々に罠を仕掛ける。
――間違っても、ゴーレムには近づかない。偶然であれ、一発でも喰らったら、即死なのだ。
「ピピピピ――」
ゴーレムは煙幕の中を歩き回り、次々に俺の罠にはまる。
その度にとりもちに足をとられ、それを無理やりに引きはがす。
「ピピ……」
見ると、その引きはがす時に足を形成してる石が崩れている。
小さいが、少しずつダメージを与えているはずだ。
「ピピーッ!」
どうやら怒ったらしい。こんな感情的な反応を示すなんて、ゲームではありえなかったことだ。
――やはりこの世界は、ゲームに似てはいるが、少し違う世界だ。
怒ったフェアリー・ゴーレムは、ブンブンと石のこん棒を振り回し、床を叩きつけて破壊している。
しかしそんな事をしても、やはり俺の罠に引っかかる。俺はまだMPを消費して、とりもち罠を仕掛け続ける。
「ピ…ピピ……」
そんな事を続けて半日。時間にして5時間は経ったろう。
フェアリー・ゴーレムは罠にかかりすぎて足の石が削れ、身体のあちこちが、とりもちで削れている。
そして遂に――ゴーレムは、罠にかかって、とりもちの中に倒れ込む。
そこでもぞもぞ動いていたが……そこからは動けなくなった。
「……これを待っていたんだ、フェアリー・ゴーレム」
俺は煙幕の中を、ゴーレムの元へと歩いていく。
慎重にだ。いつ、とりもちから抜け出して、攻撃してくるか判らない。
しかしかなり接近しても、ゴーレムはとりもちの山の中から抜け出せなかった。
「大丈夫なようだな」
だが――この状況は、ゴーレムを倒すために作ったものじゃない。
俺は煙幕の中、『隠密』をきかせたまま進む。
接近した。もう手の届く範囲だ。
手を伸ばせば相手に、50cm以内の距離へと近づける。俺はそこで、ようやく気配を出した。
「『スティール』!」
俺の手の中に、求めていたものが現れる。これは、フェアリー・ゴーレムが持っていたアイテムだ。それを俺が『スリ』で奪ったのだ。
「ピピーッ! ピーッ!!!」
まずい! 怒り狂って、暴れ出した。
自分の身体が壊れるのも構わず、とりもちを引きはがし動き出そうとする。
「悪いな。お前の相手はしてられないんだ」
俺はそう言うと、とっておきの――盗賊の本領を使った。
「『逃げ足』!」
俺は煙幕の中、猛ダッシュで駆け出した。
ただし扉が閉まった後ろじゃない。
後ろの扉の鍵はもう壊れてしまって、あそこはもう開かないのだ。
俺はゴーレムが元々立ってた奥の方へと走る。
「ピピピ――! ピーッ!!!」
まずい、もうとりもちを脱出してきた。なんて怪力だ、ゲームより強い!
「トラップ!」
俺は別の罠を仕掛けながら逃げ、奥へと走った。
追ってきたゴーレムが、罠にかかる。
それは落とし穴だ。ゴーレムの巨躯が、穴に半分ほど埋まる。
「ピピーッ!」
俺はそれを見ながら、奥の扉へと到達する。やはり鍵がかかっている。
「『解錠』!」」
鍵を開けて、俺は扉の外へと出た。
が扉を閉めようとすると、何かに引っかかる。
「ピピーッ!」
扉にフェアリー・ゴーレムの手がかかっている。
こいつ! 落とし穴からも抜け出してきたのか!
「しつこいんだよ! 罠!」
俺はナイフに罠を作ると、扉から覗き込んだ丸い結晶にナイフを突き込んだ。
それは触ると爆発するトラップだ。
ボム、と爆発音がして、ゴーレムの目の前で爆発する。
ゴーレムの身体が後方にのけぞる。俺はその隙をついて、足で扉を閉めた。
そのまま後ろに転がって、扉を見つめる。
――もう、扉を開けて追ってはこない。
「ふぅ……やっと終わったか」
俺は安堵のため息をついた。
* * * * *
妖精宮殿を出て、森を後にする。
森の外れまで来て、俺はようやく落ち着いて石に腰かけた。
「さて……お宝を拝むかな」
俺はフェアリー・ゴーレムから奪ったお宝を見た。
銀の飾りに、青い結晶が嵌まっている胸飾り。これは元々、ゴーレムの胸にあったものだ。
「『妖精の護符』――これで、俺の準備が半分進んだ」
仕事を終えた達成感に、俺は一人で笑った。
この充実感――人の仕事を助けるのとは別の喜びだ。
この『妖精の護符』は、『戦闘中、一回だけ敵の攻撃を無効化する』という効果のアイテムだ。
あのフェアリー・ゴーレムを倒そうとした時、最大技でゴーレムを倒したかと思うと、その攻撃を無効化されてどん底に叩きこまれる――というので、プレイヤーに相当に悪印象のアイテムだった。
しかし俺は『盗賊』。このアイテムだって盗めるという事に気付いたのは、大きな閃きだった。
「……しかし、今日はさすがに疲れたな」
俺は街に戻ると、酒場を訪れた。店はほぼ満席だったが、偶然、一テーブルだけ空いていた。
席に座って、運ばれたビールと食事をとり、息をつく。
「ふぅ……俺、今日は頑張ったな」
自分にねぎらいの言葉をかけた時、また店のドアが開いて客が入ってきた。
残念だけど、俺で満席になっちゃったんだよね。
女性客の三人組だ。一人がキョロキョロと店内を見回している。
まあ、残念だけど、よその店にいってね。
俺がそんなこと思いながらビールをあおると、突然、女性の声がした。
「あのぉ~、ここ相席ダメですかぁ?」
俺が驚いて声の方を見ると――そこには、くっきりとした胸の谷間があった。




