第二話 出会いと準備 1 尾行者との戦闘
俺はスキル『察知』を取得した。
察知は敵が奇襲を察したり、罠が突然発動するのを察したりするスキルだ。
王宮を追い出されて真っすぐに高原に来たけど――俺を本当に放置しとくだろうか? そこは入念に準備しとかないと、命取りになる。
というわけで、さらに次に取ったスキルはもっと『盗賊』っぽいスキル。
「スキル『スリ(スティール)』!」
いや、あんまり大声で叫ぶようなスキルでもないかもだけどね。
これは俺の手から半径50cm以内にあるものを、俺の手の中に移動させるスキル――つまり、スリだ。
「まあ、なににしろ『スリ』は最重要なスキルだしな」
俺は独り言を呟いて、さらにスキル取得を続ける。2ポイント使ったので、残りポイントは15P。
『敏捷性強化』と『技能性強化』を取得したので、能力値にも変更がある。俺の能力値は、敏捷性が41+10の51、技能性が44+10で54になった。
この数値は実はこの先の『盗賊』としてやっていく上で、凄く重要。
敏捷性も技能性も盗賊にプラス補正がある能力なのだが、俺はさらにそれを強化するのだ。
しかしそんな事をしてるうちに、辺りはすっかり暗くなった。
俺も疲れた。なにせ、異世界転生の初日なのだ。むしろ働きすぎじゃね、俺?
俺は高原から街に帰る。その途中で、ちょっと気になる気配を感じる。
高原にいた時は感じなかったが、街に入ってから尾行られてる感じがする。
……このまま宿をとるか? いや、宿を確認した上で寝込みを襲われるかもしれない。できたら、この尾行者をまかないと。
俺は夜の街を、突然、走り出した。
俺の敏捷性は、それなりの数値だ。結構なレベル者でないと、ついてこれないはずだ。
と同時に、尾行者が実在するかどうか明らかにする。
「『察知』」
『察知』スキルを使うと、俺の感覚に敵の存在が感知された。
後方、30mくらい離れて、俺をつけてきてる。
人数は――一人。俺がLv1だから、一人で充分と思われたのか?
まあ、それはそれでいい。むしろ大人数で襲われなくてよかった。
俺はしばらく、暗い通りを走る。――小道に曲がりこみ、陰に入り込んだ。
「隠密」
俺は気配を暗闇のなかで殺す。と、尾行者が俺の前を通り過ぎる。『隠密』の力のせいで、俺を見過ごしたらしい。
――だが俺は、敢えて出る。ただし、一つ仕掛けをして。
「罠」
足元に罠を設置して、俺は逆方向に歩き出す。
すると、俺に気付いた尾行者が俺を追おうと踵を返す。
そして追って来た瞬間だ。
「グワッ! ――なんだ、これは!?」
尾行者が呻いた。実は『罠』は、『技能性』で与えるダメージの大きさが決まる。
通常、武器のダメージは気力、魔法のダメージは念力で補正がかかるが、罠だけは技能性によりダメージ補正が決まるのだ。
そして尾行者を捕らえた俺の罠は、大きな鉄の歯型みたいな奴で、そのギザギザの歯に噛まれると相当に痛そうな奴だ。しかもそれは重り付きだ。
俺は足を歯型に挟まれて動けなくなってる尾行者に近寄った。
「おい」
「き――貴様!」
重りのせいで動けないくせに、まだ俺に抵抗しようと尾行者は俺に剣を向ける。
俺は無造作に近づいて掌を向けると、一言唱えた。
「スティール」
その瞬間、尾行者の手から剣が消えた。
「あ! ――お、オレの剣が!」
尾行者の剣は、俺の手の中だ。これで尾行者は、もう頼れるものがなくなったわけだな。
「おい、俺の後をつけてたな? ……俺の始末を依頼されたのか?」
尾行者の男は目深にフードを被っており、何も答えない。
俺はそのフードを剥いだ。髪を短くした、少し荒んだ感じの男だ。
「誰に雇われた?」
男は黙ったまま何も答えない。俺はナイフを取り出すと、男に向けた。
「罠」
見た感じは判らないが、ナイフに『罠』を形成した。
「これはな、触ると電流が走るという、罠つきナイフだ。じゃあ、これで触ってみようか」
「よ、よせ!」
抵抗する男に構わず、俺はナイフで男に触れる。
と、その瞬間、男の全身を電撃魔法が襲った。
「グガガガガ……」
痙攣する男を見届けると、俺は手を放してやる。
「結構、きくだろ? 正直、俺が普通に魔法使っても、そんな威力にならないんだけどね」
念力より技能性ががぜん高い俺は、罠の方が高いダメージを与えられるのだ。
「なあ、もう三発くらい食らわしたら、あんた死ぬかもしれないぜ? 命令者に対してそんなに忠義を尽くしても――命令者は最初から、あんたは使い捨ての捨て駒だよ。考え直したら?」
男は目を剥くと、俺に吠えた。
「うるさい! 殺すなら殺せ!」
――正直、答えを聴きたくないような気持ちもあった。
というのも、俺が転生し盗賊となって、王宮を出たのを知ってるのは、ごく僅かな人間だ。
まずキャサナ姫。そしてアーサーたち転生勇者御一行さま。
……そして、侍女長のアガサだ。
姫やアーサーたちはともかく、アガサが俺を殺すことを命令した可能性を考えると――正直、人間不信になりそうだ。
いや、そう考える時点で、結構、人間不信気味と言われればそれまでだが。
けど便利くんな俺は、それなりに便利に使われて、騙されてきたんだ。
ただ、それでもやっぱり人から頼られると、断りきれない。
……そういう性分なんだ、仕方ない。
俺はそう思って、騙されても構わないから頼られたら助けることにしたんだ。そう決めてからは、気がラクになった。あ、忙しくはなったけどね。
ま、それはともかくとして、やっぱり雇い主はちゃんと知っておきたいんだよな~。今後のためにも。
「……しょうがないな。俺を殺して、金を回収しろって命令か?」
「金? なんの話だ?」
俺の不意に言った一言に、尾行者がまた不意に言葉を洩らす。
その瞬間――俺の心に太陽が差した。
「そっか、お前は金のことは聴いてなかったか! 俺はな、50万ワルド近く持てるのさ!」
「……なんだと?」
尾行者が俺の突然の言葉に怪訝な顔をする。まあ、無理もない。
けど、俺は嬉しかった。
だってそうだろ? もしアガサが命令者なら、実行犯に金の回収か、その金も報酬として与える――と、言ってるはずだ。
けど、こいつの命令者は、アガサが俺に金をくれたことを知らなかった。
「……つまり、本命は姫か――」
俺は口の中で呟く。と、不意に俺の脳裏に、アガサの別れ際の言葉が浮かんできた。
“ミクリヤ様、くれぐれも……どうかお気をつけて――”
俺の中で、全てが納得がいった。
「そうか……そういうことか――」
つまりアガサは、姫が俺に殺し屋を差し向けることを、薄々察していたに違いない。
けど、それを反対する立場ではないし、俺にそれを教えることも背任になる。
けど、アガサはいきなり転生させられて異世界に放り出される可哀そうな俺を、助けたかった。
だから俺に食事を与え、身分を与え、金をくれた。それで宿に泊まったり、装備を整えたりしたら、もしかしたら暗殺が失敗するかもしれないからだ。
「彼女の――ギリギリの優しさだったんだろうな……」




