4 俺の固有スキル
首を傾げるチェルシーに、俺は言った。
「『女神の加護』は、固有スキルだ。詳細記述によれば――」
その能力は――『幸運が宿る』
「あ、前に見たことあるんだけど、気にしてませんでしたぁ。僧侶に付随するおまけなのかと、ずっと思ってたんですぅ。だって、『幸運が宿る』なんて――曖昧すぎるんですもの」
チェルシーはそう言って笑う。
しかし俺は訊いた。
「チェルシー……さっきのドロップから何体目で二回目にドロップがきた?」
「え~っ!? 数えてませんでしたけどぉ……20体目くらいかなぁ」
一回目のドロップが四体目で、二回目が20体目――
「僅か24回で、二回のレアドロップ……」
俺は絶句した。けど――今なら判る。
この幸運が、飛竜のテイムを可能にしたんだ!
「チェルシー、君の固有スキルは凄いぞ。この幸運のおかげで、飛竜をテイムできたんだ」
「へぁ~、そうなんですかぁ。なんだか、得した気分ですね!」
チェルシーはそう言って笑った。いや、そんな軽いもんじゃないぞ!
「く~っ! もう二回目だと! チェルシー、早すぎるだろ!」
フィリアが悔しそうな声をあげる。まあ、無理もない。
「しかし……職業適性欄の固有スキルか――見落としてたな」
前世の『アザルド・ファンタジー』では、固有スキルの存在は知られてはいたものの滅多に存在せず、自分にはなかったのであまり気にしてなかった。
しかし……もしや――
俺は自分の職業適性の欄を開いてみる。
俺の眼に、文字が飛び込んできた。
『盗人の矜持』
こ! これは固有スキル! 驚きながら――俺は詳細を見る。
『盗んだものを、他人に施せる』
……なんだ? この曖昧な記述は。
他人に施すって――鼠小僧的なやつか?
けど、それなら残念だったな。俺はなにせ、犯罪を犯さない盗賊なのだ。そもそも何も盗まないんだよ!
まあ、いずれ何か役に立つかもしれん。何もないよりいいか。
エリスとフィリアの二人はどうだろう? 固有スキルを持ってるだろうか。
……訊いてみようかと思ったが、二人ともスライム狩りに夢中なので、後回しにした。まあ、いずれ聞けばいいだろう。
俺たちはその後、スライム狩りに専念する。それなりに皆、ドロップを得て、時間が過ぎていく。
やがてかなりの時間も経った頃、チェルシーが声をあげた。
「三回目のドロップきましたぁ! う~ん、大変でしたぁ」
やはりチェルシーが一番乗りか。多分、チェルシーは、総合計で50匹も狩ってないだろう。
そして俺が続いて三回目をドロップする。数えていたが、84体目だ。
その後、エリスが三回目をドロップ。訊いてみると律儀に数えていたらしく、95体目だったそうだ。
そして残されたのは、フィリアだ。
「くそ~、三回目がドロップしない!」
「よし、俺も『探索』で手伝うぞ。そこから右斜め、50m先だ!」
俺が探索でスライムを見つけ、その居場所を教える。
疲れたエリスとチェルシーは、休憩をしていた。
その間もフィリアは、懸命に剣を振る。
「フンッ!」
ドロスライムが一撃で真っ二つになる。
かなり剣の扱いが、鋭くなった。もしかしたら、レベルが上がってるかもしれない。
そんなことを思いながらも、俺はフィリアに、スライムの場所を教えづづけた。
やがて陽が落ちてくる。けど、三回目のドロップが来ない。
「……ライト――あたしのために、魔力消費しなくていい。あたしは自分で、三回目を見つける」
「なに言ってんだ。つまらない気ぃ使わないで、もう少し頑張れ。お前が見つけるまで、俺はつきあうよ」
俺は軽く笑って、フィリアに言った。
フィリアが一瞬、目を見開いて、慌てたように眼を逸らした。
「す……すまん」
まさか泣いたのか? いや、俺は残業につきあうのは慣れてるんだよ。
頑張れ、フィリア。もう少しだ。
俺が心の中でそう応援した時、不意に俺の探索に大量の反応があった。
「待て、フィリア! それ以上、先へ行くな!」
「――どうしたんだ?」
フィリアの問いに、俺は答えた。
「その先に、30匹以上の反応がある。さすがにその数は危ないから、他に廻った方がいい」
俺がそう言うと、フィリアはニヤリ、と笑った。
「いいじゃないか! 30匹以上いればドロップも期待できるだろう。一気にそいつらを叩く!」
かなりの疲労だろうに、フィリアは強気の声を出した。
俺は苦笑してみせる。
「判った! じゃあ、やってこい。一人で叩かないとお前のドロップにならないから、手は貸せない――けど、本当に危なくなったら、手を出すからな」
「うん!」
フィリアはそう不敵な笑みを見せると、その先の湿地帯に進んだ。
「来るぞ! 注意しろ!」
俺の声と共に、ドロスライムが湿地帯から飛び出てくる。
フィリアはそれを斬り飛ばした。
「さあこい! スライムども!」
現れては斬り、現れては斬り――それからのフィリアは、鬼の形相でスライムの群れを斬り続けた。
途中で、一匹パリィし損ねて、体当たりを喰らう。
「あぁっ! 大丈夫か!?」
「まだまだっ!」
フィリアは返す刀で、スライムを斬り伏せる。
と、いつの間にか横に来ていたエリスとチェルシーが、声をあげた。
「フィリア、頑張って!」
「フィリア~、後で治癒しますからねぇ!」
その二人の声を聴いたフィリアが、口元に笑みを浮かべる。
けど、眼はスライムの群れに集中してる。
もうかなりの数を斬ったぞ。ここの群れだけで25匹を斬った。
「そろそろレアドロップしてもいい頃なんだが――」
見ているこっちが焦る。28…29…30――あと、残り三匹。
「イヤァァッッ!」
気合ともにフィリアがスライムを斬る。31…32――最後の一匹だぞ!
「いい加減に――来い!」
フィリアがそう叫ぶとともに、最後の一匹を斬り伏せた。
と、スライムが消えるとともに金色の魔石が空中に浮かぶ。
「「「ヤッターッ!!!」」」
見ていた俺たち三人が、思わず歓声をあげた。
金色の魔石を、フィリアがバシッと空中で掴む。
と、それを握りつぶした瞬間、フィリアの身体が金の粒子に包まれた。
フィリアが、にっかりと笑う。
「やったよ! スキルポイント、アップだ」
「フィリア~!」
チェルシーが駆け寄る。エリスもそれに続いた。
……大変な苦労だったろうが、まあよかった。
チェルシーに治癒を受けながら、三人は何か談笑している。
いい光景だな。……と、不意にフィリアがこっちを向いて俺に言った。
「ライト、見てたか? 最後のあたしは――決まってただろ?」
フィリアのドヤ顔に、俺は「ああ」と笑ってみせた。




