3 ドロスライムに苦労する
チェルシーが自信なさげな顔で、メイスをもって声をあげた。
俺はチェルシーに言う。
「無論――多分、無理だな」
「え~っ!? じゃあ、わたしはどうすればいいんですの?」
困るチェルシーに俺は言った。
「まず、ちょっと素振りをしてみろ。両手でメイスをもって、足を右足を前にして、しっかり立つ。そして真っすぐ振り上げたら――身体の中心を通る線を意識して振り下ろす!」
俺の指示を聞きながら、チェルシーがメイスを振り下ろす。
絵に描いたようなヘナチョコぶりだが、最初はこんなもんだろう。
「まあ、その感じでいい。その素振りを千本」
「え~っ! 千本!? そんな、死んじゃいますよぉ」
「大丈夫、素振りで死んだ奴はいない。100本振ったら、休む。――という感じで、やるんだ」
チェルシーは不満げな顔で言った。
「え~……どうしてもやるんですかぁ?」
「どうしてもだ。とりあえず基礎の振りくらいできないと話にならないから、それくらいはこなしてくれ。運と――あと、筋がよければ、スキルが発生するかもしれないぞ」
俺の言葉に、チェルシーが驚く。
「え~! スキルってポイントで取るんじゃないんですか?」
「レベル1くらいだと、それなりに使いこなせば、自然発生することがあるんだ。チェルシーは棍棒術のスキルが発生するのを目指して頑張れ。千本振り終わったら、俺を呼んでくれ」
は~い、と言いながら、チェルシーは素振りを始めた。
他の二人を見ると、既にスライムを狩り始めている。
特にエリスの方は『察知』を持ってるから、かなり順調そうだ。
「スティール・ベルト!」
飛んできたドロスライムを、鋼鉄の帯が襲い掛かる。
スライムは饅頭か何かのように、真っ二つになった。
「あ~、これも普通の魔石だ!」
そんな事を言いながら、エリスは魔石を回収している。
まあ、30体倒して一回のレアドロップ率と言われてるから、そうそう簡単にはドロップしないだろう。
フィリアの方は、スライムを見つけるのに苦労してるようだった。
「くそ~、何処にいるんだ、スライム。出て来い!」
そう言って、出てくくるような奴でもないんじゃ……
「お~い、フィリア! 俺の方が片付いたら、探索を手伝ってやる。それまでは自力で頑張れ!」
「判った! よ~し……来い、スライム!」
勢いだけはあるんだがな。俺はなんか微笑ましくて苦笑した。
「さて……俺も自分の分を集めないとな。――『探索』!」
湿地に潜んでいるスライムを探索する。
あちこちに点在するドロスライムの所在が判る。
「よし、じゃあ行くか」
俺はそっと近づくと、慌てて襲い掛かってくるドロスライムを、片っ端から倒した。と――エリスの声が上がった。
「あ! 出ました! レアドロップです!」
見ると、金色の粒を、エリスが高々と掲げている。
「いいぞ、エリス! 手の中で握りつぶせ! そしたら、スキルポイントが加算されるはずだ」
「はい! ――あ! ホントです! スキルポイントが増えました!」
エリスの嬉しそうな声に、フィリアが羨ましそうな眼を向けている。
「くそ~、あたしも早く――」
それからしばらく、俺たちは黙々とスライム狩りをしていた。
俺は26体目で、ようやく最初のレアドロップを入手した。
と、その頃に、チェルシーが疲れ切った声をあげる。
「ライトさ~ん、千本終わりましたぁ」
「真面目にやったみたいだな、偉いぞ。ちょっと振ってみてくれ」
チェルシーに棍棒を振らせると、最初よりはぐっと様になってる。
「うん。ちゃんと真面目に振ってたみたいだな。いい形だ」
「けどぉ……こんなんでスライムが倒せるんですかぁ?」
「無理だろうな」
俺がこともなげに言うと、チェルシーが泣きそうな顔になった。
「え~っ!? それじゃあ、わたしは何のために頑張ったんですかぁ!」
「今のままじゃあ、さすがにレベル5モンスターのスライムでも倒せない。けど、こうすると――」
俺はチェルシーの棍棒に手をかざした。
「罠形成!」
俺は棍棒に、ちょっとした膨らみを与えた。
「え~、何をしたんですかぁ、ライトさん?」
「当たったら、電撃が流れる罠を仕掛けた。電撃棍棒だ。これでドロスライムも、一撃当たれば倒せるはずだ」
俺の言葉を聴いて、チェルシーが腕で胸を寄せて喜ぶ。
「わあ! それなら、わたしでも倒せますね!」
ちょっと、こっちが胸の破壊力に倒されそうですけど!
「うん。これなら、とにかく当てさえすれればドロスライムなら倒せるはずだ。ただし罠だから、一回発動すると、また仕掛けなければいけない。一回使ったら、このボタンを押して、リセットしてくれな」
「わかりましたぁ」
チェルシーはそう笑顔を見せると、湿地帯に進んでいった。
よしよし、これで俺も自分のスライム討伐をしないと。
そう思って、俺は剣を振る。なるべく剣を振って、剣術をレベル6にしたい。
そう思いながらドロスライムを倒すが、なかなかレアドロップしない。
……もう前のドロップから、30体以上は倒してるが――
その時、チェルシーの声がした。
「あ! ドロップしました! 金色の粒ですぅ」
「そうか、やったなチェルシー!」
俺はチェルシーのレアドロップを喜んでやった。
まさか、フィリアやエリスより先にドロップするとは。
そう思ってると、案の定、離れた場所にいる二人から声が聞こえた。
「なんだと~! チェルシーは、もうドロップしたのか~!」
「私たちだって、一時間くらい前からやってるのに……」
確かにそうだ。俺は驚いて、チェルシーに訊いてみた。
「おい、チェルシー、一体、何体目でレアドロップが来たんだ?」
「え~と……4体目?」
チェルシーが指を唇にあてて、首を傾げる。
う~ん、無駄にエロ可愛い!
それにしても早い出現だ。チェルシーは、運が強いな。
「あ! 私もドロップしました!」
少ししてエリスも声をあげる。フィリアは悔しそうにしてたが、やがてフィリアも一匹目のレアドロップを獲得した。
と、いきなりチェルシーがまた声をあげる。
「また、ドロップしましたわぁ!」
「ぬぁにぃ~!」
フィリアが悔しそうに声をあげる。無理もない。
しかし……それにしても早いな。ふと、俺はある可能性に気付いた。
「チェルシー、もしかして職業適正の欄に、自分の固有スキルとか入ってるか?」
俺がそう訊くと、チェルシーは自分のステイタスを見始めた。
「え~とぉ、ライトさぁん! どこを見たらいいんですかぁ?」
チェルシーが声をあげるので、仕方なくスライム狩りを中断してチェルシーの傍にいく。
「見てください~、ライトさぁん」
「あのな、チェルシー、ステイタスってのは、本当はあまり他人に見せるもんじゃないんだぞ」
俺はそう言いながら、チェルシーのステイタス画面の職業欄をピックアップする。進んだ先の記述で、俺は驚きの声を隠せなかった。
「……やっぱりだ――。チェルシー、お前には『女神の加護』がある」
「え~? なんですかぁ、女神の加護って?」
チェルシーはそう言うと、首を傾げた。




