2 新生ミントベリーズ
チェルシーが天に向かって声をあげる。
――何も起こらない。
が。やがて、空の一点から、何かが飛来してくる。
その点は、黒点となり、大きくなって――俺たちの目の前に降り立った。
「ギエェェェェーー!」
着地した飛竜は、一声大きく泣き声をあげる。
デ……デカい。改めてだけど。
「あ~、バンちゃん、いい子ですねぇ」
チェルシーが顎を撫でて、イイコイイコしている。
飛竜もゴロゴロと喉を鳴らしてる。……ネコかぁっ!
「ところで大きさとしては四人乗れそうですけど――背中はあまり安定がよくなさそうですわ」
チェルシーの言葉に、フィリアとエリスも頷く。
それに俺は言ってやった。
「そういう訳で、ここからかが俺の工夫の見せどころ――『罠形成』!」
「「「えぇ~っ!? 罠あぁ??」」」
俺は飛竜の背中に罠を形成した。
それは――飛竜の首にベルトで装着し、四人分の座席が装備されてる特殊な飛竜用の鞍。
簡単に言うと、二つの←←をくっつけた感じの木製鞍だ。
矢印のはみ出た部分がシート部で、ここに斜めに腰かける。まっすぐ座れないのは、飛竜の背中に脚が当たるからだ。
そしてシートより少し手前の中央の棒から、V字型の取っ手が上に向かって取り付けてある。これは座った時に握って、風に飛ばされないための吊り手だ。
「こ、これのどこが罠なんだ?」
フィリアが怪しむように声をあげる。
「うん、座ってみると判るぞ」
「な――なんだって……」
フィリアは躊躇をみせるが、エリスが頷いてみせると、覚悟を決めたらしい。
恐る恐る、飛竜の鞍に座る。と、いきなり声をあげた。
「――うわっちっ!」
「アッハッハ!」
俺はその跳びあがった様子に思わず笑い声をあげた。
フィリアが怒り顔で抗議の声をあげる。
「ひどいぞ、ライト! なんか座ったら、ビリッときたぞ!」
「そりゃそうだ。座ると微弱電気が流れる罠だからな」
俺はなんでもないように言った。
「な――なんだって、そんなものを鞍に仕掛けるんだ!」
「俺が造れるのは罠だけなんだよ。逆を言うと、罠じゃない鞍は作れないわけ。というわけで、座る時にビリッとくるけど、全然、危険はないから心配しないで座ってくれ」
俺は笑顔でそう言って、自分も座ってみた。
ビリッ、とくる。うん、まあ予想済みだ。何を隠そう、俺は昨夜、この構想を練って図面まで描いたのだ。
「ひゃあっ!」「きゃんっ!」
エリスとチェルシーもそれぞれ鞍に座り、可愛い悲鳴をあげる。うん、こんな楽しみが付随してくることは予想してなかった。
が、ともかく俺たちは飛竜の背中に斜めがけに腰かけるように左右二人ずつ乗った。
「ようし、チェルシー、それじゃあ飛竜を飛び立たせてくれ」
「判りましたわ、バンちゃん、飛んで!」
「ギエエェィ!」
飛竜は一鳴きすると、翼をはためかせて上空へと舞い上がった。
「うわぁ……」
「す、凄いな――」
エリスとフィリアが絶句する。
眼下に広がる街の景色と、遠くまで見渡せる地平線。
空の景色は――最高だった。
「ハハハッ。こいつは最高の景色だ! チェルシーのおかげで、素晴らしい景色が見れるな!」
「わたしも……嬉しいですぅ」
前に座るチェルシーが、振り返って笑う。俺は声をあげた。
「よし、新生『ミントベリーズ』の冒険――開幕だ!」
地平線を彼方に見る上空で、俺は高らかに宣言した。
「ところで……これからどっちに向かって飛ぶんですの?」
「西南の方向だ。目指すは――ネクスタリア!」
ネクスタリアは、俺たちがいたファーストリアから少し離れた都市だ。
実はゲーム『アザルド・ファンタジー』では、レベル20にならないとネクスタリアのマップは開放されなかった。
けどここはゲームではないので、当然、都市から都市への移動も可能。レベル8くらいの三人組も街に入れる。
……改めてだが、ゲームの知識にかなり似てはいるが、この世界はオリジナルの現実だ。そして俺は、この世界で頑張って生きて行こうとしているこの女子組と、一緒に冒険することを選んだ。
「……こうなれば、行けるところまで行ってやるさ」
「何か言ったか、ライト?」
フィリアが後ろを振り返り、俺に訊く。
ちなみにだが、前列右がチェルシー、前列左がフィリア、後列右が俺、後列左にエリス――という配置で座っている。
「なんでもない!」
「――もう、見えてきましたわぁ!」
チェルシーが声をあげる。
見ると、城塞都市であるネクスタリアが向うの方に見えてきた。
「よし、じゃあ飛竜を街の右手前に降ろしてくれ」
「判りましたわぁ。バンちゃん、あっちの方に降りて」
「ギィィ」
素直にチェルシーの言葉に頷くと、飛竜は降下を始めた。
街の郊外の荒野に、俺たちは降り立つ。
「チェルシー、帰る時までバンはカプセルだ」
「判りましたわぁ。バンちゃん、この中でおとなしくしててね」
そう言うと、チェルシーはカプセルを飛竜へ向ける。
光線が発射されたかと思うと、飛竜の姿はカプセルへと収納された。
「じゃあ、街に行くんだな?」
「いや、実は街に行くのは後だ。向かうのは、この先のライムス湿地帯だ」
「「「湿地帯?」」」
三人が驚くなか、俺は三人をライムス湿地帯まで連れて行った。
「――あ! モンスターの気配を感じます。この先、100m」
エリスが声をあげる。俺は微笑んだ。
「いいぞエリス、もう『察知』を発動してたのか、いい心がけだ。それは多分、この湿地帯にいるドロスライムの気配だ」
「ドロスライム? ……って、そんな処にわざわざ来たのか?」
フィリアが不快そうな顔をして訊いてくる。俺は答えた。
「そうだ。ここのドロスライムは、レベルに関係なくレアドロップを落とす可能性があるポイントなんだ」
「レアドロップって――なんですか?」
エリスの問いに、俺はにやりと笑って答えた。
「スキルポイントだ」
「「「スキルポイント!?」」」
そう。ここは俺が最初に行ったナノパの森の剣ウサギのように、レアドロップを落とすボーナスエリアなのだ。
「ただし、確率は30匹につき1ポイントで、全部で3ポイントで上限だ。それ以上はドロップしても、スキルポイントは得られない」
「スキルポイント3ポイントのために――ここまで来たのか?」
フィリアが驚いた顔で言う。俺は真面目な顔で言った。
「たとえ1ポイントであろうと、スキルポイントは貴重な戦力だ。それがあるとないとでは、まったく大きな差になる。今日は全員、確実に3ポイントを得るまでスライムを狩るんだ!」
「わ、わかった……」
俺の真面目な声に、フィリアも気圧されて頷いた。
「よし、それじゃあこれは俺は手伝うことができないから、各自、スライムを見つけて倒してくれ。ちなみにドロスライムはレベル5相当のモンスターだから、普通に一撃入れれば倒せるはずだ」
「判りました!」
エリスが頷いて、すぐに動き出す。エリスはもう察知でモンスターの位置を把握してるんだろう。と、チェルシーが困ったような声を出す。
「あの~……わたし、スライムをメイスで倒せるかしらぁ?」




