第八話 婚活パーティー『ミントベリーズ』 1 飛竜、最後の戦い
路地に倒れて動かなくなった飛竜を見て、俺は疲労の中で笑った。
「ハハハ……やったかな。飛竜といえば、相当の格上モンスターだ。こりゃあ、がっぽり経験値が――」
そんな事を呟いた時だった。
不意に俺の右横から何かが来る。
それは飛竜の尻尾だった。
俺は脇腹に飛竜の尻尾の直撃を喰らい、ふっ飛ばされた。
「ぐあああぁぁっ!」
吹っ飛んだ俺は、近くの家の壁をぶち壊して、瓦礫に埋もれる。
「マジか……まだ――生きてたのか……」
くそ……HP10000くらいで、俺のファングデストラクション三発分。なんとかいけてると思ったのに――瀕死ながらも、奴にはまだ息があった。
しかし俺もまだ生きてる。石精の鎧の防御力100がなかったら即死のはずだ。
「う……くそ――もう一発食らわてやる……」
俺は立ち上がろうとして、せり上がって来る血を吐いた。
胸が痛い。どうやら、肋骨が折れている。
だが、とどめを刺そうとしたのは、俺だけじゃなかった。
「く……」
俺の元に影が差す。ボロボロになりながらも、飛竜が立ち上がって俺を睨んでいた。
「ギエエェェェェッ!」
「チ……お前もやる気かよ――」
まずい。もう妖精の加護は使えないし、離脱する体力もない。
ファング・デストラクションは使えるが、俺が先にやられれば当てることはできない。
どうやったら、先に当てられる?
いや、奴の体力も残り本当に僅かのはず。むしろここは――
「罠矢!」
俺は立ち上がって弓を構えた。
これなら俺が先に当てられるはずだ。しかもこれは爆発矢。実効ダメージの罠だ。こいつを先に喰らわせる!
しかし、飛竜の行動は俺の予想を超えていた。
飛竜は傍にあった建物の屋根を鉤爪で破壊し、その瓦礫を俺に向かって飛ばしてきた。
「……マジか」
避ける体力もない。直撃すれば、俺の残り少ないHPがゼロになるだろう。
「くそ……やるじゃねえか、飛竜――」
残念だが、俺の異世界冒険はここまでか。
……こうなると、悪かった気がしてくる。あいつらに、成長の指導をしてやることを引き受けなかったことを。
「まあ……いい相手を見つけてくれ」
俺は苦笑して、瓦礫が俺に直撃するのを観念してうつむいた。
「――パリイ!」
その時、俺の耳に女の声が響いた。
――ウソだろ?
俺が眼を上げると、そこにはフィリアがいる。フィリアは俺の前に立ち、飛んでくる瓦礫を、次々にパリイした。
「フィリア! どうして、逃げなかった!?」
「――恩人を見捨てるようならば……そもそも剣士を志す資格なし!」
フィリアはそう言うと、俺に強張った笑顔をみせた。
当たり前だ、こいつだって本当は恐いに違いない。
「第二段、来ます!」
俺の後ろから声がする。振り返ると――エリスだ。
飛竜はボロボロの身体を起こして、俺のデストラクションを恐れてか、近づこうとはしない。しかし家を破壊して、その瓦礫を飛ばしてきた。
「スティール・ベルト!」
エリスの魔法の鉄の帯が、飛んでくる瓦礫を防御する。
「お前たち……ダメだ! 此処から逃げろ!」
「何を言ってるんだ。相手だって、もうボロボロだ。もう少しなんだろ、ライト!」
フィリアが俺に真剣な眼差しを向ける。
俺は首を振った。
「あいつの一撃で、お前たちは確実に即死だ。頼むから、此処から逃げてくれ」
「飛竜はどうするんですか? ……その矢で撃とうとしていたんじゃないんですか?」
エリスが眼鏡の奥の眼で訴える。
俺は二人の顔を見た。二人は真剣な眼で、俺を見つめている。
「……判った。今から俺が罠矢を撃つ。奴の瓦礫攻撃を防いでくれ」
「判った!」「任せてください!」
俺は罠矢を作り、弓を引き絞る。
「『罠』!」
俺に今できる――最大火力の罠矢。それを持って弓を引き絞った時、俺の肩に激痛が走った。
「ぐぅっ!」
罠矢があらぬ方向へ飛んで、爆発を起こす。
「ライト!」「どうしたんですか!?」
「……どうやら、肩を痛めていたらしい。狙いが――定められない」
俺は歯噛みしながら二人に答える。
視界の向こうでは、爆発に驚いた飛竜が俺を睨んだ。
「ギィィ……ギエェェェェェッッ!」
マズい! 奴の戦闘本能に火をつけた!
飛竜は瓦礫攻撃を捨て、俺に向かって走って来る。
直接、自分の鉤爪で攻撃するつもりだ。
「奴の狙いは俺だ! お前たちは逃げろ!」
「そんなこと――できるか!」
「そうです! ……ここで、迎え討ちますわ! アイアン・ナイフ!」
エリスが遠距離魔法のアイアン・ナイフを飛ばす。
しかし鉄のナイフの全てが、飛竜を傷つけることなく、その鱗に弾かれる。
「え……ウソ――」
「レベル50モンスターの奴の防御力に、お前たちのどんな攻撃も通用しない! 頼むから、逃げてくれ! 俺が後は、なんとか引きつけて仕留める!」
俺は必死になって、フィリアとエリスにそう言った。
フィリアが俺を睨む。
「そんなことを言って――自分が犠牲になるつもりだろう! そんなの……少しもカッコよくないんだぞ!」
「俺は別に、お前の婚活対象じゃないから、なんだっていいだろ! とにかく、逃げろ!」
「そんな事を言われて……逃げられるわけが――」
エリスが眼鏡の奥の眼に涙をうるませて、声を震わせる。
と、そこにもう一人の声がした。
「みんなーーっ!」
チェルシーだ! 手なんか振って、こっちに駆け寄ってきている。
俺は叫んだ。
「バカ! こっちに来るな! 近寄るんじゃない!」
「今、バカって言いました? そういう物言いは、嫌われますよ!」
そんなことを言いながら、笑顔でチェルシーが走って来る。
何を考えているんだ、こんな時に!
「そうだ! チェルシーにライトを治癒してもらえば、最後の矢が撃てる!」
「ダメだ! 治癒してる時間が――間に合わない!」
フィリアの言葉に、俺は首を振った。
しかしチェルシーは駆け寄って来ている。
「ダメだ、チェルシー! 治癒してる暇はない!」
俺はチェルシーにそう叫んだ。しかしチェルシーは、その走りを止めない。
飛竜はもう、すぐそこまで来ていた。
「ギエエエエェェェェ――!」
咆哮をあげた飛竜が、鉤爪を振り上げる。
ダメだ……この攻撃で、俺たち四人全員が致命傷を負う。
せめて俺一人が攻撃を引き受け、あわよくばファング・デストラクションで刺し違えるために――
俺は前に出た。――が、その俺の前に誰か出てくる。
チェルシーだ。なんだ――? 戦闘力のないチェルシーが……何故、ここで俺の前に出る?




