4 飛竜に喰らわせる
煙幕を張った俺は、街の細い小路を走り抜ける。
「隠密」
ある程度走ったところで、俺は近くの家に飛び込んだ。
家人である老人夫婦が目を丸くしている。
「しっ!」
俺は静かにしてくれ、の意味で人差し指を唇の前に立てた。
「あらまあ、もう街の会費集めかねえ」
老婆がそんな事を言って席を立つ。そうじゃない! 静かにしてくれと言ってるんだ(言ってないけど)。
「一万ワルドも集めたかしら?」
「ちが~うっ!」
思わず声をあげたが、飛竜は別方向に行ったらしい。
『戦場を離脱しました』
そんなアナウンスが入る。よし、これで『戦闘中』が一度切れた。
――こっからは、反撃だ!
「おじゃましました!」
俺はそこの家を出ると、喚き散らして街の上空を飛び回る飛竜を見つけた。
飛竜は上空で羽ばたきを起こす。すると、その風圧で家の瓦が飛び、窓ガラスが割れた。
あれを放っておくと、さらに街に被害が出るのは明らかだ。
「奴を地上に下ろさないと、攻撃ができないな」
俺は見つからないように近づき、弓を構えた。
「罠矢!」
狙うのは羽だ。俺の矢が当たる。
「ギッ!?」
矢が当たった自分の羽を見る飛竜。そこには――とりもちがびっとりとくっついていた。
「ギギッ!!」
「連発!」
俺は次々と最大速射で罠矢を撃ち込む。
狙うのは片一方だけの羽。一方だけにとりもちが沢山ついた飛竜は、それを罠矢をかわそうと羽ばたいた。
その瞬間、バランスが悪くて飛竜の身体が地面に倒れる。
俺の罠矢を爆発系にしたとしても、奴の防御力が高くてまともにダメージが与えられるとは思わない。
が、とりもちはノーダメ-ジだが、重量はある。動きを封じるには十分だ。
俺は飛竜の後方から急接近した。
「妖精の加護!」
飛竜が接近してくる俺に気付いて、振り返って鉤爪で攻撃してくる。
が、その攻撃はピンク色に光った加護で防御される。
「今だ! ファング・デストラクション!」
俺はさらにもう一発、狼の牙の一撃を飛竜の腹にくれてやった。
「ギエェェッッ!」
雄叫びをあげる飛竜が、俺を蹴ろうとする。
俺は慌ててかわした。
「煙幕! 逃げ足!」
煙幕を張って視界を消し、俺は慌てて離脱した。
なんであれ、一撃貰ったら即死する可能性がある。
石精の鎧の防御力で、軽減できる分を差し引いても、一撃即死の可能性は拭えない。
俺は逃げ足でその場を離脱しながら、再び『戦闘中』が解除されるまで離れようとした。
――が、その目の前にフィリアとエリスがいる。
「なにっ! なんでお前たち、こんな処にいる!?」
「ライトが戦ってるのに、見過ごせないだろ!」
「バカか! お前たちが敵う相手か! 早くこの場から逃げろ!」
俺がそう怒鳴ると、フィリアの顔に怒りが浮かんできた。
「バカとはなんだ! お前がピンチかもしれんと思って加勢にきたのに、その言いぐさはなんだ!」
「それが余計だってんだ! 死にたいのか!」
「二人とも! 後ろから飛竜が来てます!」
「「なにぃ!?」」
エリスの声で、俺とフィリアは後ろを振り返った。
飛ぶのを諦めた飛竜が、足で俺を追ってきている。
「逃げろ!」
「戦わないのか!? この臆病者!」
「戦うために逃げろと言ってるんだ、この脳筋!」
俺が怒鳴ると、フィリアはヘンな顔をした。
「……ノーキンってなんだ?」
「いいから早く逃げるぞ!」
俺はフィリアとエリスを押して、その場からダッシュした。
が、戦闘中が解除されない。飛竜に見つかっていて、奴がこっちを狙ってるからだ。
飛竜は辺りの建物を破壊しながら、駆け足で追って来てる。
「クソ、意外に早い。こうなったら――」
俺は走りながらステイタスを開ける。
スキルポイントは残り2ポイント。
「『逃げ足』」を2ポイント取得!」
俺は『逃げ足』をLv3にまで上げた。
「おい! お前たちにも一緒に逃げてもらうぞ!」
「なに? どういうことだ?」
「俺のスキル『逃げ足』は、レベル分だけの人数にかけることができる。そしてこの『逃げ足』の最大の特徴は、『逃げ足列車』だ!」
自転車競技などでは風圧をさけるために、一列になって走る。
そうすると、その一団が全体の速さを増して走ることができるのだが、それをこの『逃げ足』では再現できるのだ。
「いいか、とにかく俺について一列になって走れ。かなりの速度で逃げられるはずだ。『逃げ足』!」
俺は二人に『逃げ足』をかけた。
「行くぞ! ついてこい!」
俺は猛ダッシュする。俺の後にエリス、そしてフィリアと続く。
と、俺の駆け足の速度が上がる。
「な、なんだこれは? あたしの脚が速くなってる!?」
「私も――凄い速度で走ってます!」
後ろで二人が声をあげるが、俺はとにかく走り飛竜をまいた。
『戦場から離脱しました』
よし、アナウンスが入った。俺は足を止めた。
「いいか、俺は『戦闘中、一回だけ相手の攻撃を無効化する』というアイテムを持ってるんだ。そのために、一回一回、相手から離脱する必要があった。で、今、離脱したから、もう一度奴に大技をくらわせる。奴のHPは約10000くらいで、俺の大技がもう一発当たれば倒せるかもしれん」
俺の話を、フィリアとエリスは驚きの顔で聴いている。
「そ……そんな戦略があったとは――」
「いいか、とにかく何があっても奴に近づくな。お前たちでは、どういう攻撃を受けても即死だ。もっと離れて、逃げろ。いいな!」
俺はそれだけ言うと、飛竜の元に戻るべく駆け出した。
しかし偶然だったが、『逃げ足列車』のおかげで比較的容易に奴から離脱できた。
そこは感謝しないとな。
そして飛竜が見えてくる。
俺はナイフを持って駆け出した。
「飛竜、勝負だ!」
「ギギェェェェッ!」
飛竜が雄叫びをあげる。
スキル『刺し違え』発動!
これを使えば、風の攻撃ではなく、直接に俺に攻撃してくる。
飛竜は大口を開けて、牙で俺に喰いかかった。
「妖精の加護!」
ピンクの光が飛竜の大口を目の前で止める。
「これを喰らえ! ファング・デストラクション!」
狼のミラージュが、飛竜の大口の中に牙を剥く。
吹っ飛んだ飛竜が、仰向けになって路地に倒れ込んだ。




