3 飛竜との戦い
実は俺たちの泊まっていたカプセル宿屋のお湯は、天然温泉だった!
「なにぃ? そうなら、どうしてもっと売りにしないんだ!?」
「いや……温泉なんて言ったら、風呂を沸かす手間を省いてると思われますので――」
マジか! この世界は、温泉の効能が知れ渡ってなく、温泉を尊ばない文化圏だった!
そんな話をしてる間に、周りから声が聞こえてくる。
「ありゃあ、昨日、転生勇者が取り逃がしたっていう飛竜じゃねえのか?」
なに? まさか……転生勇者って、あのアーサー・ブラックか?
「そうだぜ、見ろ! 少し負傷してる!」
見ると、飛竜の腹にすこ~し、傷がある。
――あいつの中途半端な仕事のために怒り狂って、人間の街に出てきたのか?
しかし、何のために、カプセル宿屋を襲った?
「ああ……うちの建物が――」
カプセル宿屋の二階までが、完全に破壊される。
と、飛竜が天井がなくなった一階部分で、ようやく目当てのものを見つけた。
「温泉を……呑んでるのか――」
一階にあった温泉を見つけると、飛竜はごくごくと温泉を呑んでいた。
そうか、ここの温泉は呑んでも効用のあるタイプだったかぁ。
――とか、呑気なこと言ってる場合なのか?
「ギエェェェッッ!」
いきなり温泉を呑み終えた飛竜が、雄叫びをあげる。
ギロ、と飛竜は俺たち人間に眼を向けた。
「ギエエェェェェッ!」
いきなり翼をはためかせると、突風が巻き起こる。
と、傍にいた従業員が、まともに風を受けて吹っ飛んでいった。
「大丈夫か、お前たち!」
俺は三人に声をかける。三人はなんとか、突風に耐えていた。
「とにかく、建物の陰に隠れろ!」
俺は三人とともに、ダッシュして近くの建物の陰に隠れた。
身をひそめて、様子を伺う。彼女たちは走った勢いで、息をぜいぜいと吐いていた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫だけど――」
フィリアが俺の方を見ている。何か言いたそうな顔だ。
だが、俺は先に口を開いた。
「昨日は悪かった、言い過ぎた。お前たちの二階層突破は、本当によかったと思ってる。ご馳走してくれて嬉しかった、ありがとう」
なんか、緊急事態だから、必要なことを完結に述べましょう、みたいな言い方になってしまった。
「なにそれ……どうして先に謝るのよ」
「そりゃあ、悪かったと思ってるからさ。それで謝ろうと思って待ってたら、俺の『察知』にあいつが反応したんだ」
俺の言葉に、エリスが眼鏡の奥の眼を向ける。
「それで私たちに伝えるために……四階まで上がってきたんですか?」
「ああ」
「――どうして、すぐに逃げなかったんです?」
驚きの表情で、エリスが言う。俺は苦笑した。
「だって、放っとけないだろ」
「そんな……」
フィリアが、くしゃっと顔を歪ませた。
「あたしたちは――無理にライトに指導を頼もうとして、喧嘩別れしたのに……。あたしはもう、ライトは勝手に出て行ったと思ってた――」
「そんな礼儀しらずじゃないよ」
「だから言ったでしょう? ライトさんは謝りたいって言ってたって」
チェルシーが、フィリアに微笑む。
「けど、またライトさんに助けられましたわね」
「いや、安心するのは――まだ早そうだ!」
飛竜は今度は、見境なしに建物を破壊し始めている。
街の中がパニックになり、逃げまどう人々の悲鳴が聞こえた。
フィリアが声をあげる。
「くっ! あいつをなんとか討伐しないと――」
「やめておけ、飛竜はレベルでいうと50を超える強さだ。今の俺たちが勝てる相手じゃない」
俺の言葉に、フィリアが歯噛みをする。
「とにかくここは、安全な場所まで退避して――」
そう言いかけた俺の耳に、小さな泣き声が聞こえてきた。
「あ~んっ、あぁぁんっ!!」
女の子の泣き声? 陰から顔を出して覗いてみると、壊された建物から、少女を抱きかかえた母親が飛び出してきた。
しかし家の前で転び、少女が投げ出される。
「んああぁぁんっっ!」
少女の泣き声が、辺りに響き渡った。
飛竜は少女と母親を見ている。が、気にならなかったらしく、建物を鉤爪でさらに破壊した。
その瓦礫が、少女の上に振りかかろうとする。
「まずい!」
俺は思わず飛び出した。敏捷性だけは速いつもりだ。
俺は少女の身体を抱えると、飛んでくる瓦礫にナイフを突き出した。
「ファング・デストラクション!」
狼のミラージュが、瓦礫を破壊する。
俺は少女を母親の元に届けると、二人に行った。
「早く逃げて!」
「は、はい! ありがとうございます!」
逃げ去る二人を見て、俺は後ろを振り返る。
飛竜は俺を見ていた。
「ギギギギ……ギエェェェェッッ!」
あの二人には関心がなかったのに、どうやら俺は敵認定されたらしい。
……まさかとは思うが、手傷を負わせた転生勇者と同類と思われた?
「ま、待て、俺はあのアーサー・ブラックとは、なんの関係もない」
「ギエェェェッッ!」
飛竜は明確に俺に向かって、鉤爪を振ってきた。
くそ! こうなったら――やるしかない!
「妖精の加護!」
ピンクの光に包まれた俺の手前で、鉤爪が止まる。
「ファング・デストラクション!」
俺はダメージ3000を超える一撃を、飛竜の腹にぶち込んでやった。
「ギエエエェェッ!」
飛竜が雄叫びをあげる。――が、まだ死んじゃいない。
「やっぱり、一撃じゃ無理か!」
俺はそのまま横に走り、近くの建物の陰に隠れる。
「ギギ……ギエエェェェェッ!」
怒り狂ったらしい飛竜が、近くの建物を破壊する。瓦や瓦礫が降り注ぐ中、俺は建物の中を駆け抜けた。
くそ、どうして俺が、あのアーサー・ブラックの不始末の尻拭いをしなきゃいけないんだ!?
……いや、尻拭いできるならいい。けど、できなければ――俺は飛竜に殺される!
「逃げ足!」
そう、とにかくここは逃げる。何故なら『妖精の加護』の能力は――
『戦闘中、一度だけ相手の攻撃を無効化する』
つまり逆を言うと、『戦闘中』を一度切ればいいのだ。
そうすれば、再び妖精の加護を利用して攻撃を受けつつ、ファング・デストラクションを喰らわせることができる。
「ギェッ! ギェェェェッッ!」
怒り狂った飛竜は、上空から俺を見て辺りの建物を破壊している。
逃げる俺を追うように瓦礫が降り注ぎ、俺はギリギリのところでかわして走る。
「くそ……上から見られてるか――ならば、『煙幕』!」




