第七話 結婚に賭ける三人 1 婚活パーティーの告白
フィリアは席から立ち上がると、握りこぶしを固めて語り出した。
「今や結婚は――人生で最も過酷な戦場だ!」
……戦場、ですか――?。
「幸せになるためには、この結婚という熾烈で過酷な戦場を勝ち抜かなければいけないのだ!」
「いや……結婚以外にも幸せの形は人それぞれだと思うけど――」
俺が恐る恐るよく前世で聴いたようなことを言うと、フィリアはキッ、と眼を向けた。
「無論、幸せの形はひとそれぞれだ。だが結婚相手として、理想の男性を得られるかどうかは、この閉鎖した状況のなかでは最も重要な条件の一つとなるんだ」
「あの~……仰ってる意味が微妙に判りませんけど――」
俺がそう言うと、フィリアが席に着く。と、代わりにエリスが語り出した。
「今の世の中、貴族は貴族の社会の中、富豪は富豪の社会の中――という感じで婚姻関係を作ることが一般的で、下層階級の者が社会的な成功者となることは、かなり難しくなってます」
ふ~む……そういう感じ。
「以前は中間労働者層があって、そこから上級社会への糸口を掴む者――というのが少なからずいたのです。そして下級から中級、そして上級へと社会階層を上がっていくというのも、サクセスストーリーとしてあり得た道でした」
「今はないの? 成功者」
エリスは頷く。
「今は中間層がなくなり、凄い金持ちか貧乏人か――という風に社会が分断してる感じです。その中にあって、唯一、社会的成功者としての可能性があるのが『冒険者』なんです!」
エリスは眼鏡の奥の眼で、真剣に語る。
「冒険者? ……そんな成功するイメージないけど――」
「冒険者として名を馳せると、色んな富豪や貴族の後押しを得られて、経済的な支援を受けたりできるんです。その財を元に、事業を始めて成功する人などもいます」
エリスがそう言うと、不意にチェルシーが口を開く。
「このカプセル宿屋のオーナー、ミッキー・アズマも、そんな冒険者富豪の一人ですのよ」
「冒険者富豪――」
妙な言葉を聴いた。冒険者が富豪? 冒険者って、そういうものか?
少なくとも、俺の知ってる『アザルド・ファンタジー』では、そんな存在ではなかったな。
「じゃあ、何か? お前たちは、結婚活動のために冒険者になったと?」
「あ、なんか『お前たち』になったわ」
「けど……まあ、そうですわねえ」
フィリアの不満そうな声の後に、チェルシーが悪びれた様子もなく微笑する。
――と、俺はふとある可能性に思い至った。
「つまり、お前たちは……結婚活動をしていて、その候補として俺を仲間に引き入れたい、と?」
「あ、それは違います」
即座に否定か、エリス!
「ぬわんだとぉぅ! お前たち、俺の指導を受けたいとか言いながら、俺を結婚相手とは全く見てないってことか!?」
「まあ……そうだな」
フィリアが、「何故、そんな当然のことを今さら訊く?」くらいの顔で頷く。
くそうっ! ふざけるなよ!
「おい! どうせ結婚して相手の玉の輿に乗るんだったら――別に冒険者として強くならなくてもいいだろう!?」
「それは違うぞ。より自分の理想の相手を得るためには、自分も強くならなければいけない。その指導者として、ライトに仲間入りを懇願した次第だ」
胸を張って、フィリアが言う。いや、そんな身勝手な話に胸を張られても!
「……どうして、俺がダメなのか。お前の理想像を語って、ダメな理由を説明してみろ」
「あたしは剣士として生きている!」
無茶ぶりしたつもりだったのに、フィリアは語り出した。
「あたしの理想の相手は、『あたしより強い男』だ。けど、その基準であるあたしが弱かったら、当然、相手も弱い男でしかない。少なくともあたしがBランクまで上がり、Aランクの剣士相手に勝負を挑んで負けた後――
『負けた……あたしより強い男に出会ったのは――お前が初めてだ……』
『俺は――俺と対等に戦える女と出会ったのは……お前が始めてだ』
そう言って、互いの力を認め、見つめ合う二人! そうして二人は戦いの余熱を身体に残したまま、互いの身体を抱きしめあい……」
「フィリア、ストーップ、ストーップ!」
なんか妄想に入りこんで熱く語り出すフィリアをエリスが止める。
そして我に返ったフィリアは言った。
「……というわけで、『盗賊』はちょっとな――」
「そうかよ! ……エリスは?」
俺はエリスに眼を向けて、話を振る。エリスは顔を赤らめると、語り出した。
「私は……世間的に実績があるというか、尊敬されてる人と出会いたいんです。それで社会に貢献する働きで、既に評価を受けてる人が――
『エリス、君の協力のおかげで、今度の試みも上手くいったよ。君の魔法の知識と技術のおかげだ、ありがとう』
『そんな……私はただ――貴方の理想をお手伝いしたかっただけです…』
『私は――素晴らしい人を……見つけてしまったようだな』
『それは私の方から言う言葉です……』
――なあんて! そんな、そんな関係の二人になれる相手を見つけられたらと……恥ずかしい!」
そう言って真っ赤な顔を、エリスは覆う。……いや、聴いてるこっちも恥ずかしかったよ。
「いや、君の理想はよく判ったよ、はいはい」
「……というわけで、申し訳ないんですが『盗賊』では――」
そんなに『盗賊』悪い!? くそぉ、どうせ最後もダメだろうけど、ここまで来たら聴いてみるぞ!
「で、チェルシーは!?」
「わたしはぁお金のある人を望んでるんですけどぉ――」
別に盗賊でも――構わない?
「盗賊さんて、他人様の稼いだお金を盗む側ですよね? 稼ぐ人と盗む人では、おのずから稼ぐ額に違いがあるんじゃないかと思うんです」
別に俺は盗まないし! まあ、稼ぎもしないけど!
「と思うので、ちょっと盗賊さまとは……」
「――お前らの気持ちはよ~く、判った!」
俺は三人を見回して声をあげた。
と、フィリアが口を開く。
「じゃあ、あたしたちの指導者に――」
「なるかーっ!」
俺は怒鳴った。
「お前らの婚活に、何故、俺がつきあわなきゃいけない? 真面目な冒険者パーティーかと思ったら――婚活パーティーじゃねえか!」
こんな時に余談だが。
宴会みたいな催し物のパーティーと、冒険者集団を指すパーティーは、どっちも同じ『Party』だ。宴会に集まる仲間で親密度を増し、集団として一つの形をつくる。どうやらそれが、パーティーの意味の源流らしい。
……とか、そんな話、今はどうでもいいわーっ!
「あたしたちは、真面目な冒険者パーティーだ! というか、なんだコンカツパーティーってのは!?」
ああ、この世界には『婚活』って言葉は浸透してなかった!
「結婚活動の略! いいか、俺はお前らの真面目な婚活につきあってられるほど暇じゃねーっ! 俺だって……自分の結婚相手を探そうと思ってるんだ!」
「え? 盗賊なのに……ですか?」
「おい、エリス! 真面目な顔で、絶望に落とすようなツッコミは止めろ!」
俺はエリスにも怒鳴った。
「とにかく! 俺はお前らの婚活の手伝いなんかしない。俺はソロスタイルなんだ。俺は孤独に、自分の道を歩く! ……それに、お前らはもう基盤はできてる。後は自分の能力を見極めながら、強くなっていくだけだ。俺なんか必要ない」
俺がそう言うとエリスが強固に反対する。
「そんなことありません! ライトさんはきっと、この先の成長も見据えて活動してると思うんです。それを私たちにも――お願いします!」
「ダーメだ! お前たちは、お前たちでやってくれ。俺には俺のペースがある。それが気にいらなくて、今日の払いを奢れないというんだったら、それでもいい」
俺がそう言うと、フィリアが怒りだした。
「指導の話と、今日の払いは別の話だ! 今日のは……今までの感謝の気持ちで――」
なんか……そう言ってる途中で、フィリアが泣き声になる。
「今日は……あたしたちのお祝いでもあって……もういい!」




