4 攻略祝いとお返し
俺は心配してたみたいな素振りは毛ほども見せずに、そう言って笑った。
見ると、フィリアがボロボロと泣きながら声を洩らす。
「この半年……ずっと攻略できなかったから……あたしたち…もうダメかもって思ってたけど――けど…今日、攻略できてよかった……」
それだけくしゃくしゃになった顔で言うと、フィリアは両手で顔を覆って泣き始めた。その頭を優しく包むように、チェルシーが寄り添う。
「フィリアが一番頑張ってもんね……。よくやってくれました」
俺はふと気づいて、チェルシーに言った。
「そういえば、ツリーマンはどうした?」
「ゴブリンキングの攻撃から、わたしを庇って魔石になってしまいました……。短い間だったけど、いい子でした」
チェルシーはそう言って寂しそうに微笑む。
きっとかなりの激戦だったのだろう。まだレベル5だったから、それなりに大変だったはずだ。けど、よく頑張った。
「うん。みんな頑張ったみたいだね。もう今日は帰った方がいいんじゃないかな。魔石の交換とかも必要だろうし」
「そうですね――みんな、帰りましょう!」
エリスの声に、フィリアもチェルシーも頷いた。
あっさり帰って来て、交換所まで行く。
彼女らが交換所から出てくるのを見届けて、俺は声をかけた。
「今日は、結構な稼ぎになったろ?」
「はい! これでしばらく心配なさそうです!」
エリスが嬉しそうに答える。それで満足して、俺は言った。
「それじゃあ、君らはもう、そのスタイルで安心だ。これからも頑張って――くれぐれも無理しないようにね。……それじゃあ」
俺はそう言って笑うと、片手を上げて、彼女らの前から去ろうとした。
と、俺を呼び止める声がする。
「ちょっと待った!」
俺は降り返った。と、フィリアが心なし赤い顔で言う。
「今日はあたしたちの祝杯だから――あたしたちが、ライトの分を奢るんだ! ……それくらい、いいだろう?」
俺の口から、思わず笑みが洩れた。
「……じゃあ、ありがたく受けるかな。どっか店に行く?」
「カプセル宿屋じゃダメか? 宿泊代コミで――お返ししたい」
フィリアが、やはりテレたように言う。
俺は微笑んだ。
「いいね! ありがたくご馳走になろう」
俺がそう答えるとエリスとチェルシーが、やった、と手を合わせていた。
俺たちはカプセル宿屋に行くと、それぞれの個室を案内された上で一階に集まった。
「それじゃあ、一時間半後に食堂で集まることにしよう」
「判った」
俺はフィリアにそう答えると、風呂に向かった。
何種類もの風呂に浸かり堪能し、ゆっくりと休んで、少し寝る。
時間になって食堂に行くと、今回は女子組が先に来ていた。
「ライトさん、ここです~」
チェルシーが手を振る。う~む……厚めの部屋着の上からでも判る揺れ――
「あ、待たせたね」
「いいえ、全然。私たちも今、着いたところです」
エリスがそう微笑した。フィリアが店員を呼んで、ビールを四つ頼む。
ジョッキが来ると、俺たちは乾杯した。
「それじゃあ、あたしたちの二階層突破を祝って――カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
俺は冷えたビールで、喉をうるおした。いやぁ、美味い!
「っていうか、フィリア、ビールでよかったのか?」
「うん。まずはこの苦いのに挑戦だ」
フィリアはそう言って微笑む。
それからは飲食をしながら、三人がいかにゴブリンキングと戦ったのか――などの話を聞いて盛り上がった。
夕食を楽しく食べて、宴も終盤にさしかかり、俺は言った。
「うん、もう三人は立派に成長した感じだな」
「ボスを倒したらレベル6に上がってました。私は、光魔法をもう一つとればいいですよね?」
エリスが俺に、そう訊ねてくる。
「そうだな。それでいいと思うよ」
「光魔法をカンストしたら、その後はどうしたらいいんでしょう?」
「他の属性魔法を取得するのも手だけど、察知のレベルを上げるとか、回避などの戦闘スキルを取るのもいい。その時のパーティーの状況や、自分に必要なものを考えてスキル選択をすればいいんだ」
俺がそう言うのを、三人はじっと聞いている。
エリスがフィリアとチェルシーを見ると、二人が頷く。どうした?
「ライトさんて、もっとずっと先のことまで見通してスキル取得や攻略をしてる感じですよね?」
「あぁ……まあ――」
「お願いです! もっと私たちに――ご指導していただけませんか!」
エリスは急に、強い口調で言った後に頭を下げた。
そして頭を下げたまま、声をあげる。
「お風呂で三人で話してたんです。……もっとライトさんに指導してほしいねって――」
え、そうなの?
「あたしもそう思ってる。……できたら、あたしたちのパーティーメンバーになってほしいなと――そう思ってるんだ」
フィリアが真面目な顔で、俺を見つめてきた。
隣にいるチェルシーが、ちょっと近づいて来る。
「お願いできませんか? ……ライトさん」
三人の瞳が、じっと俺を見つめた。
うわ……この子たち、真剣だ。けど――
「悪いな。俺は、基本的にソロでいくスタイルなんだよ。パーティーでやっていくのは苦手なんだ」
「そ、そうなんですか……?」
エリスが動揺した表情を見せる。
フィリアが、眉を寄せて俺を見つめる。
「あたしたちが、苦手ってことなのか?」
「そうじゃないよ。ただ――集団でずっとやっていくのが、しんどいって性分なんだよ」
「どうしても、ダメなんですかぁ?」
ぐ。
チェルシーが、上目遣いで覗き込むように俺を見てくる。
……そんな風に見つめないでくれ。巨乳に思わず、目がくらむだろ。
「俺なんかのこと、そんなに信用してもいい事ないぜ。なにせ盗賊だからな」
「そんな事ありません! ――きっとライトさんなら、私たちをもっと高い処に連れて行ってくれるって……そう思ってます」
エリスは真剣な面持ちでそう言った。
俺は逆に、彼女たちに訊いた。
「そんなに強くなりたいのかい?」
「もちろんだ! より強くなること――それが、あたしたちの目標に近づく第一歩なんだ!」
フィリアが高らかにそう宣言する。俺は疑問を抱いた。
「第一歩? ……その目標って――なんだ?」
「結婚ですわ」
は!? ……聞き違いか?
「まて……もう一回言ってくれ」
俺はチェルシーに言った。チェルシーが、にこやかな微笑を浮かべて言う。
「結婚、ですわ」
「はぁ!?」
聞き違いじゃなかった。…ちょっと、俺の導火線に触れたかもよ!
「おい、ふざけるなよ! なんか、昨日はもっと剣士として高みにいきたいとか魔法を極めたいとか崇高な志がある風なこと言ってたけど――なんだぁ? 究極の目的は結婚? それが、目標だとぉ?」
「ふざけてなんかないぞ!」
怒ったつもりの俺だが、逆に凄い勢いのフィリアに気圧された。
「あたしたちにとって、結婚は人生の行く先を決める、最も大事な条件だ! 生半可な気持ちで、結婚を目指してるんじゃない!」
「――え……生半可じゃない――の?」
俺はフィリアの圧にビビりながら、恐る恐る訊いた。




