3 チェルシーのテイム
傷ついたツリーマンを前に、チェルシーは掌を向ける。
「テイム!」
掌から光が出て、ツリーマンに当たる。光の輪がツリーマンを包み、明滅している。――と、強く光ったと思うと☆が二つ、ポンと出た。
「あ! できましたわ、テイム!」
「うん。ちょっと指示を出してみたらいい」
「判りましたわ。え~と、わたしについて来なさい!」
ツリーマンが鈍い動きで、チェルシーの元に寄って来る。
フィリアはまだ警戒した顔で、そのフィリアの後ろにエリスは隠れている。
「ツリーマン、お手!」
お手をする。
「バンザイ!」
バンザイをする。
「お尻フリフリ!」
お尻があるとは思えないが、ツリーマンが背中を向けて身体を振る。
「ウフフ……ちょっと可愛く思えてきました」
「そいつは負傷してるから、治癒してやった方がいいかもな」
「そうですわね、治癒」
チェルシーがツリーマンを治癒してしまうと、俺は女子組に言った。
「どうだ? 新しいスタイルは?」
「もう……凄いです! 今までの苦労が嘘みたいで――」
そう言うエリスに、フィリアも続けた。
「やっと剣士として、思うように戦えた気がする。……雲泥の差だ――」
「うふ。わたしの出番が、驚くほど少ないですけど――安心して見てられますわ」
チェルシーが嬉しそうに言う。そんな三人に、俺は言った。
「今の君たちなら、多分、二階層のボスを攻略できると思うよ。ボス戦は手伝えないけど、そこまではバックアップもできる。――挑戦してみるかい?」
俺の言葉に、フィリアが息を呑んだ。
「あ、あたしたちが……今から、ボス攻略――」
「けど……確かに、今の私たちなら――行けそうな気がします」
「うふふ、ね、頑張ってみましょうよ」
エリスとチェルシーがそう言って、三人は頷いた。
二階層に降りて、迷宮を進む。
途中、エリスは罠も察知したので、罠解除だけ手伝ってやる。
そして三人は特に危機にあうこともなく進み、あのゴブリン・パックの部屋までやってきた。
「ここを抜けたら――ボス戦ですね」
「けど、あたしたちは、今までこのゴブリン・パックを攻略できなかった――今日は……必ず先に進もう」
「おーっ!」
チェルシーが腕を上げると、ツリーマンも隣で腕を上げる。
……ヘンな使い方だが、とりあえずテイムの能力も高いらしい。
「それじゃあ、行きますよ」
エリスが声をかけて、ゴブリン・パックの部屋に飛び込んでいく。
「アイアン・ナイフ!」
鉄のナイフが雨のように、ゴブリンの群れに降り注ぐ。
「グギャーッ!」「グギャギャーッ!」
ゴブリンが奇怪な声をあげて、パニックに陥る。
と、何匹かは入ってきたエリスを見つけて、こっちに向かって来る。
その前にフィリアが踊り出て、剣でゴブリンを斬っていく。
そのフィリアに次々にゴブリンが襲い掛かるが、フィリアはものともせずに、ゴブリンと戦っている。
「パリイ――反撃、パリイ――反撃!」
見事な剣さばきで、しかも隙なく戦っている。
エリスも魔法で、向かって来る敵をなぎ倒していた。
「スティール・ベルト!」
鉄のベルトが宙を舞うと、ゴブリンの首が二ついっぺんい跳んだ。
――いや、凄い威力だが、なかなかグロい光景だ。
と、後方にいるチェルシーを狙った一匹が、チェルシーに跳びかかって来る。
が、チェルシーは傍にいたツリーマンに指示を出した。
「ツリーマン! 攻撃、ですわ!」
ツリーマンの枝腕が伸びると、跳んできたゴブリンの胸を串刺しにした。
やがて戦闘が終わる。フィリアは少し手傷を負ったらしい。
「チェルシー、頼む」
「まかせてください、治癒!」
フィリアの治癒が終わると、チェルシーはエリスに言った。
「エリス、MPを回復した方がいいですよね」
「お願いします、チェルシー」
チェルシーは今度はエリスのMPを回復した。
「それじゃあ――ボス戦……ですね」
エリスが言うと、フィリアがごくり、と唾を呑んだ。
チェルシーが声をあげる。
「あ~、なんだか緊張してきますわぁ」
いや、なんだか全然、緊張してるように見えないんですけど。
俺は三人に言った。
「もう、今までの戦いで、自分たちの実力は充分に自覚できたと思う。ボス戦の部屋には俺は入れないけど……万が一ヤバかったら、無理せず撤退するように。けど――今の君らなら、全然、大丈夫だ。思いきって、やってこい!」
「「「はい!」」」
三人はそう元気よく返事をすると、ボス戦の部屋に入っていった。
俺は脇の通路を抜けて、三階層に降りる。
三階層の回廊状になってる場所で、適当に座って出口を見つめる。
女子組がボス――ゴブリンキングと対戦している。
俺はファング・デストラクションで仕留めてしまったので楽勝だったが、実はゴブリンキングが一番厄介なのは、そのHPが高いことだ。
普通に攻略しようとすると、ダメージを与えてても与えても、与えても与えても、まだ死なない――という感じなので、なかなか初心者泣かせのボスなのだ。
「いや……けど、今のあいつらなら、結構、高いダメージ力があるから、それなりに倒せるはず」
俺は一人呟く。ああっ! なんか、自分が攻略するより、落ち着かない!
というか、俺が行って攻略してやりたいが、それじゃあ彼女らの成長にならない。ああ、もどかしい!
考えてみると、会社員時代も後輩を育てる――ってのは大変だった。
キツく言い過ぎると傷ついて辞めるし、何も言わないと、全く仕事を覚えない。さじ加減が難しいところだった……
「……とか振り返ってる場合じゃねー! もうよくないか? もう、そろそろ出てきてもよくないか? まさか、ダメージを受けて撤退してるとか? じゃあ、二階層に戻った方がいいのか?」
俺はもう、二階層に戻る階段に向かおうかと思った――その時だった。
扉が開き、女子組がボス部屋から出てくる。
「――ライトさん、私たち、やりましたっ!」
エリスの声がして、バタバタと三人が駆け寄って来る。
おー、よかった! とか思ってると、エリスがいきなり、俺に抱きついてきた!
「あ、え――」
驚いていると、フィリアがエリスの左からまた抱きついて来る。
「あたしたち、ボスを倒したんだ!」
「やりましたわ、わたしたち……」
チェルシーは、右から抱きついてくる。三人は、泣いていた。
「そっか! よくやったな、君たちの成長した証拠だ!」
俺はそう言って、うんうん、と頷いた。
三人は感極まったのか、しばらく抱きついたまま離れない。
「……いや、もう離れてもよくないか?」
「あ、ごめんなさい!」
エリスが慌てて、俺から離れるのを機に、二人も離れる。
いや、いい気分だったから、しばらくそのままでもよかったんだけど。
「すみません……あまりにも嬉しくて、つい――」
「いいさ。本当によかったな、おめでとう!」
俺はそう言って笑った。エリスが眼鏡をとって、ハンカチで涙を拭いている。
「今の君たちなら、ちゃんと攻略できると思ってたよ」




