2 皆でカプセル宿屋へ
抱き合って涙ぐむフィリアとエリス。そしてそれを暖かな眼差しで見つめるチェルシー。……ああ、まあいい提案だったのかな?
「そんなに喜んでくれたよかったよ。じゃあ、行こうか」
「「「はい!」」」
――と、そんなわけでカプセル宿屋へと皆で向かう。
「実のところ、普通の宿屋よりもお風呂が豪華で気にいっちゃったんだよね。君らも泊まったことはあったんだね」
「そうなんですよ。最初は普通の宿屋に泊まってたんですが、宿泊費を抑えるために入ったカプセル宿屋で、衝撃を受けました」
エリスが眼鏡の奥で微笑む。
と、フィリアが握りこぶしを作る。
「温かい風呂に入るのは二ヶ月ぶりだ……。今日は――頑張った自分へのご褒美だ!」
頑張ったのか。
「あのカプセル宿屋というのは、一年前くらいに現れて瞬く間に冒険者や一般の人たちに浸透していった流行店ですの」
「へぇ~、そうなんだ」
「『カプセル・アズマ』という店舗名ですけど、オーナーはミッキー・アズマという元冒険者なんですよ。もう、今や大変な大富豪ですのよ」
チェルシーがにこやかにそんな話をする。ふ~ん、ミッキー・アズマ……
――明らかに転生者じゃねえか!
とか、そんな話をしてるうちに『カプセル・アズマ』に到着した。
受付を済ますと、俺は女子組に言う。
「じゃあ……一時間後――いや、一時間半後にするか。一時間半後に、食堂に集合で」
「「「判りましたぁ」」」
さて……俺は男風呂に行って、風呂を堪能する。
正直、一時間半も入ってられないけど、女子はなにかと準備とかあるだろうから時間は長めにしたんだ。ゆっくりしてくれればいいけど。
俺自身は30分くらい風呂に入ると、個室に戻って一寝入りした。中にはタイマーがあって、目覚まし機能があるのを知ってたんで、待ち合わせ時間の10分前にセットする。
――魔道具、凄いな。ほぼ電子機器じゃないか。
食堂に行くと、まだ女子組は来てない。俺は先に席をとって、少し待つ。
と、女子組が現れた。
「お待たせしました~」
チェルシーがにこやかにやって来て、俺の隣に座る。
みんな宿屋の部屋着を着ているのだけど――チェルシーさん、胸のボリュームが隠せてませんけど! 地味で露出も全くない黄色の部屋着なのに、凄い色気だ。
え~……フィリアは、均整のとれた抜群のプロポーション。
エリスは――スレンダー。細っこい。胸は…ちょっと残念。
二人は俺の向かい側に座る。
「それじゃあ、注文するかな。俺はとりあえずビール頼むけど――」
とか言いかけて、ふと気づいた。
「あれ……? この世界って、何歳から酒呑めるの?」
俺、昨日、普通にビール飲んでたけど。
「特に決まりはありませんけど」
「あ~、それで俺がビール飲めたわけね。君らはどうする?」
俺が訊くと、チェルシーが嬉しそうな笑顔で言った。
「わたしもビールをいただきますぅ。ふふ、ひさしぶり」
「あ――あたしは……」
なんか、フィリアがメニューを見て、ふるふると震えている。
「今まで酒は飲んだことがなかったが――今日は挑戦してみる!」
「「お~」」
俺とチェルシーが感嘆をあげる。
「あたしにもビールを一つ!」
「わかった。――で、エリスはどうする?」
「私もそれじゃあ……頼んでみようかな……」
エリスが眼鏡の奥で、少し恥ずかしそうな顔をする。なんか可愛い。
「じゃあ、とりあえずビール四つで!」
店員さんを呼んでそう頼む。
冷えたビールが四つくると、俺たちは皆で乾杯した。
「じゃあ、無事にダンジョンから帰れたことを祝って、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
ビールを一口飲んだ後で、メニューを見ながら適当に食事メニューを頼む。
「食べたいものがあったら、適当に頼みなよ」
「いいんですかあ! じゃあ、バニラアイス!」
おいおい、そりゃあ終盤に頼むやつだ、エリス。
「あ、あたしはこの……焼きピラフを……」
いきなりメシもの!? 恐るべし、フィリア。
「わたしはビールのおかわりを……」
「もう、呑んだのかよ! チェルシー!」
あ、心の声になってなかった。
まあ――そんなこんなで、俺たちはメシにありついた。
風呂あがりに美女三人と歓談しながら、酒呑んで夕食をともにする。
……いいじゃないか、異世界生活。
ただ、俺はふと疑問に思って訊いてみた。
「なあ、例えば仕事先はこの店みたいに、幾らでもあるだろ? なんでみんなは辛い思いまでして冒険者やってるわけ?」
俺の問いに、女子組はお互いに顔を見合わせた。
フィリアがまず口火を切る。
「あたしは――強い剣士になるため! 自分を鍛えて、より強い剣士になるためだ!」
いやぁ想像通りの答えだ。そんなに力強く答えなくても、充分伝わったよ。
「私は……魔法を極めたいからです。魔法を極めて、立派な魔導士になりたい」
エリスは眼鏡の奥で、真剣な眼差しを見せる。うんうん、いい感じだなあ。理想と夢がある感じだ。
「わたしはお二人みたいな崇高な志はありませんわ。わたしわぁ……お金持ちになりたいんですの!」
チェルシーはそう言って、にっこりと笑う。
「いやぁ、いいんじゃないの。俺もそんなもんだよ。ただ、今のところ稼げてないないよね~」
「ほんと、そうですわね」
アハハハ、とかチェルシーと俺は笑う。と、エリスの声がした。
「だから! ライトさんにご指導いただきたいんです、冒険者としてより高みを目指す道を!」
なんか急に、勢い込んでる。顔が赤い――酔ったな。
「うぅむ……この苦いものを皆、呑んでるのか――。大人というのは、難しいものだ」
なんかビールを片手に、しげしげと見つめている。
俺はそんなフィリアに言った。
「あ、苦いのが苦手なら、甘いお酒もあるよ。――これとか、オレンジサワー」
「じゃ……じゃあ、それで――」
ちょっと悔しそうだったが、フィリアは素直にオレンジサワーを頼む。
運ばれてきたオレンジ色の酒を呑むと、フィリアの顔が輝いた。
「お……美味しい!」
「よかったな、フィリア」
「あ、呑みかけのビールは、わたしがいただきますわ」
酒豪か、チェルシー!
「だからぁ、ご指導ぅをですねぇ……」
「おい、エリス、大丈夫か?」
「らいじょうぶって、なぁにがらいじょうぶれすか! らいじょうぶなワケないれしょー!」
めっちゃ弱いじゃん! まだ三口くらいしか呑んでないぞ。
「あ~、ご指導の話は明日の朝な。きっちりと、ちゃんとやるから。もう、酒はやめて、ちゃんと食っとけ」
「はぁい」
エリスは眼鏡のまま、なんか知らんが敬礼する。
そんなこんなで夕食を終えた俺たちは、食堂を後にすることにした。
「それじゃあ、明日の朝7時に食堂で。朝御飯食べた後に、4階の休憩ルームで打ち合わせして――それからダンジョンにもう一回行ってみよう」
「わかりましたわ」
全然、酔ってない感じのチェルシーだが……一人だけ10杯も飲んでたぞ。




