4 迷宮脱出!
飛んできたコウモリの群れに俺は『探索』を使い、正確な数を把握する。
「15匹か……」
俺は罠矢を作ると、ニードル・バットの群の真ん中に撃ち込んだ。
矢が当たると爆発して、コウモリたちが飛散する。
「音波を頼りに飛んでるから、だいぶ効いたろ?」
何匹かは爆発で死んだが、数匹は地面に落ちてバタバタもがいている。
耳が良すぎるから、至近距離の爆音でやられてしまったのだ。
俺は普通の罠矢で次々と射抜いて、ニードル・バットを魔石に変えていった。
「はい、討伐完了」
「え……ウソだろ――あのニードル・バットの群を……こんなに簡単に――」
青髪のフィリアが、愕然とした表情で声を洩らす。
と、金髪のチェルシーが、微笑とともに言った。
「凄いですわ、ライトさん。すっごく頼もしい……」
いや、そこで胸の谷間を強調するのやめてもらえます? つい見惚れるでしょ!
「あ、魔石は回収しといてもらえるかな?」
「はい!」
女子三人組は、わらわらと魔石を回収した。
ちなみにだけど、襲ってくる奴を把握するのは『察知』。危害がありそうな罠を見つけるのも『察知』だ。
それに対して、こちらから能動的に隠れてる獲物の居場所や、その数を把握するのが『探索』だ。隠しドアや、埋もれたお宝を探すのも『探索』。
最初のナノパの森で、俺が『察知』ではなく『探索』を使ったのは、とにかくこちらの居場所を知られて攻撃されるのを避けたかったからだ。だから襲われる可能性を避けて敵を知るために、『探索』を使った。
けど、レベルが上がるにつれて、『察知』の方が重要度が増すんだよな。まあ、『探索』は後々、また必要になるけど、今はレベル1のままでいい。
「……回収終わったね。じゃあ、どんどん行こうか」
俺はまた先へ進む。と、今度は別の気配だ。
「あ、止まって。罠があるから、解除するよ」
俺はそう言うと、通路の横にある矢を発射する罠を解除した。
ついでに、罠から魔石をくり抜いてしまう。
「ほい」
俺は魔石を差し出した。
「え? 罠の中に魔石?」
フィリアが驚いた顔をしながら受けとる。俺は笑って説明した。
「罠を軌道させるために、魔石を使ってるものもあるんだ。結構、大きいな。多分、300ワルドくらいにはなるよ」
チェルシーが眼を見開いて、すぐに笑顔になる。
「素敵ですわ、ライトさん!」
「盗賊ってのも、悪くないだろ?」
俺はちょっと笑って言ったが、その言葉には――無反応だ。残念。
その後も俺はジャイアント・アーントの群れを片付けたり、罠を幾つか解除して魔石を手に入れたりしながら、二階層を抜けて一階層へと上がってきた。
――が、なんか女子組三人の反応がおかしい。
「あの……どうかした?」
「どうかした、じゃありませんよ、ライトさんっ! なんなんですか!? なんで、こんなにあっさり二階層を抜けられるんですか? ちょっと意味が判りませんっ!」
なんかおとなしそうに見えた銀髪のエリスが、眼鏡の奥の眼をひん剥いてる。
「ど、どうした――そんなに、血相変えて……?」
「いや……エリスの気持ちは判る。あんなにあたしたちが苦労したエリアを、こうもやすやすと抜けていくとは――正直、信じられない思いだ」
青髪のフィリアが腕組みをして、うんうん頷いている。
と、チェルシーが笑顔で俺に訊いてきた。
「あのぉ、ライトさんてレベル幾つなんですかぁ?」
そう言えば、帰ってから確認するつもりでレベル確認してなかったな。
ステイタスをオープンすると――『レベル20』とある。
「お! レベル20に上がってる」
「レベル20ぅ!?」
エリスが驚きの声をあげる。――と、フィリアが怪訝そうな声を出す。
「待て……そなた、昨日はレベル10だと言ってなかったか? それも嘘だったのか?」
「あ、それは嘘じゃないよ。昨日はレベル10だった」
「一日で、10レベルも上がるわけがなかろう!」
フィリアが血色を変えて声をあげる。
「いや……そうでもないんだよ。やり方を知ってればね」
「やり方を知ってるって――どういう事ですか?」
なんかエリスが眼鏡の奥から、物凄く怪しいものを見る眼付きで見てくる。
「そういえばライトさんて、物凄く経験豊富な感じでダンジョンを抜けてましたけど……なんか、見た目の割りに落ち着いてるというか――。一体、お年は幾つなんでしょう?」
チェルシーが、敵意はない感じで首を傾げる。
けどフィリアは警戒の目、エリスは疑いの目――
えぇ? 俺、なんか責められてない? どうして? この子たちを助けてる側なのに!
「あの……今から話すことは――秘密にしておいてもらえないかな……」
俺はとびっきりの渋い顔と渋い声で、そう囁いた。
三人が、ごくりと唾を呑む。
「わ、わかったわ」「判りました、決して口外しません!」「二人の秘密、ですね!」
――なんか、最後のはちょっと気になるフレーズだが、それはおいておこう。
「実は俺は捨て子で……幼い頃に爺ちゃんに拾われて育てられた。そして、その爺ちゃんは――稀代の盗賊冒険者だったんだ!」
ジャーン! という感じで、俺は告白する。
三人とも、驚いた顔をしている。いいぞ、その調子。
「爺ちゃんは盗賊だけど盗みはしない冒険者で、ダンジョンだけでなくこの地域の色んな攻略法をマスターしていた。そしてその攻略法を、爺ちゃんは秘伝書にしてくれた」
「「「秘伝書!?」」」
「そうだ。その知識――何処に何があるのか。それを盗賊のスキルを使って、いかに攻略するか。……その知識が書かれた秘伝書だ。その知識を使って、俺はレベル10から一気に18まで上がった。そして今日、1階層から5階層までボスを攻略したら、レベルが2つ上がってた……というわけだ」
決まった! 俺のこの完璧な話で、とりあえず誤魔化せるだろう。
「じゃあ、その秘伝書を見せてもらえば――あたしたちもラクに迷宮を攻略できるってこと?」
フィリアがそう訊ねてくる。いや、ラクしないで、ちゃんと攻略しろ。
と、思ったけど、ここはごまかす。
「いや……秘伝書は隅から隅まで暗記するように爺ちゃんに言われ、俺が暗記すると秘伝書は燃やしてしまった」
「「燃やすぅぅ!?」」
エリスとフィリアが、二人して口を尖らせる。
なんだおい、喰いつき過ぎだろ。
「……というわけで、攻略法は俺のここにある――というワケだ」
俺は自分の頭を指さして言った。
フィリアとエリスはあからまさにがっかりしたが、チェルシーは微笑したまま俺に訊いてくる。
「それで……結局、お幾つなんですの?」
「俺は……多分、17歳くらいだ。捨て子だったので、正確じゃないかもしれないが」
「まあ! じゃあ、わたしの方が年上ですわ! わたしは18ですぅ」
チェルシーはにっこり笑って、そう口にする。随分、色気のある18歳だ。
ふと我に返ったように、フィリアが言う。
「あたしは17だ。――同い年か」
「私は16歳。年下、ということになりますね」
エリスが眼鏡を押さえながら最後に言った。
「まあ、そういうわけで色々と攻略法は知ってるんだ。そう言えば、君たちはレベル幾つなんだ? 5、6?」
俺の問いに、エリスが答える。
「私たちはみんなレベル5です。――で、あのゴブリン・パックが突破できなくて苦しんでるんです」
「どのくらい前から、ダンジョンに挑戦してるの?」
「恥ずかしながら――もう、半年くらい前からだ」
フィリアが本当に恥ずかしいとは思えないくらい、堂々と答えた。
半年……? それはちょっと――長すぎだなあ。




