2 迷宮攻略
眼下は灰色の煙幕で視界はまったく見えないが、『察知』で気配は感じてる。
「グギャッ!」
「グギャギャギャー」
「グギイィィッ!」
ゴブリンどもが煙幕に驚いて、奇声をあげている。
俺はそこに向かって弓を引いた。
「罠矢!」
当たると爆発する矢。俺はその罠矢をつくると、煙幕の中に撃ち込んだ。
飛んでいった先で爆発が起きる。
「グギャーッ!」
ゴブリンどもの悲鳴があがる。俺は次々と、罠矢を撃ち込んだ。
罠矢の威力こそ今の方ががぜん高いが、低レベルで突破した時も基本的にはこの方法で突破した。
「グギィーッ!」
勘のいい奴が一匹、高台に上がってきた。
俺はナイフで飛びかかってきた、そいつを斬る。
あとはもう、時間の問題だった。
煙幕が晴れた時には、辺り一面にゴブリンの落した紫の魔石が落ちていた。
「はい、討伐完了っと」
2階層のボスモンスターは、ゴブリンキングだ。3mほどもある巨体は、明らかに他のゴブリンとは違う迫力がある。頭につけてる王冠が『キング』の標なんだろうけど――どうも人真似っぽくて笑う。
正直、大きさだけなら一階のジャインアント・トードの方がデカくて迫力があったが、こいつはそれ以外の要素がある。
生意気にもゴブリンキングは、魔法を使って攻撃してくるのだ。
「ゴブゥゥゥーー」
ゴブリンキングが息を吐く。
ちなみにだが、俺の持つ『妖精の護符』のスキル、『妖精の加護』はどんな攻撃でも一回だけ無効化する効力を持ってる。
「――けど、それは直接攻撃に限るんだよな」
俺はそう言いながら、ゴブリンキングの部屋に『煙幕』を張る。
――逆に、だけど。
もしパーティーメンバーがいたら、取れない戦術なんだよね、これって。
俺は煙幕を巻いた後に、ゴブリンキングの周辺に罠をかけまくる。
「ゴブブブッ!」
あ、噛みつき罠にかかったらしい。
正直言うと、ここまで入念にしなくてもいいのだが、あくまでノーダメージで行きたいために、ここまでやってみました。
煙幕の中、噛みつき罠で動けなくなり、奇声を上げてるゴブリン・キングに近づいて、俺はナイフをふるう。
「ファング・デストラクション!」
ゴブリン・キングが一瞬で魔石になる。
まあ、ダメージポイント3000もあるようなファング・デストラクションに耐えられるモンスターは、相当、後にならないと出てこない。
しばらくは俺の攻撃を耐えられるモンスターはいないのだ。
そして出てきたオレンジ色の魔石は、1階層のものより大きい。これは20万ワルドほどになるだろう。
――そんな調子で、3階、4階を攻略し、俺は5階層まで行った。
5階層のボス、ジャイアント・ツリーマンを倒すと、俺は一息ついた。
「ま、今日はこんなところかな」
1階層から5階層までのボス戦のボーナス・ドロップだけを換金しても、150万ワルドになるはずだ。
……これだけあれば、部屋を借りられるし、しばらく安心して暮らせる。
「――帰るとするか」
ちなみにだが、帰る時も当然、モンスターに遭遇する。
実はモンスターにやられて死亡する率は、夢中になって階層を攻略してる時じゃなく、そこから戻る時の方が高いと聞いたことがある。
後のレベルになると空間魔法を使う魔導士の『ホーム』なんて魔法があると、一瞬でホームと規定した先に戻れるので便利だ。
けど、ホーム自体が上級魔法な上に、空間魔導士もなかなか珍しい存在だ。大体の冒険者は、危険を感じながらも行きと同じ道を帰るのである。
そんなわけで俺は、疲れた身体を奮い起こし帰り道を進んだ。
例の2階層――『ゴブリンの巣』までやってくる。
「あ~、あいつら倒すの面倒だなぁ」
できないわけじゃない。ただ、面倒なんだ。
そう思いながら足を進めると、俺の『察知』が違和感を教える。
「なんだ……? ゴブリンと戦闘中か?」
20体ほどいるゴブリンに紛れて、ゴブリンじゃない気配が三つある。
どうやら、他の冒険者がゴブリンの巣を攻略中らしい。
「もうダメ、フィリア! こっちに戻ってきて!」
「戻りたいんだけど……こいつらが――」
女性の声だ。二人の声。そしてもう一つの声が聞こえる。
「もう無理です――わたし……あぁっ!」
「チェルシー!」
女性の悲鳴と、切羽詰まった声。これはまずそうな状況だ!
俺は急いでゴブリンの巣へと躍り出た。
「ギギィッギィッ!」
「どけっ!」
目の前に出てきたゴブリンをナイフで斬り払いながら、俺は状況を見る。
ゴブリンの群に囲まれてる剣士。そこから離れて震える魔導士と、倒れてる僧侶。全員が女性のパーティーだ。
青い髪の剣士が倒れた僧侶に駆け付けようとして、背後のゴブリンの攻撃にまったく気づいてない。まずい!
「罠矢!」
俺は罠矢でそのゴブリンを射た。ゴブリンが爆発魔法で破砕され、青い髪の剣士が自分の危険にやっと気付いた。
「え……誰?」
「いいから、僧侶の元へ行って、皆で固まれ!」
俺は声をあげて、青髪の剣士の元へ走り込んだ。
青髪の剣士は頷くと、僧侶の元へ走る。
俺は追って来るゴブリンを斬り払って用心しながら、倒れてる僧侶と傍にいる魔導士の元に近寄る。俺は銀髪ボブで眼鏡をかけた魔導士に訊く。
「君、防御魔法使える状態?」
「あ……はい、防御だけなら――」
「じゃあ、君たち三人は防御魔法の中にいて」
俺はそう言うと、三人から離れて少し前へ出る。
後ろの様子を伺うと、銀髪ボブ魔導士が金属の帯で自分たちをドーム状に包む。――金属魔法か、珍しい。
「じゃあ、反撃だ――煙幕!」
「グギギィッ!?」
ゴブリンが突然、視界がきかなくなって、奇声を上げ出す。
「罠!」
俺はまず目の前に、噛みつき罠の列を作る。
「ギガッ」「ギャゥッ!」
視界のきかない中、近づいてきたゴブリンが罠にかかってる。
と、俺は弓を引いた。
「罠矢!」
爆裂魔法仕込みの罠矢を次々と繰り出すと――しばらくしてゴブリンの群は片付いた。俺は後ろを振り返る。
「おい、片付いたぞ。もう、大丈夫だ」
俺の声に、金属ドームが開く。俺はすぐに近寄って、倒れてる金髪の僧侶を見た。腹部を出血してる。
「おい、これを飲むんだ、治癒薬だ」
俺は下級治癒薬を取り出して口元へ差し出した。
銀髪の魔導士が身体を支える中、僧侶は薬を飲み干す。
多分、まだ低レベルのパーティーで、元の体力が少ないから下級治癒薬で間に合うはずだ。
見てると、僧侶の出血がとまったらしく、顔色がよくなってくる。
俺は一息ついた。
「よし、大丈夫だな。君らも怪我してるみたいだな。これを――」
そう言って薬を出そうとして俺は気づいた。青髪、銀髪眼鏡、金髪……巨乳。
「あ~っっっ!?」




