4 冒険者登録
俺は朝の活気ある街を歩きながら、冒険者ギルドにたどり着いた。
石造りの堅牢な建物だ。中に入ると、手前は食堂になっていて、朝食をとってる冒険者でいっぱいだった。
「あ、俺も朝食とるか」
空いてる席を見つけて、座るとメイドさんがやってくる。
「いらっしゃいませ~」
おお! ショートカットの可愛いエルフのミニスカメイド! すげぇ、ファンタジーゲームみたいだ!
……てか、そりゃ今さらか。
「――朝食セット一つ」
「はぁい、朝食セット一つですね。かしこまりましたぁ」
出てきた朝食セットはトーストにコーヒー、スクランブルエッグ、ヨーグルト。
うん、悪くない。
「さて……じゃあ、そろそろ冒険者登録に向かうか」
さらに奥の受付カウンターに行って、俺はそこの受付嬢に声をかける。
受付嬢は、栗色のロングストレートのお姉さんだ。
「あの~すみません。冒険者登録をしたいんですが」
「はい。身分証などはありますか?」
「あ、ありますよ」
俺はアガサから貰った身分証を出した。
「ライト・ミクリヤ様ですね。じゃあ、こちらの用紙の正確な情報をご記入ください」
そう言って渡された用紙には、『職業』とか『現レベル』とかある。
……やっぱり書き込まないとダメか。
俺は観念して『盗賊』と書き、『レベル18』と書き入れた。
用紙を返す――と、受付嬢の顔色が変わった。
俺の方を見ている。
「あの……何か――?」
「職業:盗賊――で、間違いございませんか?」
その言葉を口にした途端に、ちょっと周りがざわついた。
「なに? あいつ、盗賊なのか?」
「チッ、何しにギルドに来やがった――」
「叩き出すか?」
おいおいおい! 盗賊って名乗っただけで、こんなに問題なのか?
現世で「俺は元殺人犯です」って名乗るくらいの衝撃あるじゃないか。
「あ、あの盗賊と言っても便利スキルがあるからなっただけで、盗みその他の犯罪行為には、一切、関わっていません! 誓って!」
俺は敢えて、周りにも聞こえるようにそう声をあげた。
受付嬢はちょっと狼狽した顔をしたが、平静を取り戻して微笑する。
「あ、そういう事なんですね、判りました。特に問題はありません。ステイタス画面の確認をしてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
俺はステイタス画面を手から出して、受付嬢に差し出す。
この世界のステイタス画面は、掌から出てくる光の画面みたいなものだが、他人に見せることもできる。
「……確かに、レベル18ですね。どちらかで冒険者でもしていたのですか?」
いや、数日前に異世界から転生しました――とも言えず。
「あ、冒険者になるつもりはなく、猟師みたいなことをしてました。それでレベルが上がったんでしょう、あはは」
「そうですか、ではレベル15以上からのスタートなので、Eランクから始めてください」
そうなのか。普通はFランクからだけど、そこを跳ばせるわけね。ありがたい。
「判らないことは私にお訊ねください。私は受付のヴァネッサといいます。
「ヴァネッサさんね、今後ともよろしく」
「はい。じゃあ、ライト・ミクリヤ様、充実した冒険者ライフを」
ヴァネッサは極上の微笑で俺を送り出してくれた。
ちょっと周りのヘンな眼はあったが、ヴァネッサが認めた以上は文句のつけようはない……という感じか。
ありがとうヴァネッサ、君は俺にとって天使かも。
そんな事を考えながら、俺はギルドを出る。
冒険者としてクエストを受ける――という選択肢もあるが、ノーマルにダンジョンに入ってモンスター狩りをして魔石を稼ぐ――というのも主流だ。
俺はソロプレイヤーだったので、基本的にクエストの受注は一人でやれる範囲だし、それだとまた注文も少ない。結果的にだが、俺はほとんどダンジョン派だった。
さて、外に出たのは必要品を買うためだ。
俺は魔法薬店に行く。
「いらっしゃいませぇ、何かご入用ですかぁ?」
そこにいたのは、水色の髪をぐるぐるに巻いた背の低い少女だ。
主人に替わって店番か? 偉い、偉い。
「あ、え~と、治癒薬と回復薬――一本、幾らぐらいかな?」
一応、値段を訊いてみる。ゲームとどうも、微妙に値段が違うからだ。
「はい。どちらも上級・中級・下級とありましてぇ、上級は一本1万ワルド、中級は5000ワルド、下級は2000ワルドですぅ」
――残りの所持金にも限界がある。ちょっと考えないと……
「上級と中級を、それぞれ3本ずつ。下級を――10本ずつ貰おうか」
「はい、ありがとうございますぅ。合計で13万ワルドになりますぅ」
どうでもいいが、この水色ぐるぐる巻き少女の、語尾の甘ったるさが気になる。
金を払いながら、俺は訊いた。
「お嬢ちゃんは、今日は店番? ご主人は留守のなのかな?」
水色ぐるぐる巻き少女は、きょとんと首を傾げた。
「ご主人? この店の店長はワタシですぅ」
「え、そうなの!? ごめん、凄く年下に見えたもので……失礼しました!」
俺が頭を下げて謝ると、少女はころころと笑った。
「気にしなくてもいいですぅ、もう慣れっこですぅ。ついでに言いますと、薬をつくったのもワタシですぅ」
「嘘! 凄いじゃん、君!」
「はぁい、ワタシは魔法薬調剤士のメルリンですぅ。今後ともよろしくですぅ、新人冒険者様」
メルリンのその言葉に、俺はちょっと驚いてメルリンに訊いた。
「え、俺のこと新人って判るの? そんなに戦ってない感じ?」
「そうですねぇ、装備がほとんど傷んでませんのでぇ」
メルリンはそう言ってにっこりと笑った。なるほどね。
「そうか。俺はライト・ミクリヤ。今後ともよろしくね」
「こちらこそ、よろしくですぅ」
さて。これで準備も整った。
目指すは最寄りのダンジョン――アングラ迷宮!
街の郊外にあるアングラ迷宮の傍は、なんか露店とか出てて賑わっていた。
ダンジョンに入る直前に、ポーションを買ってるような奴もいる。
「なるほど、買い忘れがあっても最悪、ここで買い足せる――と。値段はどうかな?」
ちょっと覗いてみると、上級治癒薬一本1万5000ワルドだった。
――1.5倍じゃん! ちゃんとメルリンの店で買おう。
そう決意しつつ、俺は迷宮の入り口である鍾乳洞へと入っていった。
迷宮の中は――明るい。もう既に攻略された後なので、ヒカリゴケが植えられている。
それでもやはり魔物が出るのは、魔物の発生が防げないからだ。
俺は迷宮を進んでいくが、ふと俺の『察知』に反応するものがあった。
まだその対象は、距離にすると相当先だ。けど、この迷宮内にいて、俺の『察知Lv5』は、敵の存在を感づかせてくれる。
「剣ウサギだな」
あのナノパの森で80匹以上狩ったFランクモンスターだ。
察知もレベル5くらいになると、条件によってはモンスターの種類まで判る。
俺が進んでいくと、案に相違なく剣ウサギが二匹飛び出てきた。
俺はなんなくナイフで切り付けて倒す。剣ウサギは二つの紫の魔石になった。
ちなみにだが、殺したら魔石になるのがモンスターだ。殺して肉が残るのは、動物である。
この世界にも牛・豚・鶏などの家畜はいて、飼育されてる。つまり動物だ。
殺したら魔石になるモンスターは、基本的には動物ではない。言ってみればちょっと妖精とか精霊とか、そういう要素の入った存在だ。
その身体を維持するのに魔素を使ってるから、倒すとその維持ができなくなり、魔石が出てくる――という仕組みだ。
あのゴーレムなんかも魔素で身体を維持してたので、モンスター――魔獣なのである。ただ、あいつは『石精の鎧』というアイテムが核になっていた。
「うん、やっぱりここの剣ウサギは少し大きい。魔石も大きいな」




