焦燥
ここから、第2章の予定です
これは、夢だ
これは夢でしかない
なぜ…どうして
たしか祭りの後、そのまま家に帰って、寝て
起きたら…
「おい!おまえ聞いてんのか!」
俺はハッと気付いた
「死ぬぞ!」
土の感触
焼けた空気の熱さ
血の臭い
一瞬で状況を把握した
まず、これは夢ではない。感覚が違いすぎる
そして、俺はさっきとは違う場所に来てしまった
その場所は、おそらく戦時下
周りは血の海
次の瞬間、男にぶん殴られた
「早く逃げるぞ!」
そうだ、ここは危ない
すぐに逃げなければ…
俺は起き上がって、走り出した
「た、助けて…」
身体が焼け焦げ、人間の姿を失おうとしている人がたくさんいる
(ごめん!)
さすがに今からじゃ助からない命ばかりだ
助けている暇はない
「助けて」 「助けて」 「助けて」
幾度となく聞こえてくるSOSは、俺の精神を徐々に蝕む
「助けて…!お兄ちゃん!」
「くそ…足が…」
可愛らしい幼い声と男性の低い声が耳に響いた
こんな小さな少女さえも、亡くなる…
だが、熱を帯びた灰色の空気が押し寄せる
ごめん、ごめんなぁ
俺の命もある。助けている暇はない。
そう思った。
でも――
「助けて…」
…見捨てられるはずがない!
「は!?何してんだ!お前!」
俺はUターンをする
(せめて、まだ生き残る可能性がある人だけでも…)
「ちっ…俺は先に行くからな!知らねえぞ!」
土に埋まりかけている少女を抱き上げ
膝を怪我している男性に肩を貸す
「あ、ありがとうございます…」
「大丈夫です…!」
クソ…かなり息苦しい…
空気が薄い…
「お兄ちゃん…」
一人っ子の俺がお兄ちゃんと呼ばれる日が来るとは
「待ってろ…絶対に助ける…」
大きな音が聞こえた。
何かが落ちてくる
まるで、ゲリラ豪雨の時に外出しているようだ
俺は木の下に隠れた
歩いても歩いても安全なところには着かないと判断したからだ
「ふぅ、一旦休みましょう…」
男性の足の傷が酷い
何か少しでもよくなるものはないか
少女の方は、外傷はそこまでないようだが
身体がこわばっている
木の下から出て外を確認した
おそらく、ここは安全だ…
俺と一緒に逃げていた男性は大丈夫だろうか
キラリと光が目に刺さる
次の瞬間、すべてが視界から消えた
土が天高く舞い散る
俺はすんでのところで少女を抱きしめ、転がった。
男性に銃弾のようなものが直撃したようだ
初めて人が死ぬ状況を目の前にした
骨が…惨い姿だ…ここには安全な場所がないと、ようやく分かった
手が震えている
……怖い
こんなに簡単に、人は死ぬのか。
「お兄ちゃん…怖いよ…」
俺の身体に顔を埋めて少女は震えて言った
俺がしっかりしないでどうする…!
「絶対に目を開けないでね」
そして、俺は手を合わせた
「ご冥福をお祈りいたします…」
俺は立ち上がっ
「がぁ’’’…」
身体中が痛い…猛烈に…
立ち上がることすら困難だ
行かなくちゃ…
根性と気合いをかき集め、少女を抱え
歩き出した
ここからは、運ゲーだ。神頼り。
俺や少女に銃弾が直撃しようものなら
次のステージは『死』
神様、俺のことはもういいから…
せめて、この子だけは…
それからは、何も考えず…ただ…前へ…前へ
「…あ、目を覚ましましたよ」
…………ハッ
「ミラノさん!!」
「うわぁ!びっくりしたぁ」
俺は周りを確認した。さっきとは対照的な綺麗な風景だ。ここは、どこだ?
てか、ミラノさんじゃない
「この人が妹を…
本当にありがとう!!」
そう言って手を握られた。目の前には、金髪の可愛い女の子。お前幸せ者すぎだろって思ったお前らはサンドバッグな?
覚えてないけど、確か泣くほど辛かった気がする
「すみません、とりあえず状況をいろいろと知りたいのですが…」
って痛った!!!!
勢いよく起き上がった痛みがここで来た
ディアボロばりの時間差攻撃
「うん!この人を家に入れなさい!」
金髪さんが、召使いのような人たちに命令した
ミラノさんは敬語だったのに対して
この人は、タメ口だから違和感がすごい
俺は担架みたいなもので、金髪の召使いさんに運ばれた
家はとても豪華だった。家というか城に近い
親、石油王?
ベットに寝かされた
「あとは私が看病するわ
あなたたちは、食事とお風呂の準備を」
「分かりました」
テキパキと指示を出している。立派な人なんだろう
でも、身長的に大人にも見えない
俺と同い年ぐらいなのかな
「俺はどういう経緯でここまで?
ちょっと、そのー記憶がなくて…」
「あなたは私の妹を抱きかかえたまま
倒れていたの。そのおかげで、妹は軽傷で済んだわ。あなたは、割と重傷だけれども。
とりあえず本当にありがとう!」
少し涙目になりながらも感謝を伝えてくれた
「よっぽど妹が大切なんですね
なら、助けることができてより良かったですね!」
「…優しい人」
「ところで、なんであんな惨状に…?」
「あ、ああ、そうね。肝心なところ。
おそらく、天上五座が攻めてきたのだと思う。ここ数十年、被害は少なかったのだけれど…急にね。妹は、隣街の家に泊まりに行っていたのですぐに対応できなかった…!
私がもっと注意しておけば…」
大切な妹に怖い思いをさせたことを悔やんでいるのだろう
俺は一人っ子だから、分からん。
それよりも天上五座が出現した…?
「天上五座が攻めてきたって…結構やばくないですか?何か対策とか」
「ちょうど今しているところ。
でも、勢力が心配だわ…今回の事件で
かなりの人数が死んでしまったから…」
なんでそんな場所に俺が…?
「お嬢様、こちらにお食事を――」
「分かったわ」
美味しそうな食事がやってきた
「ちなみに、あなたはどこから来たの?」
「えっとー、」
(気付いたらここにいましたって言うのは
さすがに意味不明すぎるか)
「遠くの街から旅をしていて…」
俺はなんとなく事情をうやむやにしてこの場を乗り切ろうとした
「いろいろ事情があり…」
「…?よく分からないけど、話したくないなら大丈夫よ」
よかった。あまり言及されないようだ
「ただ、あなたのご家族などが心配すると思うの」
そう言われたとき、心臓がじわっとなった
ようやく、今置かれている状況への危機感だろうか、実感が湧いてきた気がした
そうだ、俺は父と母だけでなく
ミラノさんすらも置いてけぼりにしたんだ
「急に、顔色悪くなったけれど大丈夫…?」
「…すみません、大丈夫です」
ここで休んでいる場合じゃない。これ以上、ミラノさんを一人にさせるわけにはいかない
「俺は…」
ここで俺は、最大の失態に気がついた
ミラノさんがいる街へ行く方法が分からない
ミラノさんとはいろいろな話をしてきた
でも、街の名前とかは聞いていない
街の様子や雰囲気とかは分かるけど…
それを説明して分かるほど特徴的なものは…
ない
そもそも、ここからあの街までの距離が分からない。どうしよう…
「クッソ…俺は馬鹿すぎる」
この世界に来て何をしてきたんだ
無責任なことを言って
勝手に消えて。馬鹿だ。
「…えっと、何か困り事?
助けになれないかしら」
「…すみません、一人で考えていいですか?」
人生でここまで低く、冷たい声は出なかった
自分が馬鹿なだけなのに…イライラを他人に押しつけてしまった
「え…あ、分かったわ」
彼女は部屋から出て行ってしまった
人に頼るのは、嫌いだった
いつだって、自分で何とかしてきた
いや、違う。あの日以外は――
ミラノさん…
全部一人で解決する
いつも、そうしてきただろ
思い出した。そうだ…そうだ…
俺は一人で全てできるんだ
誰の手も借りねえ
誰も…邪魔…するな…
ヒラメは、目を閉じた
大人に近づくたびに思う。
若いって素晴らしい武器だなって
学生の皆さん、そんな瞬間を捨てることだけは
絶対にしないでほしい…
※ちなみに僕は一応まだ若者
一緒にがんばろう!




