声
師匠の家に来てから4日目
俺はついに剣を持つことができた
「おお…すごい…てか、軽い!」
「そうじゃろ?普通のやつは、剣が重すぎて持つことすら厳しいぞい」
そのためのマスコットバットだったのか
師匠は笑って頷いた
「さらに、お前は体力もついてきた
というか、お主運動神経良いんじゃな」
「まあ、一応スポーツはやってたんで」
「すぽーつ?」
ああ…知らないか…
「ヒラメさんすごいですね!私じゃ到底持てません…」
「あ、ありがとうございます
ミラノさんは透明術どうですか?」
「おかげさまで、ほら!」
あれ?どっか消えた
その瞬間、後ろから肩を叩かれた
「わ…!びっくりした…」
「あはは、どんなもんですか!」
「この女は飲み込みが早い
中々教え甲斐があったぞ」
「ありがとうございます!」
「あとは、お主じゃな」
俺はごくりと唾を飲み込んで
「お願いします!」
「まず、コツとして腕を使わないことだ
全身を使え。それを頭に入れた上でワシに斬りかかってみろ」
「え…でも、流石に危ないんじゃ…」
「ハッ、素人の剣に当たるわけないじゃろ」
それでも俺は怖かった
人を斬ろうと思ったことなんて一度もないし
そもそも、剣を持つこと自体俺にとっちゃ
震えるようなことだ
「どうしたんじゃ?ここで終わるか?」
……くそ
「いくぞ!墓の場所は決めとけよ!」
俺は全身で師匠に向かった
腕を使わずに全身で
上から一刀両断…しようと思ったが
「速い…!」
何度も何度も斬りかかっても余裕で逃げられる。動きを読もうにも、フェイントで躱される
「なんじゃ、鼻くそ食べてても避けれるぞ」
食べんな!
「うおりゃーーー!!!」
俺は最後の力を込めて師匠に斬りかかった
だが、
「終わりじゃな」
手の平を叩かれて剣を離してしまった
師匠は、それを見てすかさず剣を拾い
俺の鼻の先に、刀の先端を輝かせた
「どうじゃ?降参か?」
俺は心の中で降参を告げた
「まず、教えることがある
一つ目は、お主は割と動けるということ
二つ目は、必ず冷静さを欠いてはいけないこと
戦闘中に冷静さを失うことは致命傷
失った時点で負けだと思え」
「あと、これだけは覚えとくんじゃ」
「どんな時でも思考を回せ
脳死=死。思考を放棄した者から負けていく
それが剣士の世界じゃ
あとは、鍛えるのみ」
確かにそうだ
俺は最後、力任せで斬りかかった
あそこでもし、まだ考えるのをやめていなかったら…まだ粘れたかもしれない
師匠は俺の頭をわしゃわしゃと撫でた
そして、
「今日を含めて、残り4日間
ワシを殺す方法を考える気で練習しろ
お主ならできるぞい」
そう言って部屋に戻っていった
「ヒラメさん、大丈夫ですか…?」
「あ、ああ、大丈夫です。
やっぱりあの人強い…し、なんか…」
優しいけど、寂しさが見える
どこか俺らとは一歩離れて見ている
俯瞰している
「ミラノさん!師匠の仇、とってやりましょう!」
「はい!」
その後、俺たちは死に物狂いで練習した
俺は一切躊躇せず、師匠を殺す
これを意識して剣を振った
ミラノさんは、剣ではなく、クナイ?みたいなもので、背後から気づかれずに刺せるように特訓していた
「あれ、チートじゃね…?」
俺は剣を振っているのが馬鹿らしくなってきた…
いやいや!俺は俺のできることをやろう!
俺たちは、日が落ちるまでハードな特訓をした
夜になった
「はあーーー、疲れたーーー」
「疲れましたね…」
「お主ら、飯ができてるぞ。食べろ」
「「はーい」」
「師匠って生まれつき思考が読めたんですか?」
「そうじゃな、最初それに気付いたときは嬉しかったのぉ」
「確かに思考が読めたらいろいろ便利そうですね!」
「へー、俺は嫌ですけどね」
「ほほう、どうしてじゃ?」
「だって、何でもかんでも読めたら
相手のしてほしいことを勝手にやっちゃいそうじゃないですか
例えば、師匠がお風呂で背中流してほしい
って思ったら、俺がやるかーみたいになって
何故か縛られそうっすよ」
「まあ、俺の性格上そうなだけかも知れませんけど。あと、何でも分かるのは面白くなさそうだし」
「ほう。まあ、ワシもこの能力は好きじゃないんじゃ。目の前の奴がワシを嫌だと思ったり、本音がすべて聞けてしまうため
落ち込んでしまうことも多かった」
「確かにそうですね…」
「奥さんとはどう過ごしてたんですか?」
「あいつにはワシの能力は伝えていない
もし、知ったら過ごしづらいじゃろ」
「まあ、確かに。でも、俺たちには教えたんですね」
「頭に何も入ってなさそうだしな」
失礼な。
「ほっほっほ。だが、ここだけの話
妻の思考は読み取りづらかったよ
何故かは知らんがな」
そういうもんなのか
やっぱり不便な能力だ
もし、俺がその能力を手にしたら…
ミラノさんの考えがわかるのかあ。気になるなあ
「ほほう。」
師匠が嫌な笑顔を浮かべた
そういえば、そうだった…
「ま、お主ら、ワシみたいになるなよ!」
しくじり先生?でも、この人がテレビに出てたら絶対にブラウザバックするなあ
視聴率も一時期の『イッテQ!』
ぐらい落ちそう(怒られろ)
「なんかとても腹立たしいことを言われた気がするが…まあいいじゃろう…」
俺たちは夕飯の鍋を囲って、笑った
5日目
「ここ…!」
狙って振りかざした剣は空を切った
全く当たる気配がない
そもそも、もし本当に当たったらどうなるんだっけ
「まだまだじゃのぅ
明日また挑戦してこい」
そう言って師匠は去っていった
くそぉ…
前よりも格段に動きは良くなってるはず
師匠の言う通りやってるはずなのに…
そもそも、師匠の動きが速すぎる
振ろうとした時には、もういなくなってる
俺の思考が筒抜けだからか
「あーもう、無理だろこれー」
諦め…たくなってきた…
『ヒラメ』
ん?どっかから俺の名前が聞こえた
でも、周りには誰もいない…
「気のせいかな」
『考えろ』
いや…やっぱり聞こえる
しかも、聞き馴染みのある声
『諦めるな、お前がやりたいと
言ったんだろ』
誰だ…?
『期待してるぞ』
もう声が聞こえなくなってしまった
もしかしたらあの声は…
考えろ…考えろ…考えろ…
俺は一つ、突破口が見えた気がした
6日目
「おい、あいつがどこに行ったか知ってるか?」
「いえ…私も朝探したのですがどこにもいなくて…」
「うむ…」
7日目
「そうじゃ…その後は…」
ミラノと師匠が練習しているところに
「……師匠」
「お主…!どうしたんじゃ昨日」
ヒラメはそれには答えず
「…いきます」
ヒラメは勢いよく師匠に向かった
だが、師匠にとっては来る場所が分かっている
一撃目は避けられた
だが、
「コイツの思考は読める
次は右、左…
ぬあ…!」
ヒラメはすべて逆をいった
「コイツ、思考とは逆の方向に…」
そうだ、少し考えればそんな戦術すぐにわかったはず…
いや…カラクリが分かれば避けるのは容易い
ん?なんじゃ、思考が止まった
気配が…この不気味な感じは…
ヒラメは剣を振り抜いた…
と、思われたが、師匠の頭の上で止めた
「師匠…できました…」
何も持っていないと思われていた
いや、何も持っていないヒラメだからこそできる技
普段は弱いと思われている者が、普段おちゃらけているやつが、急に覚醒し出したら
それを止めることは難しい
異世界に来て、ずっと思っていた
みんな、何かしらの能力を持っている
俺だけが何も持っていなかった
高校の時もそうだ
ただ、金魚の糞だった俺だからこそできること
ここぞというときに気配を消し
持ち前の運動神経、瞬発力で一気に巻き返す
一つ、何か得られた気がする
「よくやった…ワシは最初からお主に期待しとったぞ」
期待…か…
誰かしら、俺に期待してくれているのか
期待されることは負担になり得る
だが、俺は期待してくれている人は大切にしようと思う
そして、俺が期待してる人も
俺はミラノさんに、Vサインを送った
でも、あまり理解してないようだ…笑
父さん、母さん、俺がんばるよ




