第185話 追放幼女、帰還の報告を受ける
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ああ、良く寝た。外は……もう白んできてるね。早く支度しないとレスリーが迎えに来ちゃう。
上体を起こし、枕元のベルに手を伸ばそうとしたその時だった。
コンコン。
突然窓がノックされた。窓の外には鳥のスケルトンがおり、足に手紙が結ばれている。
なんだろう?
あたしは窓を開け、結ばれた手紙をほどいて読んでみる。
メレディスからだ。まさかゴブリンキングがいた……わけじゃないみたい。
どうやらゴブリンの巣を襲って壊滅させたので、骨を持って帰ってくるんだって。
そうなんだ。予定よりもちょっと早いけど……実戦を経験したってことだよね。だったらもう帰ってきて、ゆっくり休んだほうがいいね。
あ! そうだ! 怪我人は?
……書いてないね。書いてないってことはいないってことかな? だといいけど……。
あとは……そっか。上位種はホブゴブリンとゴブリンメイジの二匹がいたらしい。
二匹もいたんなら、きっと大変だったろうなぁ。
ま、ゴブリンキングがいなかっただけ良しとしよう。
もちろん、まほイケでの出現場所はライザーチェスターで、バクスリーよりもさらに北なんだから違うとは思っていたけどさ。
それでもやっぱりメレディスが心配だし。
……メレディスといえば、なんかイメージがまほイケでのとちょっと違うんだよね。そもそもまほイケでゴブリンキングのイベントが起きるのはメレディスが魔の森で大暴れし、対立を招いたのがきっかけなわけで、ある意味自業自得といえるものだった。
ただ、あたしの見ているメレディスが勝手に大暴れするっていうイメージはまるでないんだよね。
どちらかというと、いい感じにバランスを取ってくれてるような?
一体この違いは……うーん?
そんなことを考えていると、外から扉がノックされた。
「お嬢様、朝です。そろそろ起きてください」
あ、フィオナだ。
「起きていますわ。お入りなさい」
「失礼します」
こうしてあたしは急いで朝練の支度を始めるのだった。
◆◇◆
その日の午後、メレディスたちが帰ってきた。あたしは執務室でメレディスたちの報告を受ける。
「演習を終え、帰還いたしました」
「うん。お帰り。誰か怪我したりしてない?」
あたしが真っ先にそう質問すると、メレディスは一瞬虚を突かれた様な表情を浮かべた。
「ええ。問題ありません。この程度で怪我などしませんよ」
「そっか……良かった」
そう呟くと、メレディスは一瞬穏やかな表情を浮かべたがすぐに真顔に戻る。
「ところで、すけの材料を持ってきていますが……」
「あ、うん。そうだったね。とりあえず庭に置いておいてくれる?」
「おや? いいんですか? 庭が埋まりますよ」
「えっ? 埋まる? 埋まるってどういうこと?」
「そのままの意味です」
「……」
そのままの意味って……。
「そんなにたくさん?」
「ええ」
「……何匹いたの?」
「全部で二百八十三匹ですね」
「えっ?」
に、二百……八十……?
あ、あの気持ち悪いのがそんなに!?
うわぁ……想像するだけで鳥肌が……。
「大変だったね……」
「いえ? 別に?」
メレディスは平然とした表情で答える。
うーん。すごいなぁ。これが騎士の精神力ってやつなんだね。あんなのがわらわらいるのなんてとてもじゃないけど見たくないもん。
「みんなすごいね」
「そうですか?」
「うん。ゴブリンが二百八十匹だなんて、想像もしたくないもん」
「……まあ、私が今まで見た群れの中では一番大きな群れではありましたね」
「そうなんだ……」
「ええ。恐らくですが、あの群れはいくつかの群れがまとまってできた群れだと思いますよ」
「えっ? どうして?」
「通常、上位種は群れを率いる一匹だけですから」
「そうなんだ……」
「少なくとも、アタシがこれまで戦ってきた群れはすべてそうでしたよ」
「じゃあ、ゴブリンキングのいる群れは?」
するとメレディスは困ったような感じで眉を寄せる。
「我が主はゴブリンキングを見たことが?」
「ううん。ただ、ゴブリンキングの率いる群れって、まるで軍隊みたいに統率されてるんでしょ?」
「グンタイ?」
「え? あ、騎士団みたいに統率されてるってこと」
「ああ、そういう意味ですか。ええ。そうですね。そう聞きます」
「ということは、ゴブリンキングの命令で部下を率いるリーダーがたくさんいないとダメってことでしょ? じゃあ、そのリーダーは上位種なんじゃないの?」
「……なるほど。そういう推測はできますね」
メレディスは険しい表情でじっとあたしのほうを見てくる。
「あ、あれ? 違うの?」
「さぁ」
「えっ?」
「そもそも、ゴブリンキングと戦った経験のある者がこの国にはいませんからね」
「ええっ!? そうなの?」
「ええ。とはいえ記録はありますから、まったくの作り話ってわけではありませんが」
作り話? ……あ! アースドラゴンのことか。
それはさておき、ゴブリンキングはライザーチェスターのほうには確実にいるんだけど……さすがにまほイケのことを話したっておかしいって思われるだけだよね。
「そっか。うん。でも、次からはできるだけ慎重にしてほしいかな」
「……なぜでしょう?」
「だって、誰かが怪我しちゃったら嫌だもん」
「……」
「それにさ。向こうが襲ってこないんだったら、わざわざこっちから攻撃するようなことはあんまりしたくないっていうか……」
するとメレディスは困ったような表情で小さくため息をついた。
「我が主はお優しいですね」
「そう?」
「ええ。ですが」
メレディスは真剣な目であたしの目を見据えてくる。
「それは甘さで、その甘さは間違いなく命取りになりますよ」
「う……」
「ゴブリンどもが人と共存することなどあり得ません。連中は人を襲い、略奪し、食い殺す。それがゴブリンという存在です」
「……うん。分かってるよ」
分かってるけどさ。まほイケだとメレディスはゴブリンキングに殺されちゃうんだもん。
「ならば!」
「でもさ! もしゴブリンキングがいたら……」
「いたらどうするおつもりで?」
あ、えっと……どうする……どうするかって……。
「どうしても戦わなきゃいけないなら……あたしも一緒に戦う。あたしの魔法だってきっと役に立つはずだから」
マリーの座っているほうから息を呑む音が聞こえてきた。だが、あたしはしっかりとメレディスの目を見続ける。
だって、みすみすメレディスが殺されちゃうのは避けたいもん。
「命を懸けるおつもりで?」
「うん。だって、あたしはスカーレットフォードの領主だもん。領民の命を守るのはあたしの役目でしょ?」
するとメレディスは一瞬表情を崩したが、すぐに真剣なものへと戻る。
「今のままではとてもお連れできませんね。身の安全などとても保障できませんから」
あれ? このセリフ……もしかしてまほイケでニコラスに同じようなことを言ってたのかな?
だって、まほイケでニコラスを庇ってメレディスが致命傷を負ったとき、だから身の安全を保障できないと言ったでしょう、みたいなことを言っていたもん。
そっか。なら!
「じゃあ、あたし、メレディスに連れていっても大丈夫って思われるくらい強くなる!」
「へぇ」
メレディスはじっとあたしの目を見てくる。
「訓練は厳しいですよ?」
「もちろん。そのくらい覚悟の上だよ」
「いいでしょう」
メレディスはそう言うと、満足げな表情でニヤリと笑うのだった。
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