第184話 討伐完了
「生き残りを探して始末しろ」
カタカタカタ。
メレディスが表情一つ変えずに放った命令を受け、シルバーウルフのスケルトンたちはゴブリンメイジたちが空けた穴の中へと走っていく。
「ゴブすけたち、ゴブリンどもを解体し、一匹ずつ骨を麻袋に詰めろ。メイジとホブの骨はこっちに持ってこい」
カタカタカタ。
ゴブリンのスケルトンたちはすぐさま解体を始めた。ゴブリンの死体は手際よく解体されていく。
ロイドたちはその様子を唖然とした様子で見守っており、その中にはダレルとアリスターも含まれている。
二人は互いに顔を見合わせていたが、アリスターがメレディスのほうへと視線を移す。
「な、なあ、ダレル」
「なんだ? アリスター」
「ゴブリンって……かなり面倒な相手なんだよな?」
「あ、ああ。そう習ったが……」
「簡単に殲滅したが……」
「ああ、そうだな……」
そう言ってダレルもメレディスのほうに視線を向けた。するとアリスターがぼそりと呟く。
「もしかして……すけって最強なんじゃ……」
「……かもな」
「……じゃあ、もしすけが陛下にうっ!?」
アリスターが胸を押さえ、苦しげな表情で膝をついた。
「ん? アリスター? どうした? 大丈夫か?」
「い、いや。なんか胸がむかむかするというか……」
「大丈夫なのか?」
「……あれ? もうなんともない?」
「本当か?」
「ああ。それにしても今の、なんだったんだろう……?」
アリスターはそう言って首をひねる。
「もしかして、緊張してたんじゃないか? 初陣だったし」
「え? あー……そう、かも……?」
「何にも感じないならそうなんじゃないか?」
「そうかもな」
アリスターは納得しているわけではなさそうだが、それ以上考えるのを止めたのか話題を切り替える。
「そういやさ」
「うん?」
「メレディス卿、すごかったよな」
「ああ、そうだな」
「訓練のとき、全然本気を出してなかったんだなぁ」
「だな。もしかすると、ランドルフ副団長に勝ったって噂 もあながち――」
「いやいや、さすがにそれはないだろ? ランドルフ副団長は王宮騎士団最強の剣士なんだからよ」
「そりゃあそうだけど……あ! そうだ!」
「ん? なんだ?」
「ロイド卿!」
突然話を振られ、ロイド卿はビクンとなった。しかしすぐにダレルのほうへと向き直る。
「何かね?」
「王都にいたとき、ランドルフ副団長にメレディス卿が勝ったという噂を聞きましたが、それって本当でしょうか?」
ロイドは途端に渋い表情となった。
「……事実だ」
「えっ?」
「本当ですか!?」
ロイドは渋い表情のまま、小さく頷いた。
「なんと……」
「あのランドルフ副団長に……」
「それで客員騎士爵だったのか……」
「メレディス卿、そんなにすごかったのか……」
先ほどまでとは違い、アリスターとダレルは尊敬の眼差しをメレディスに向けていた。しかしロイドはそれをまるで苦虫を噛み潰したような表情で見守っている。
と、そこにメレディスの罵声が飛んでくる。
「おい! お前ら! 何ボーっとしてやがる! ここは魔の森の中だぞ!」
その声に反応し、ロイドがすかさず命令を出す。
「団長の言うとおりだ! 警戒を怠るらず、合流するぞ!」
こうしてロイドたちはメレディスの許へと集合した。だがそんなロイドたちにメレディスは冷たい視線を向けている。
「お前ら、何しに来たんだ? ピクニックか?」
「い、いえ……」
「アタシは突撃しろと命じたはずだが?」
「も、申し訳ございません」
「命令に従えねぇなら騎士失格だ。特にロイド、てめえは副団長だろうが。こんな程度で動揺してんじゃねぇよ」
「……申し訳ございません」
メレディスは深いため息をついた。
「どうやら全員、訓練が足りてねぇみたいだな。帰ったら覚悟しておけよ」
「「「はっ」」」
ロイドたちがバツが悪そうに返事したタイミングで、穴の中へと入っていったシルバーウルフのスケルトンたちがゴブリンの凍結した死体を咥えて戻ってきた。
「終わったようだな。お前ら、野営地に戻るぞ」
「は」
こうしてゴブリンメイジとホブゴブリンが率いる巣を殲滅したメレディスたちは、戦利品である骨と凍った死体を持ち、野営地に戻るのだった。
◆◇◆
野営地に戻ってくると、留守番を任されていた騎士爵ジャレット・エイデンが出迎えた。ジャレットは薄暗い月明かりの下でも分かるほど整った顔をしている。
「団長、お帰りなさいませ。戦果はいかがでしたか?」
ジャレットはまるでキラキラと光りを放っていそうな微笑みを浮かべながらそう話しかけた。だがメレディスは仏頂面のまま素っ気なく返事をする。
「まあまあだな」
「まあまあ、ですか?」
「ああ」
メレディスは短くそう答え、スタスタと自分の天幕へと歩いていった。それを見送ったジャレットは困ったような表情でロイドに話しかける。
「ロイド卿も、ご無事なようで何よりです。どうでしたか?」
「どうもこうもない」
ロイドの言葉に、ジャレットは怪訝そうに眉をひそめる。
「……それは一体?」
「我々は何もしていないのだ」
「いや、ですが卿らはゴブリンどもの駆除に――」
「団長がやれと命じ、すけがすべてを殲滅した。我々は剣を抜いてすらいない」
「は?」
「あれは戦いですらなかった……」
ロイドはそう言うと、疲れたような表情で自分の天幕へと戻っていた。
「ジャレット卿」
「ああ、アリスターか。お前たちも剣を抜いていないのか?」
「はい。閣下のすけと、あと隊長もすごかったんです」
「そうか」
「はい! なにせ――」
「いや、いい」
続きを話そうとするアリスターをジャレットが制止する。
「今夜はもう遅い。早く休むといい」
「はっ!」
アリスターたちはいい表情で敬礼すると、騎士たち共用の天幕へと向かって歩いていく。
その後ろ姿を見送ったジャレットはぼそりと呟く。
「なるほど。すけにはそこまでの力が……ということはう゛っ!?」
ジャレットは顔を歪め、苦し気に胸を押さえるのだった。
※メレディスとランドルフ副団長のエピソードは書籍版第三巻に収録予定となります。お楽しみに!
次回更新は通常どおり、2026/04/26 (日) 18:00 を予定しております。




