第186話 追放幼女、メイジのスケルトンを作る
「それともう一つ、報告があります」
「何?」
「ダヴベリーから武装した集団が出発し、魔の森に入りました」
「えっ!? それって……」
「十中八九、サウスベリー侯爵騎士団でしょうね」
「そっか……」
今までろくに管理もしてこなかったくせに、こういう嫌がらせだけは行動が早いんだね。
まったくもう!
とはいえ、下手に手を出すわけにはいかないよね。戦争になっちゃうし。
「連中はスカーレットフォードの北東から北北東の方向、馬でおよそ十日程のあたりに陣を構えているようですよ」
「そっか……あれ? 馬で十日の距離なのにどうやってそんなことを?」
「鳥すけに監視させていますから」
「そうなんだ」
なんか、メレディスってあたしよりスケルトンを使いこなしてるよね。
「一応確認するけど、手は出してないよね?」
「もちろんですよ」
「うん。今度ジェイクが帰ってきたら相談するから、そのときは同席してくれる?」
「構いませんが、対応の必要はないと思いますよ?」
「え? どうして?」
「すぐに帰るでしょうから」
「そうなの?」
「ええ」
どういうこと? 妙に自信ありげだけど……。
「じゃあ、何か動きがあったら教えてくれる?」
「かしこまりました」
メレディスはそう言って大きく頷くのだった。
◆◇◆
それから解体済みの骨だけ先に庭に運んでもらった。残りはまだ凍っているそうなので村の外れで解凍し、解体して骨だけを庭に運んでもらう予定だ。
あの気持ち悪くて臭いくてものすごく気持ち悪いのを庭に置いておくなんて絶対にイヤだからね。
「メイジの骨はこれです」
そう言ってメレディスは一つの麻袋をあたしの前に置き、その口を開けた。中にはゴブリンのものと見分けのつかない骨が入っている。
これがゴブリンメイジの……大丈夫かな?
いや、でもあのときと比べて魔力はかなり増えてるし、魔力の制御だってものすごく上達した。
大丈夫! 今のあたしならきっとできる!
自分にそう言い聞かせ、深く息を吐いた。それから精神を集中させ、大きく息を吸い込む。そしてゴブリンメイジの骨に向かって魔力を解放した。どす黒く、禍々しい魔力がその骨を包み込む。
うわ……ものすごい勢いで魔力が吸い取られていく。これ、シルバーウルフの比じゃない……!
う……くっ……ちょっとでも気を抜くと魔力を全部持っていかれそう……だけど……大丈夫。まだ余裕はあるし……あれ? ここから魔力が漏れてるじゃん。 あ! こっちからも!
ああ、もう! こんなことしてたら魔力がいくらあっても足りないじゃん。ちゃんと制御してっと。
うん。いい感じになったね。
……はぁ。あたし、今までこんな雑に魔力を扱ってたんだね。
ああ、そうか。これが魔力を制御できるようになるってことなんだ。
そんなことを考えつつ、じっくりと時間を掛けて骨に魔力を注いでいく。
そうして数十分ほど魔力を注ぎ続けていると、ついにゴブリンメイジのスケルトンが完成した。
「ふぅ」
緊張が解け、思わず大きく息を吐いた。魔力は……まだ半分くらいは残っていそうな感じかな。
カタカタカタ。
ゴブリンメイジのスケルトンがスケルトンらしい音を立てて立ち上がる。
……見た目は普通のゴブリンのスケルトンと変わらない。それに強い魔力を感じるわけでもないけど、本当に魔法を使えるのかな?
「そこまで歩いて」
カタカタカタ。
ゴブリンメイジのスケルトンは指定されたところまで歩いていった。
うん。大丈夫そう。
名前は……どうしようかな?
ゴブリンメイジってことは……Mにする?
ということは、この子はM-1?
……なんでやねん! ってツッコミが聞こえてきそうだ。
うん。ナシかな。
じゃあ、うーん……メイジ……魔術師……魔法使い……あ! そうだ!
「お前の名前はマホ-1だよ」
カタカタカタ。
「マホ?」
隣にいたメレディスの怪訝そうな呟きが聞こえてきた。
「あ、魔法使いだからマホ」
「……そうでしたか」
そう言った後、メレディスは『ということはマホすけだな』と呟いた。
マホすけかぁ。もう『すけ』が完全に定着しちゃってるし、そろそろあたしも『すけ』って呼んだほうがいいかなぁ?
マホすけ。
……違和感があるような、短くていいような?
そんなことを考えつつ、ちらりとメレディスのほうを見た。メレディスはなぜかマホ-1を険しい目で見ている。
「あれ? どうしたの? 何か変?」
「いえ。すごいものだな、思っているのですよ」
「へへ。そう?」
「ええ。それに訓練の成果が出ていますね。途中で魔力の扱い方を変えていたでしょう?」
「あ! 分かった? そうなの。今まで自分がいかに魔力を無駄にしていたかがよく分かったよ」
「そうでしたか」
メレディスは満足げな様子で頷いた。
よーし。それじゃあさっそく、マホ-1に何か魔法を……って、あれ?
「何の魔法が使えるんだろう?」
前の奴は爆発する魔法を使ってたけど……。
「我が主、どういう、とはどのような意味で?」
「え? ええと……前に攻めてきたゴブリンメイジはさ。なんか爆発する魔法だけを使ってたんだよね。だから、何か適性属性みたいなのがあるのかなって」
「ああ、そういうことですか。ゴブリンメイジは我々とは違い、適性属性というものはないみたいですよ」
「え? そうなの?」
「ええ。神聖魔法は使えないですが、それ以外なら大抵の魔法は使えいますね」
「そうなんだ。なんでそんなことができるの?」
契約した精霊が使いやすいように調整した魔力を渡さないと魔法は使えないはずだよね?
「さぁ。相手はゴブリンですからね。我々とは違うのでしょう」
「そっか」
それもそうだね。じゃあ、とりあえず試してみようかな。
「マホ-1、そよ風をちょっとだけ吹かせて」
カタカタカタ。
マホ-1が手を前に突き出した。すると心地よいそよ風が吹いてくる。
「あ! できた! じゃあ、このくらいの水玉を出して」
親指と人差し指で輪っかを作って命令した。しかしマホ-1は動かない。
「あれ? 無理? 無理なら頷いて」
カタ。
無理なんだ。なんでだろ?
「じゃあ……あ! そうだ! じゃあ、この丸を描いたところの地面を二センチくらい魔法で掘って」
カタカタカタ。
マホ-1の魔法で地面が少しだけ掘られた。
「これはできるんだ」
「どうして水玉を出せなかったんでしょうね?」
「え? うーん……やっぱり元からできなかったんじゃないかなぁ?」
「だとすると、火をつけるのはできると思いますよ」
「そうなの? 使ってた?」
「ええ。ゴブリンどもが火を使っていましたからね」
「え? 火を?」
「ええ。メイジのいない群れは火を使いませんから」
そうなんだ。でも言われてみれば、ゴブリンが火を使ってるのって見たことかもね。
「マホ-1、指先に小さな火を点して」
カタカタカタ。
マホ-1の人差し指の先にロウソクほどの小さな火が点された。
「使えたってことは、水属性だけ使えないのかもね」
「……」
あれ? 返事がない?
不思議に思ってメレディスの顔を見上げる。するとメレディスはものすごく険しい表情でマホ-1を見ていた。
「メレディス? どうしたの? 何かまずいことでもあった?」
「え? ああ、いえ。このすけからは大した魔力を感じないんでが、どの程度の魔法まで使えるのかと考えていました」
「え? ああ、そういえば……どうなんだろう?」
「ならばあまり無理はさせず、慎重に使ったほうがいいかもしれませんね」
「そうだね。まだ一体しかいないし、近くに置いて様子を見てみるよ」
「ええ。ところで我が主」
「何?」
「他のもすけにするんで?」
「うん。でもホブゴブリンのは明日にする。マホ-1だけで魔力、半分くらい使っちゃったし」
「かしこまりました。あまりご無理はなさらないように。今晩の魔力循環の訓練も止めておいたほうがいいでしょう」
「うん。分かった。あとは普通のゴブリンのをちょっと作るだけだから、もう帰っていいよ」
「え? ですが……」
「大丈夫だって。それに遠征で疲れてるでしょ? ちゃんと休んでね」
「分かりました。くれぐれも無理をしてはいけませんよ?」
「分かってるって」
「ええ。それでは失礼します」
メレディスはそう言って庭から出て行った。それを見送ると、あたしはゴブリンのスケルトン……ゴブすけ作りを始めるのだった。
次回更新は通常どおり、2026/05/10 (日) 18:00 を予定しております。




