第175話 追放幼女、金鉱山に向かう
あたしたちは小川沿いをゆっくりと進み、金鉱山の近くまでやってきた。日陰になっている場所にはまだ雪が残っており、今年の雪がいかにすごかったのかを改めて認識させられる。
「へぇ。金鉱山はここだったんですね」
「うん……あれ? 言ってなかったっけ?」
「ええ」
「あ、そっか」
そういえば鉱山のことってジェイクに任せっきりで、メレディスには相談してなかったっけ。
「ごめん。もっと早くに言うべきだったよね」
「いえ。色々と大変でしたからね」
「……うん。ありがと」
あたしたちはそのまま無言になり、小川沿いをゆっくりと進んでいく。その間もメレディスはチラチラと周囲を見回し、何かを確認しているようだ。
「メレディス、何を見てるの? 何か気になることでもあった?」
「どう守るべきかを考えているんですよ」
「あ、そっか」
そうだよね。メレディスの仕事はそれだもんね。
「金鉱山って、やっぱり盗賊がいっぱい来るの?」
「そうですね。アタシもそこまで詳しいわけじゃないですが、盗賊が鉱山を襲うって話はあまり聞きませんね」
「あれ? そうなの?」
「ええ。盗賊は金にしやすいものを狙いますからね。盗むなら金のアクセサリとかをじゃないですかね」
「そっか。ってことは、狙ってくるのは騎士団ってこと?」
するとメレディスは少し驚いたような表情を一瞬浮かべた。だがすぐに不敵な笑みを浮かべ、大きく頷く。
「ええ。そうです。例えばラズロー伯爵騎士団とかバイスター公爵騎士団とか、あとは王宮騎士団もあるかもしれませんね」
「え? そっち? 生物学上の父親の騎士団かと思ったけど……」
「ああ、あっちは多分大丈夫ですよ。そんな余裕はないでしょうから」
「あれ? そうなの?」
「ええ。もちろん警戒はしていますがね」
「そうなんだ。でもラズロー伯爵もバイスター公爵も、そんなに仲が悪いわけじゃないと思うけど……」
「今はそうですね」
「え? じゃあこの後襲ってくるかもしれないってこと?」
「それは我が主次第ですがね」
「どういうこと?」
「どうせそのうち、権益を寄越せとか言ってくるんじゃないですかねぇ」
「……」
イヤだなぁ。そりゃああっちとしては色々とあたしに恩を売ってるんだろうけどさ。それでもうちのものはうちのものだし、ここで稼いだお金は民のために使うのが貴族なんじゃないの?
「ま、そんなすぐじゃないですよ。どんなに早くても、バイスターまでの道を通した後でしょうから」
「そっか……」
それってつまり、うちがレディントンみたいな場所になるからってことかな?
あれ? あ! そっか! あああ!
……はぁ。ま、仕方ないね。それに今考えても仕方ないし。
と、そんなことを考えているうちに金鉱山が見える場所にやってきた。
って! えええっ!? 地形が完全に変わってる!
前は小川が流れていたのに、今は坑道周辺を避けるように流れが付け替えられている。そのうえ何に使うのかは分からないが、上流にはダムらしきものを建設しようとしているようだ。
「へぇ。まだ工事中なんですね」
「う、うん。でも、なんか知らない場所みたい」
「おや? 勝手に工事をしたんですか?」
「ううん。ジェイクに任せたから勝手にってわけじゃないけど……」
「そうですか。ならちょうどいい視察になりましたね」
「うん。そうだね」
そんな会話を交わしつつ、あたしたちは坑道の入口あたりに建てられた小さな小屋のほうへと向かう。
そうして小屋まで十数メートルほどの距離までやってくると扉が開き、中からかなり汚れた格好のジェイクが姿を現した。
「あ! ジェイク!」
あたしの声に反応してこちらを見たジェイクは見てわかるほどに驚き、すぐに真剣な表情で駆け寄ってきた。
「閣下、いかがなさいましたか!? メレディス卿まで連れて、何か緊急なことが?」
「え? ううん。別に緊急なことじゃないんだけど」
するとジェイクは怪訝そうな表情を浮かべる。
「あのね。クインシー・メイソンっていう、大学の先生がね。高架橋について教えてくれたの。だからもう線路を引けると思って、それでどこに通すかを見に来たの」
「は?」
「でもさ。ジェイクも前に、鉱山からのルートを考えてくれるって言ってたでしょ? だからどうなってるのかを聞こうと思って」
「そ、そうでしたか。申し訳ございませんが、まだルートの検討はできておりません。お話をいただいてから一週間も経っておりませんので」
「そっか。じゃああたしのほうで勝手にやっておおいていいよね?」
「……は」
「でさ。こっちの駅はどこに作ればいいの?」
するとジェイクはさらに困ったような表情を浮かべつつ、答えてくれる。
「まだ細かいことは決めておりません。ですが現道をベースに様子を見つつ、必要に応じて運河の開削も考えておりましたので、概ねあのあたりが荷卸し場となるかと」
「ふーん。そっか。でも運河ってスカーレットフォードまで?」
「ため池までの予定です。そこから先は馬車……いえ、すけ車による運搬を想定しています」
「そっかぁ。うん。分かった。じゃあ、あの辺に駅を作る感じで考えておくね」
「は。かしこまりました」
ジェイクはそう言って恭しく礼を執ってきた。
「ところで閣下」
「何?」
「クインシー・メイソン教授とおっしゃいましたか?」
「え? うん。そう名前が書いてあったよ」
「そうですか……」
ジェイクはなぜか困惑したような表情を浮かべている。
「どうしたの? 何かまずいの?」
「はい。あ、いえ」
「え? どっち?」
「あ、いえ、その……」
「もしかしてダメな教授なの?」
「そのようなことはありません! 大規模建築の専門家としても有名な教授ですので……」
え? ならいいんじゃないの?
……あれ?
「『も』ってことは、別のことでも有名なわけ?」
「……はい。性格にやや、いえ、かなり難のある人物らしく、評判は芳しくありません」
「ふーん。そうなんだ」
「はい」
「うん。そっか。でも、実力は確かなんでしょ?」
「は。右に出る者はいないかと」
「うん。ならいいや。ジェイク、ありがとう」
「は。恐縮です」
あたしがそう言うと、ジェイクは再び恭しく礼を執るのだった。
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