第174話 追放幼女、騎士団の訓練を見物する
王妃陛下からの返事はすぐに届いた。
どの質問にもきっちりと納得いく答えが書いてあり、橋の構造計算に関するものも追加で出した質問も含めて、署名入りでしっかり解説してくれていた。
解説してくれたのはクインシー・メイソンという人で、ルディンハム大学に在籍している現役の建築学の教授なのだそうだ。
他の専門家は署名がなかったので、この人たちは教授ではなく、王妃陛下の周囲の人なのだと思う。
特に法学の話は王妃陛下の周囲にも文官がたくさんいるしね。というか、そもそもうちだってよく考えたらジェイクかアンソニーがいるのだから、彼らに聞けば解決していたと思う。
でもさ。肥料のことが分かる人が身近にいるなんてすごいよね。やっぱり庭師かなぁ?
何せ温室で冬にキュウリが出てきたくらいだもん。
ともあれ、これで基本的なアーチ橋の構造に関する疑問はすべて解決したし、あとはルートだね。
ようし! それじゃあジェイクのところに行こうっと!
◆◇◆
あたしはいつも朝練をしている空き地に向かっている。
というのも、ジェイクは金鉱山のほうに出かけており、会いに行くためにメレディスに付き添って貰おうというわけだ。
ちなみに最近、あたしには護衛はついていない。そのかわりにシルバーウルフのスケルトンを最低でも三体護衛として連れ、さらに一人で移動するときは必ず常にD-8に騎乗することになっている。
こうすれば護衛騎士を連れているよりも安全だというのがメレディスの判断だ。
たしかに、シルバーウルフのスケルトン三体を相手にして勝てる暗殺者が来たら、メレディス以外ではどうにもならないだろうしね。
さて、そんなこんなで空き地にやってきたのだが……何あれ?
よくわからないけれど、何やら大きな籠のようなものが空に浮いている。そしてどこからかメレディスの怒声が……って、ええっ!? メレディスが浮いてる籠の中にいるんだけど!
驚きのあまり固まっている間にもメレディスは怒鳴っている。
……どうやら訓練の動きの指示をしているようだ。
「右翼の動きが遅い! そんなんじゃ包囲できねぇぞ! やり直し!」
「「「はっ!」」」
メレディスに指示され、騎士とスケルトンの混合部隊がものすごい速さで整然と下がっていく。
……あんなにスムーズなら大丈夫なんじゃないの? あれでもダメなの?
ちなみに彼らは全員フォレストディアのスケルトンに騎乗しているが、連れてきた馬はどうしたんだろう?
「もう一度だ!」
「「「はっ!」」」
彼らは隊列を整えた。
あれって、模擬戦をやっているのかな?
向かい側にはクレセントベアやシルバーウルフ……じゃなかった。フォレストウルフのスケルトンたちの軍勢がいる。そしてそのスケルトン軍団をロイドが率いているようだ。
「制圧せよ!」
ロイドが命じると、クレセントベアのスケルトンたちが騎士たちに向かって猛スピードで突っ込んでくる。さらにフォレストウルフのスケルトンたちも負けず劣らずのスピードで、しかも一糸乱れぬ動きで広がっていく。
「来るぞ! 包囲されるな! 翼を広げろ!」
「はっ!」
騎士たちもまた、一糸乱れぬ動きで広く展開していく。さらにクレセントベアのスケルトンたちが前面に出てクレセントベアのスケルトンと組み合って突撃を受け止める。
うわぁ……すごい……って、あ!
しかし騎士の一人……あれはダレルかな? ダレルっぽい騎士がフォレストウルフのスケルトンに組み付かれ、騎士は落馬……あれ? 落スケルトン?
わかんないけど、ともかく地面に落ちてフォレストウルフのスケルトンに上に乗られてしまった。
「遅ぇ! 鹿すけはもっと速く動けんだ! ビビってんじゃねぇ!」
「は、はい!」
そ、そうなんだ。綺麗な動きだったように見えたけどな……。
「お前ら! 止め! 我らが主がお越しだ!」
メレディスがそう言うと、籠のような何かが地面に降りてきた。そしてメレディスはひょいと籠から飛び出し、あたしのほうへと走ってくる。
「我が主、どうなさいました?」
「え? あ、うん……」
あれ? 何しに来たんだっけ?
「あー、えっと、すごい訓練だったね」
「まだまだですよ。これからもっと練度を上げていきますから」
「うん。えーっと、あー、あのさ。メレディス、さっき空に浮いてたよね?」
「ああ、あれですか。まだ試作段階ですがね。臨時予算をいただいたんで、作らせたんですよ」
「そうなんだ……って、そうじゃなくて、どうやって浮いてたの?」
「もちろん、鳥すけが飛んでるんですよ」
「え? 鳥の?」
「ええ。以前、岩を落として敵を倒したという話を聞きましてね。で、岩が持ち上げられるなら人も持ち上げられるって思ったんですよ」
……それもそうだね。思いつきもしなかったや。
「空に目があれば敵陣は丸見えですから」
「そ、そっか……」
「それで、なんの御用で? 今は執務のお時間のはずですが……」
「あれ? あー、えっと……あ! そうだ! あのね! 金鉱山にいるジェイクのところに行きたいの」
「ん? それなら鳥すけで呼び戻せばいいのでは?」
「ううん。そうじゃなくてね。線路を通す場所の地形を自分の目で見たいの」
メレディスは一瞬キョトンとした表情になったが、すぐに真顔に戻る。
「かしこまりました。ではお供します」
「うん。訓練の時間にごめんね」
「いえ。レスリーとロイドが引き継ぎますので」
「そっか。レスリー、ロイド、メレディスを借りるからここはお願いね」
「「はっ」」
こうしてあたしはメレディスを連れ、金鉱山へと向かうのだった。
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