第89話 理解のあるプロデューサー
◇
『スターハーツ、新形態でもヒーロー活動』
朝のニュース番組では、僕たちの姿が何度も映し出されていた。
スターハーツは長らく活動を休止していたが、先日の放火事件、そして崩落事件で再びヒーローとして活躍。正体が明るみになっても人を救うことをやめない彼らに、賞賛の声が集まっています――。
画面には、獣人形態の僕たちが現場で救助にあたる映像が流れている。続いて、ソフィーが獣の姿になった写真も映った。
『新形態、獣人形態』
『獣形態』
テロップには、そんな名前が大きく表示されていた。
「……また変な名称つけられてる」
思わずため息が漏れる。
名前を付けたのはニュース番組なのか、誰かの投稿なのかは分からない。けれど、僕たちが決めたわけじゃないのに、いつの間にか新形態として紹介されていた。
画面の中で、僕の尻尾が大きく揺れている。
「人気みたいでよかったじゃない」
隣からアメリアが言った。
「よくないよ。ライカンフォルムって……」
「呼びやすいじゃない」
「そうかなぁ」
ニュースキャスターは、街の人たちから寄せられた声を読み上げていた。助けてもらったことへの感謝や、これからも応援しているという言葉が続く。
正体が知られてしまった以上、以前のように隠れて活動するのは難しい。それでも、僕たちがしたことを喜んでくれる人がいる。
その事実は、胸の奥を少しだけ温めた。
画面が次の話題へ切り替わる。僕は空になったグラスを置き、もう一度だけ小さく息をついた。
「……せめて、名前は自分たちで決めたかったな」
◇
その日の午後、マナリンクに差出人不明のメッセージが届いた。
『スターハーツの皆さんへ。お話ししたいことがあります。今日の午後4時、旧市街の時計塔前まで来てください』
「差出人が分からないのに、行くの?」
アメリアが画面を覗き込む。
「呼び出し方も、ずいぶん怪しいね」
「でも、スターハーツ宛てだよ。僕たちに話があるんじゃないかな」
「罠だったらどうするのよ」
「その時はすぐ逃げよう」
「簡単に言うわね……」
アメリアは呆れたように息をついたが、結局ついてきてくれた。
指定された時計塔の前には、ソフィーも来ていた。彼女は周囲を見回し、僕たちを見つけると小さく手を振る。
「2人とも、メッセージ来た?」
「うん。差出人は分からないけど」
「私のところにも来たよ。ちょっと怖かったけど、気になって」
3人で時計塔の周りを確かめる。待ち合わせの相手らしい人影は見当たらない。
「誰もいないわね」
アメリアが腕を組んだ、その時だった。
「スターハーツの皆さんで間違いないかな?」
背後から男の声がした。
振り返ると、少し離れた街灯の下に、見覚えのない男が立っていた。地味な上着に身を包み、手には古びた鞄を持っている。体つきは細く、目元には疲れが浮かんでいた。
「あなたが呼び出した人?」
アメリアが一歩前に出て尋ねる。
「そうだよ。おいらはアライ。急に呼び出してごめん」
男は両手を軽く上げ、敵意がないことを示した。
「アライ……?」
僕たちが首を傾げると、アライは困ったように頬を掻いた。
「本名だよ。前に公園で会った時は、アライグマの怪人だったから……ラクーンって言った方が伝わるかなって思ってさ」
「ラクーンさん!」
ソフィーの顔が強張った。
あの日、彼女はD因子に操られていたラクーンを凍らせた。傷つけてしまったことを、ずっと気にしていた。
「ごめんなさい……私、あの時……」
ソフィーの声がかすれる。
アライは首を横に振った。
「謝らなくていいよ。むしろ、おいらはソフィーに感謝してるんだ」
「感謝……?」
「ソフィーの氷で身体だけじゃなく、D因子まで凍ったんだ。あのまま暴れ続けていたら、薬が切れて死んでいたかもしれない。凍らせてもらったおかげでD因子がそれ以上暴れずに済んだ。治安維持部隊に運ばれてから抑制剤を使って、こうして元の姿に戻れたんだよ」
アライは自分の胸元に手を当てた。人間の姿に戻った今も、その表情にはあの時の怯えが残っている。
「おいらを助けてくれて、ありがとう」
ソフィーの目に涙が浮かんだ。
「よかった……。ずっと、あの時のことが気になってたの」
「本当に助かったんだ。だから、そんな顔をしないでおくれよ」
アライが照れくさそうに頬を掻く。ソフィーは何度か瞬きをして、ようやく小さく笑った。
「それで、私たちを呼んだ理由は?」
アメリアが尋ねる。警戒は解いていないようだけれど、さっきより声は柔らかかった。
「スターハーツのヒーロー活動を、おいらにプロデュースさせてほしいんだ」
「プロデュース?」
「活動を続けるための相談に乗ったり、外から君たちを守ったりする役目だよ。おいらは以前、プロデューサーをしていたんだ。でも、正直に言えば、あまりぱっとしない仕事ぶりだった。売り込みも下手で、周りに軽く見られることも多かった」
アライは一度、視線を落とした。
「けれど、君たちのことを好き勝手に言ったり、口撃したりする連中を見ていたら、だんだん腹が立ってきたんだ。正体が知られて、好奇の目に晒されている君たちを、誰も守ってくれない。それなら、おいらがちゃんと守ってみせる。ヒーロー活動を続けるために必要なことも、一緒に考えたい」
「私たちの活動を、あなたが支えてくれるの?」
アメリアが身を乗り出した。
さっきまでの慎重な様子が少し変わっていた。目が輝き、尾が期待するように揺れている。
「ええ、いいじゃない! 私たちには、活動を支えてくれる大人が必要よ。現場の後始末や取材への対応だって、いつも自分たちだけじゃ手が回らないもの。アライ、ぜひお願いするわ!」
「アメリア、乗り気だね……」
「当然でしょ。私たちを守るために動いてくれるって言ってるのよ?」
「ただし、勝手に話を進めないこと。私たちの意見を聞いてから動くのが条件よ」
「もちろんだよ」
アライは真剣にうなずいた。
「僕は、アライさんにお願いしてもいいと思う」
「アレックスも?」
「うん。アライさんはD因子で苦しんだ人だ。僕たちのことを商品みたいに扱わず、守ろうとしてくれるんじゃないかな」
ソフィーも頷く。
「私もお願いしたい。アライさんなら、私たちの気持ちを分かってくれると思う」
アメリアが僕たちを順番に見て、それからアライへ向き直った。
「決まりね。正式にスターハーツのプロデューサーをお願いするわ」
「ありがとう。君たちが安心してヒーロー活動を続けられるよう、おいらにできることをするよ」
アライは深く頭を下げた。
こうしてスターハーツに、初めてのプロデューサーが加わった。獣人形態獣人形態獣形態




