↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
57/67

第57話 子供の遊びは程々に

◇


子供の姿をしたエラは、僕たちと一緒にリビングのテーブルを囲んでいた。


最初は人目を気にして俯いていたけれど、ソフィーが学校の話を始めると、少しずつ会話へ加わるようになった。


「エラちゃんも、今度一緒に学校へ行こうよ」


「でも……こんな姿、みんなに見られたら……」


「その時は私たちが説明するわ」


アメリアが当然のように言う。


「何か言ってくる奴がいたら、私が懲らしめてあげる」


「アメリアはすぐそういうこと言うんだから」


「何よ。悪口を言う方が悪いでしょ?」


2人のやり取りを見て、エラが小さく笑った。


さっきまで泣いていた顔に笑顔が戻ったことに、僕も少しだけ安心する。


「エラ、今度は一緒にご飯を食べようよ。キュナもその方が喜ぶし」


「……うん。辛い料理がいい」


「そこはやっぱり変わらないんだね」


その時だった。


ジジッ!


マナリンクから、治安維持部隊の緊迫した無線が流れる。


『上層第7区に大型自立兵器が出現! 周辺の建物及び車両を無差別に破壊している!』


通信の向こうから、激しい銃声と金属のぶつかり合う音が聞こえた。


『こちら第3班、既に交戦中だが歯が立たない! 至急、応援を――』


ドォォォン!


『う、うわぁぁぁぁっ!』


断末魔のような叫びを最後に、無線が途切れた。


僕たち3人は顔を見合わせる。


「……行くわよ」


アメリアが立ち上がった。


ソフィーも真剣な表情で頷く。


「ごめん、エラ。用事ができた」


「えっ?」


会話を途中でぶった切り、僕たちは玄関へ向かう。


「ちょ、ちょっと待って! どこに行くの?」


「すぐに戻るから!」


「アレクお坊ちゃま、お食事の片付けは――」


「キュナ、後で!」


エラとキュナを残し、僕たちは家を飛び出した。


◇


現場へ近づくにつれ、地面を揺らすような衝撃音が大きくなっていった。


ドン!


ドン!


ドォン!


角を曲がった瞬間、巨大な何かが乗用車を蹴り飛ばした。


車体は横転し、窓ガラスを撒き散らしながら道路を滑っていく。


「何、あれ……」


隣を走っていたソフィーが息を呑む。


通りの中央で暴れていたのは、全高2メートルほどの大型ロボットだった。


分厚い装甲に包まれた胴体。


腕は人間の胴ほども太く、巨大な拳が地面へ届きそうなほど長い。


脚部も重く頑丈そうで、踏み出すたびに舗装された道路へ亀裂が走る。


頭部には顔らしいものがなく、横一線の発光部が不気味に明滅していた。


「いけ! ガング! 全部ぶっ壊せ!」


ロボットの傍らから、楽しそうな声が上がる。


声の主は、まだ幼い男の子だった。


見た目は6歳ぐらい。


小柄な身体に、黄色と黒を組み合わせた丈の長いジャケットを羽織っている。


明るい金髪は毛先があちこちへ跳ね、その周囲では細い黄色の電流が弾けていた。


ジャケットには黒いベルトや金属製の留め具がいくつも付き、胸元には黄色い液体の入った小さな筒が並んでいる。


肩と腰の後ろから伸びた3本の黄色いコードは、ガングの背中にある接続口へ繋がっていた。


先端の大型プラグから黄色い電流が流れ込み、ガングの装甲に刻まれた回路を明滅させている。


ガングは自分で標的を選んで動けるらしい。


けれど、巨体を動かすための電力は、あの子供から送られているんだ。


「ガング! 次はあっち! あのおっきい建物、壊して!」


黄色い子供が両腕を上げる。


背中のコードを走る電流が強くなり、ガングの発光部が眩しく輝いた。


大型ロボットが両腕を振り上げる。


「させないわ!」


アメリアが飛び出した。


僕たちは人目の途切れた場所へ駆け込み、同時に変身を始める。


アメリアの身体を紅い魔導回路が包み、紅と白の装甲を組み上げていく。


ソフィーの周囲には白い魔導回路が走り、白銀の髪と機械猫耳を持つ小柄な機械少女へ変わった。


僕の全身にも蒼い魔導回路が広がり、白銀と蒼の装甲が生身の身体を置き換えていく。


「スターハーツ、行くわよ!」


イアハートが地面を蹴った。


ガングの拳が建物へ振り下ろされる寸前、紅い戦乙女がその腕へ跳びつく。


「はぁっ!」


紅い装甲に包まれた蹴りが、ガングの肘へ直撃した。


ガァン!


重い金属音が響く。


ガングの腕は僅かに逸れ、巨大な拳が建物の壁ではなく道路を叩き砕いた。


「何だよ、お前!」


子供が頬を膨らませる。


「ガングの遊びを邪魔するな!」


「建物を壊すのは遊びじゃないわ!」


イアハートは着地と同時に踏み込み、ガングの脚へ拳を打ち込んだ。


紅い拳が装甲を叩くたび、火花が飛ぶ。


けれど、ガングの分厚い脚部には小さなへこみしか残らなかった。


「硬い……!」


「もっとパワーをあげる!」


子供が歯を見せて笑う。


金髪の周囲で黄色い電流が激しく弾け、3本のコードを通してガングへ流れ込んだ。


ブゥゥゥン!


ガングの全身から低い駆動音が響く。


さっきよりも発光部が強く輝き、装甲の隙間から黄色い光が漏れ出した。


ガングが腕を横薙ぎに振るう。


「イアハート!」


僕が叫ぶより早く、イアハートは身体を反らして巨大な拳をかわした。


拳が頭上を通過しただけで、激しい風圧が赤い髪を巻き上げる。


続けてガングの反対側の腕が迫った。


イアハートは地面を蹴て後方へ飛んだが、拳の先が腰の装甲を掠める。


「きゃっ!」


身体が弾き飛ばされ、道路を転がった。


「イアハート!」


「これぐらい平気よ!」


イアハートは片手を地面につき、すぐに立ち上がった。


「スノーホワイト、脚を凍らせられる?」


「やってみる!」


スノーホワイトが両手をガングへ向ける。


白い魔導回路が腕を走り、機械の指先へ集まった。


「凍っちゃえ!」


両手から白い冷気の光線が放たれる。


光線はガングの右脚へ命中し、装甲の表面へ霜を広げた。


たちまち膝から下が氷に覆われる。


「やった!」


ガングの動きが止まった。


けれど、子供は面白がるように笑っている。


「そんな氷、ガングのパワーで壊せ!」


黄色いコードの中を、何度も電流が脈打った。


ガングが供給された電力を脚部へ集中させ、凍りついた足を強引に持ち上げる。


バキン!


まとわりついた氷が砕け、無数の破片となって飛び散った。


「えっ!?」


「この程度じゃ止められない……」


スノーホワイトの表情が強張る。


「この天才の僕、ヴィクター製のガングは最強なんだぞ!」


子供――ヴィクターは両手を上げて飛び跳ねた。


「踏んじゃえ! ぺちゃんこにしろ!」


ガングの巨大な足が、スノーホワイトの頭上へ迫る。


僕は全速力で飛び込み、小さな身体を抱えて地面を転がった。


直後、ガングの足がさっきまで2人のいた場所を踏み砕く。


腹に響く衝撃と共に、砕けた舗装材が装甲へ降り注いだ。


「アレクサンダー、ありがとう」


「うん。でも、このままじゃ……」


近づけば、電力で強化された巨大な腕に薙ぎ払われる。


離れれば、スノーホワイトの冷気でも装甲の表面を凍らせるだけだ。


イアハートの攻撃も効いてはいるけれど、装甲を破壊するには威力が足りない。


ガングはヴィクターから電力を受け取る限り、力を出し続けられる。


コードを狙おうにも、ガングの巨体がヴィクターと接続部を守っていた。


僕はガングの拳を避けながら、2人の姿を見る。


イアハートの大剣。


スノーホワイトのキャノン。


試したばかりの武器化なら――。


「2人とも、聞いて!」


僕たちはガングから距離を取り、倒れた車の陰へ身を寄せた。


「まず、スノーホワイトをキャノンにする。あれなら氷の力を一気に撃ち込めるはずだ」


「その後は?」


「ガングが凍って動けなくなったら、今度はイアハートを大剣にする。僕が装甲を斬る」


イアハートがガングを睨みながら頷く。


「いいわ。ただし、1回でも外したら終わりよ」


「外さない」


「私も頑張る!」


スノーホワイトが僕の前へ立った。


「アレク、お願い!」


「ちょっとくすぐったいかもしれないよ」


「今は我慢する!」


僕がスノーホワイトの肩へ触れる。


胸の発光部から蒼い魔導回路が伸び、僕の腕を通って白い装甲へ流れ込んだ。


カチャカチャカチャ!


スノーホワイトの身体が折り畳まれ、次々に形を変えていく。


白銀の外殻が長い砲身を作り、内部に黒い機構が組み上がった。


砲身の上には青く光る機械猫耳が残り、後部からは白い機械の尻尾が弧を描いて伸びる。


両手で抱えるほど大きな、白銀のキャノン。


『アレク、準備できたよ!』


「重いけど……これなら!」


後部の主グリップと前方の補助グリップを握り、ガングへ砲口を向ける。


円形の砲口に白い光が集まり、周囲の空気が一気に冷えていく。


「また変なオモチャだ!」


ヴィクターがガングの背後から笑った。


「電気いっぱいあげるから、壊せ!」


ヴィクターの全身を黄色い電流が駆け巡る。


3本のコードが眩しく発光し、送られた電力によってガングの発光部が限界まで輝いた。


ガングが地面を蹴る。


巨体からは考えられない速さで迫ってきた。


照準が激しく揺れる。


まだだ。


今撃って外せば、次はない。


ガングが右腕を振り上げた。


「アレクサンダー!」


イアハートの叫び声が響く。


砲口の先で、ガングの発光部がこちらを捉えた。


「今だ、スノーホワイト!」


『うん! 凍っちゃえぇぇっ!』


トリガーを引く。


砲口から白い閃光が放たれた。


ゴォォォォッ!


雪崩のような冷気が正面からガングを呑み込む。


巨大な拳が僕の顔へ届く寸前、その表面に白い霜が走った。


霜は瞬く間に腕から肩、胸、脚へ広がっていく。


背中へ接続された3本のコードも、流れる黄色い電流ごと白い氷に閉ざされた。


ガングの巨体が、拳を突き出した姿勢のまま凍りつく。


道路も白い氷に覆われ、周囲へ細かな雪の結晶が舞った。


「ガング?」


ヴィクターの笑顔が消える。


「動けよ! もっと電気をあげるから!」


ヴィクターの髪から激しい電流が放たれ、凍ったコードへ流れ込む。


氷の内側で黄色い光が明滅した。


凍りついた機体から、低い駆動音が漏れる。


ミシッ。


氷の表面に亀裂が入った。


「長くは止められない!」


『アレク、急いで!』


僕が武器化を解除すると、キャノンが白い光に包まれ、スノーホワイトの姿へ戻る。


「次は私ね!」


イアハートが迷わず僕の前へ立った。


僕は差し出された手を握る。


蒼い魔導回路が、紅と白の装甲へ伝わった。


イアハートの身体が折り畳まれ、人の背丈ほどもある大剣へ変形していく。


白銀の幅広い刀身。


中央を走る紅い光。


鍔の中心では、紅いハート型の発光部が強く輝いている。


『ちゃんと両手で持ちなさいよ!』


「分かってる!」


長い柄を両手で握り、腰を落とす。


ずしりとした重さが腕と肩へかかった。


目の前では、ガングを覆う氷の亀裂がさらに広がっている。


ヴィクターが送り続ける電力が、機体を無理矢理動かそうとしていた。


バキン!


右腕の氷が砕ける。


凍結が完全に破られる前に、決めないといけない。


「やっちゃえ! アレク!」


スノーホワイトの声に背中を押され、僕は氷の上を駆け出した。


ガングの右腕が鈍い動きで振り下ろされる。


身体を横へ逸らす。


巨大な拳が肩の装甲を掠め、激しい火花が散った。


痛い。


それでも、足は止めない。


僕はガングの懐へ踏み込んだ。


「イアハート、力を貸して!」


『最初からそのつもりよ!』


紅い光が刀身から噴き上がる。


「うおぉぉっ!」


全身の力を込め、大剣を斜め上へ振り抜いた。


紅い閃光が、凍ったガングの胴体を走る。


一瞬遅れて、分厚い装甲に真っ直ぐな亀裂が生じた。


ガァァァン!


ガングの上半身が大きく傾き、内部から火花と黒い煙が噴き出す。


背中の接続口が壊れ、3本の大型プラグが弾き出された。


ヴィクターから送られていた黄色い電流が途絶える。


横一線の発光部が明滅し、そのまま消えた。


巨体は膝から崩れ、道路へ倒れ込む。


地面を揺らす轟音が響いた。


「……ガング?」


ヴィクターが、動かなくなった大型ロボットを呆然と見つめる。


「起きてよ」


返事はない。


ヴィクターは外れたプラグをガングの背中へ押しつけた。


「電気あげるから! ほら、起きろよ!」


プラグの先で黄色い電流が弾ける。


けれど、壊れた接続口は電力を受け取らない。


「ガング! まだ遊ぶんだぞ! 起きろよぉ!」


ヴィクターは倒れた装甲を小さな拳で何度も叩いた。


それでも、ガングは動かなかった。


「う……うぅ……」


金色の瞳から、大粒の涙がこぼれる。


「うわぁぁぁぁん! 僕のガングぅぅぅ!」


ヴィクターは顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくった。


黄色いコードの先で大型プラグが揺れ、周囲へ細い電流が弾ける。


「お前らなんか大っ嫌いだぁ! マッドハッターに言いつけてやるからなぁ!」


涙を拭うこともせず、ヴィクターは背を向けた。


「覚えてろよぉぉぉ!」


幼い泣き声を響かせながら、ヴィクターは通りの奥へ逃げていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。