第55話 悪魔の囁き
『VRシューティングゲーム』
『サイバーペインター2』
近日発売!
テレビ画面に映し出された宣伝映像を、僕は食い入るように見つめていた。
サイバーペインター。
前作は神ゲーだった。
何度も夜更かしして遊び続け、最後にはキュナに家の電気を落とされるまで夢中になっていた。
「2も絶対にやりたい……」
発売を楽しみにしていたけれど、遊ぶには仮想空間生成魔導器が必要らしい。
価格は、なんと10万ギナ。
僕のお小遣いで買える金額じゃない。
ジャンヌの家で遊ばせてもらおうと思った。
けれど、ジャンヌは、
『あーしは体を動かすゲームやらん』
と言って、買うつもりはないらしい。
リアムは仮想空間生成魔導器を持っている。
クラスのみんなも、誕生日プレゼントやお小遣いの前借りで買うそうだ。
僕も欲しい。
どうしても欲しい。
マナリンクで、12歳でもできるアルバイトを検索する。
けれど、そんな都合のいい仕事があるはずもなかった。
「……ないか」
肩を落とした、その時だった。
ピピッ。
マナリンクにメッセージが届く。
差出人は、スターハーツグループ。
開いてみると、アメリアからの文章が表示された。
『スターハーツの活動資金として10万ギナ入れて、口座を作っておいたわ』
『アレックス、アンタはいつも丸腰で戦いに来るんだから、ちゃんと武器を持って来なさい?』
『もちろん、職質されても大丈夫な形で持ち運べるものよ』
10万ギナ。
流石はお金持ちの家だ。
画面に表示された金額を見て、思わず喉が鳴る。
ごくり。
これがあれば、サイバーペインター2が買える。
仮想空間生成魔導器だって買える。
僕の中で、悪魔が囁いた。
買っちゃえ。
活動には、その場で武器を作ればいい。
それに、少しくらいなら――。
「ダメダメ!」
慌てて首を振る。
これは人助けのためのお金なんだ。
◇
「で? 武器は決めたの?」
誰もいない路地裏で、アメリアが尋ねてくる。
今日は、戦い方の再確認と、それぞれに何ができるのかを調べるヒーローミーティングだ。
「ちょっと調べたいことがあってさ」
僕は2人を見ながら説明を始めた。
アメリアのプロテウスは近接特化型。
変身すると俊敏性や腕力が増し、武器も達人のように扱える。
ソフィーのプロテウスは、ソフィーが元々持っている氷魔法を強化する。
手や足から氷のビームを撃つこともできるらしい。
そして、僕のプロテウスは――
触れた物を魔導器に変え、その性能や形まで変えられる。
変身したイアハートを、大剣に変えたこともある。
「ソフィー、スノーホワイトに変身できる?」
「うん」
ソフィーの身体が白い魔導回路に包まれていく。
白い装甲が身体を覆い、髪や瞳が淡い光を帯びる。
スノーホワイトへ変身したソフィーを見て、僕も蒼い魔導回路を走らせた。
「ちょっと触るね」
僕の手がスノーホワイトの装甲に触れる。
蒼い光がソフィーの身体へ伝わった。
白い装甲が折りたたまれ、形を変えていく。
猫耳のような装飾が上部に現れ、後方には機械式の尻尾が伸びた。
やがて、スノーホワイトの身体は巨大なキャノンへと変形する。
「きゃっ!」
白い砲身の側面に、猫耳と尻尾が付いている。
まるでゲームに登場する武器のようだった。
「すごい! サイペンの武器みたい!」
『アレク! くすぐったいよ!』
キャノンの身体になったまま、スノーホワイトが声を上げる。
砲身がわずかに動き、機械式の尻尾が揺れた。
「トリガーを握ってるだけなんだけど……」
僕の手には、砲身から伸びたグリップが収まっている。
イアハートの大剣。
スノーホワイトのキャノン。
「これがあれば、僕も戦えるよ」
「……確かに強いかもしれないけど、その分、人手が減るんだからね?」
アメリアの指摘に、僕は黙り込んだ。
言われてみれば、その通りだ。
武器に変えている間、ソフィーは自分で動けない。
「最後の切り札にしておきなさいよ」
「そうだね。また別の武器を考えるよ」
僕が手を離すと、キャノンの形がゆっくりとほどけていく。
白い装甲が組み上がり、ソフィーの姿へ戻っていった。
僕たちも変身を解除する。
どこからか、お昼の12時を知らせる音が鳴り響いた。
「もうお昼かぁ…」
今日はミーティングの後、2人とも僕の家で昼ご飯を食べる予定だ。
朝からキュナが、僕の友達が来ると張り切っていた。
2人を案内しながら、自宅へ向かって歩き出す。
◇
「ここがアレックスの家ね? 住みやすそうでいいじゃないの!」
アメリアは玄関からリビングまで見渡しながら、満足そうに頷いた。
「アメリアの家も、これぐらいあるの?」
「私の家は3倍ぐらいあるわ」
「……聞いた僕が馬鹿だった」
玄関の奥から、キュナが小走りでやって来る。
「アメリア様、ソフィア様! いらっしゃいませ!」
キュナは丁寧にお辞儀をすると、2人をリビングへ案内した。
テーブルには、キュナが張り切って用意した料理が並んでいる。
焼きたてのハンバーグに、色とりどりの野菜。
湯気の立つスープと、香ばしいパン。
「わぁ、おいしそう!」
ソフィーの顔が明るくなる。
「今日はお友達が2人も来てくれましたから、腕によりをかけましたー♪」
アメリアはナイフとフォークを手に取り、ハンバーグを切り分けた。
「これ!すごく美味しいわ!」
「ありがとうございます、アメリア様!」
「ソフィーも遠慮しないで、いっぱい食べなよ」
「うん! いただきます!」
3人でテーブルを囲み、学校の話をしながら食事を続ける。
ソフィーは今日の授業であったことを楽しそうに話し、アメリアは時々口を挟みながら笑っていた。
僕は2人の話を聞きながら、いつもの家が少しだけ賑やかになっていることを感じていた。
食事を終えると、キュナが別の皿を手に取った。
「それでは、エラ様のお食事をお部屋の前までお持ちしますねー」
「あら?」
アメリアが顔を上げる。
「アレックスの他にも、誰か住んでるの?」
「うん。エラっていう、アメリアと同い年の子がホームステイしてるんだ」
「エラ?」
アメリアは少し考えるように首を傾げた。
「もしかして、私のクラスの通信教育の子かも!」
「通信教育?」
「そう。あの子、体育を全部休んでるから、1度も会ったことがないの」
アメリアは興味を持ったように身を乗り出した。
「ぜひ1度、挨拶したいわ」
「でも、エラはお昼も部屋から出てこないよ?」
「私たちが部屋に行けばいいじゃない!」
「あっ、ちょっと!」
止める間もなかった。
アメリアは席を立つと、エラの部屋へ向かって歩き出す。
そして、ノックをした後、返事を待つこともなく、部屋のドアを開け放った。




