第48話 転校生
休み時間に入るたび、3人はクラスのみんなから質問攻めにされていた。
「どこから来たの?」
「翼って触ってもいい?」
「水の中でも息ができるの?」
「尻尾、ふわふわだね!」
サパタは聞かれるたびに翼を広げて見せ、マヒナは少し照れながら身体の仕組みを説明している。
イヌイットは質問される前に、自分から故郷の話を始めていた。
「雪の上を走るの、すっごく速いんだよ!」
「本当に? どれくらい?」
「先生より速い!」
「それは無理だろう!」
リアム君が笑いながら突っ込む。
ソフィーもリアム君も、早速3人と打ち解けているようだった。
すごいな。
僕には、あんなふうにすぐ話しかけることはできないや。
何を話せばいいのか分からないし、変なことを言ってしまったらどうしようと考えているうちに、話すタイミングを逃してしまう。
失礼なことを言ってしまったらどうしよう。
相手を困らせたらどうしよう。
そんなことばかり考えてしまう。
だから、自然に会話を続けられるみんなが少し羨ましかった。
◇
午後の体育は、ドッジボールだった。
ヒート先生がボールを高く掲げる。
「今日は思いきり走れ! 最後まで立っていた者が勝者だ!」
開始の笛が鳴る。
ボールが飛び交い、あちこちから歓声や悲鳴が上がった。
僕は最初から、ボールを取ることを諦めていた。
飛んできたら避ける。
それだけに集中する。
「アレックス、右!」
ソフィーの声に反応して、身体を横へ投げ出す。
すぐそばをボールが通り過ぎ、背後の壁に当たって跳ね返った。
「危なかったね!」
「ありがとう。ソフィーは、よくボールを取れるね」
ソフィーは楽しそうに笑うと、転がってきたボールを両手で拾い上げた。
「えいっ!」
勢いよく投げたボールが、相手の男子の肩に当たる。
「アウト!」
ソフィーはそのまま次のボールを探し、今度は別の相手を狙った。
小さな身体なのに、動きが速い。
相手の投げたボールを軽々とかわし、隙を見つけては正確に投げ返していく。
「ソフィー、すごいな。昔は病気で寝たきりだったって聞いたけど、本当かよ」
近くにいた男子が呟く。
「今は元気だから大丈夫だよ!」
ソフィーはそう答えながら、またボールを投げた。
その直後だった。
サパタが翼を大きく広げ、空中へ舞い上がった。
「そこだーっ!」
上空から急降下しながら、手にしたボールを相手陣地へ叩き込む。
ボールはものすごい勢いで飛んでいき、相手の足元に転がった。
「サパタ! 飛行は禁止だ!」
ヒート先生が笛を鳴らす。
「えっ、そうなの?」
サパタは地面へ降り立ち、きょとんと首を傾げた。
僕は驚くより先に、思わず笑ってしまった。
マヒナは激しい運動があまり得意ではないらしい。
何度かボールを避けようとしていたが、ついに肩へ当たってしまった。
その瞬間、身体から細かな水飛沫が飛び散る。
「わっ!」
「大丈夫、マヒナ?」
ソフィーが駆け寄る。
「平気です。少し水が飛んだだけですから」
マヒナは落ち着いた様子で答えた。
とても潤いに満ちた身体らしい。
一方、イヌイットは最初から最後まで、ボールを追いかけ続けていた。
尻尾をぶんぶん振りながら、誰かが投げるたびに走り出す。
転んでもすぐに立ち上がり、また走る。
「イヌイット、少し休め!」
ヒート先生が声をかけても、本人は楽しそうに笑っている。
「まだまだ走れるよ!」
無尽蔵のスタミナだ。
……そういう競技じゃないのに。
◇
放課後。
終業のチャイムが鳴ると同時に、リアム君が勢いよく立ち上がった。
「アレックス! ソフィー! 帰ったらソッコー集合な!」
それだけ言い残すと、リアム君は教室から飛び出していった。
◇
「ただいま。友達と遊んでくる!」
玄関へ駆け込むなり、僕は声を張った。
台所で洗い物をしていたキュナが、踏み台の上から振り返る。
「あらあら、アレク坊ちゃまにも学校でお友達ができて、キュナも嬉しいです」
「そんなに珍しいことみたいに言わないでよ」
「はいはい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
僕は鞄を置き、自転車を引っ張り出した。
待ち合わせ場所は、学校から少し離れた空き地だ。
サドルにまたがり、ペダルを勢いよく踏み込む。
車道を走る魔導車の音を聞きながら、僕は空き地へ向かって自転車を飛ばした。
その途中、マナリンクが短く振動する。
通信の着信だった。
「アレックス? 今日は暇? ちょっと付き合いなさいよ」
画面に映ったのは、アメリアだった。
「ごめん。今日はソフィーたちと遊ぶんだ」
「はぁ!?」
「そんなに驚かなくても……僕にだって友達はいるんだから」
「フン! もういいわ!」
「えっ、ちょっと――」
ブチッ。
乱暴に通信が切れた。
画面が暗くなる。
「なんで不機嫌なんだろう……」
理由が分からないまま、僕は自転車を漕ぎ続けた。
空き地に着くと、すでに2人が来ていた。
「アレックス! おせーよ!」
リアム君が、ホイールシュートのケースを掲げている。
隣ではソフィーが、青い瞳を輝かせながら地面に描かれた円形のフィールドを眺めていた。
「ごめん。ちょっとマナリンクで通信してて」
「アメリア?」
ソフィーが首を傾げる。
「うん。でも、なんだか怒って切られちゃった」
「アレックスがこっちに遊びに来るって言ったから?」
「たぶん違うと思うけど……」
リアム君が肩をすくめた。
「まあ、今はホイールシュートだ! ほら、早くこれ持てよ!」
ケースの中には、大小さまざまな円盤型パーツや、色の違う軸、細い魔導輪が整然と並んでいた。
「これ、全部使うの?」
「全部じゃない。組み合わせて自分のコマを作るんだ」
リアム君は慣れた手つきで、いくつかのパーツを取り出した。
「これは重いから、ぶつかった時に強い。こっちは回転が長持ちする。あと、この輪を付けると相手を弾きやすくなる」
「そんなに違うんだ」
「見た目だけで選ぶと負けるぞ」
リアム君は得意そうに笑った。
僕は青と銀のパーツを選び、ソフィーは白と水色のパーツを手に取った。
「これ、かわいいね」
「見た目だけじゃ勝てないぞ」
「じゃあ、かわいくて強いのにする!」
ソフィーは真剣な顔でパーツを組み合わせていく。
リアム君は赤と黒の重いパーツを中心に、自分のコマを完成させた。
「俺のは《ブレイズ・ホーク》! 攻撃型だ!」
「僕のは……《ブルー・スター》で」
「私は《スノー・フラワー》!」
ソフィーが嬉しそうに名前をつけた。
地面には、簡易フィールドの魔導円が淡く光っている。
その外側には、コマを発射するための溝が3つ並んでいた。
「まずは俺が説明する。発射台にコマをセットして、魔導輪を引くんだ」
リアム君が自分のコマを溝に置く。
「せーので引くぞ!」
僕とソフィーも、見よう見まねでコマをセットした。
「3、2、1……ホイールシュート!」
3つの魔導輪を同時に引く。
青、白、水色、そして赤と黒のコマが、勢いよくフィールドへ飛び出した。
ブゥン!
魔導輪が光を放ち、コマが高速回転を始める。
「すごい……!」
ソフィーのコマは円周に沿って滑り、僕のコマは中央付近を安定して回っていた。
リアム君のブレイズ・ホークは、最初から一直線にこちらへ向かってくる。
「来るぞ!」
ガキィン!
激しい音を立てて、僕のブルー・スターと衝突した。
僕のコマが大きく弾かれ、フィールドの端まで滑っていく。
「アレックス、負けるな!」
ソフィーが声を上げる。
その隙に、スノー・フラワーがブレイズ・ホークの側面へ回り込んだ。
カンッ!
白いコマが赤黒いコマを弾き、回転の軌道を乱す。
「おおっ! ソフィー、今のはいいぞ!」
「本当?」
「相手の正面からぶつからずに、横から当てたんだ!」
リアム君が驚いたように身を乗り出す。
僕は端まで追い込まれたブルー・スターを見つめた。
このままでは外へ弾き出される。
「戻れ!」
思わず声をかける。
もちろん、コマが言葉を聞くわけではない。
それでも、魔導輪の光が一瞬だけ強くなり、ブルー・スターが軌道を変えた。
フィールドの縁を滑りながら中央へ戻ってくる。
「今だ!」
僕は魔導輪を操作し、コマの回転をわずかに調整した。
ブルー・スターがスノー・フラワーと並んで走り、2つのコマが同時にブレイズ・ホークへぶつかる。
ガキィィン!
3つのコマが激しく弾き合う。
赤黒いコマが大きく跳ね、フィールドの外へ飛び出した。
「場外! 俺の負けかよ!」
リアム君が頭を抱える。
白と青のコマは、しばらく回り続けた後、ほとんど同時に止まった。
「引き分けだね!」
ソフィーが嬉しそうに笑う。
「いや、今のは俺の調整が悪かっただけだ。もう1回やろうぜ!」
リアム君はすぐにコマを拾い上げ、次のパーツを選び始めた。
僕もブルー・スターを手に取る。
少し傷がついていたが、まだ使えそうだった。
放課後の空き地に、魔導輪の音と3人の笑い声が響いていた。




