第46話 新ヒーロー誕生
◇
「はい、これ」
アメリアが抱えてきた服を、ソフィーへ差し出した。
白いブラウス。
紺色のリボン。
淡い水色のカーディガンと、紺色のスカート。
黒いタイツまで揃っている。
「変身を解いたら服がなくなるなんて、思わなかったわ」
「ご、ごめんなさい……」
「ソフィーが謝ることじゃないでしょ。あたしが用意したんだから、ちゃんと着なさい」
ソフィーは頷き、治療室の奥へ引っ込んだ。
しばらくして戻ってきた彼女は、以前学校で見た時と同じ姿になっていた。
白い肌。
腰まで流れる白銀の髪。
淡い青色の瞳。
もう獣の耳も、牙も、黒い縞模様もない。
「どうかな?」
「似合ってるよ」
「うん。いつものソフィーだね」
僕がそう言うと、ソフィーは嬉しそうに笑った。
その顔を見ているだけで、胸の奥に残っていた不安が少しずつほどけていく。
ジムおじさんが診察用の魔導器を持って、治療室へ入ってきた。
「喜ぶのはまだ早い。身体の状態を確認するぞ」
ソフィーはベッドへ腰を下ろす。
おじさんは胸元へ器具を当て、魔力の流れや心臓の動きを調べていった。
魔導器の画面に、青い波形が表示される。
しばらく画面を確認していたジムおじさんが、ようやく器具を離した。
「体内のD因子が休眠している」
「休眠?」
アメリアが尋ねる。
「完全に除去されたわけではない。だが、今のところ暴れている様子はないな」
僕はソフィーの胸元へ視線を向けた。
そこには、プロテウスが埋め込まれている。
「どうやらプロテウスが、D因子を抑え込んでいるようだ」
「じゃあ、もう獣にもならないの?」
ソフィーが身を乗り出す。
「D因子の影響で不本意に肉体が変異することも、ないと言っていいだろう」
「やった!」
ソフィーが両手を握りしめた。
「よかったね、ソフィー!」
僕も思わず笑っていた。
アメリアも安堵したように息を吐く。
僕たちはソフィーの手を取り合った。
魔導器の身体を経て戻ってきた小さな手。
「もう、誰も傷つけなくていい」
ソフィーが、繋がれた手を見つめながら呟く。
「ソフィーは安心して普通に暮らせるね」
「うん。もうラクーンのような悲劇は起こさせない」
その名前を聞くと、ソフィーの表情が少し曇った。
「……アレク」
「なに?」
「獣になった私を護ってくれて、ありがとう」
ソフィーの淡い青色の瞳が、まっすぐに僕を見つめる。
「喋れなかったけど、みんなの声は届いてたよ」
「本当に?」
「うん。アレクがずっと手を握ってくれていたことも覚えてる」
ソフィーは少し恥ずかしそうに笑った。
「最初は、生のお肉はちょっとびっくりしたけど」
「あれは、他に食べられそうなものがなかったんだよ」
「でも、変身しててもオレンジソーダは美味しかった」
その言葉に、治療室の空気が少しだけ柔らかくなった。
ソフィーは、ゆっくりと自分の手を見つめる。
「それで思ったの」
「何を?」
「私も、護られるだけは嫌」
ソフィーの声から、先ほどまでの不安が消えていく。
「ラクーンみたいに苦しんでる人も助けたい」
「ソフィー……」
「私も、2人みたいに戦う!」
アメリアの表情が変わった。
「ソフィー、戦いは危険なのよ?」
「分かってる」
「ケガもするし、最悪の場合は命を落とすわ」
「アメリア」
ソフィーは、静かにアメリアを見返した。
「せっかく助かった命を捨てるつもり?」
「違うよ」
ソフィーの目は、真っ直ぐだった。
「助かったからこそ、助けたいの!」
アメリアは返す言葉を失った。
ソフィーは、自分の胸へ手を当てる。
「私、ほんの少しだけ氷の魔法が使えるの」
その言葉に、あの日の光景が蘇った。
ラクーンの身体を覆った氷。
止めようとしても止まらなかった力。
「ラクーンを凍らせちゃったのも、きっとその魔法が暴走したせい」
ソフィーは指先を見つめた。
「でも、機械の身体なら、ちゃんとコントロールできると思う。練習して完璧にする。2人の役に立ちたい!」
迷いのない言葉だった。
僕は少し心配だった。
せっかく助かったのに、また危険な場所へ向かわせることになる。
けれど、ソフィーの瞳を見ていると、決心がついた。
この子はもう、護られるだけの存在ではない。
自分の意思で、誰かを助けようとしている。
アメリアは長く息を吐いた。
「……分かったわ」
「アメリア?」
「ソフィーを護るし、ソフィーにも護られる」
アメリアは、ソフィーの肩へ手を置いた。
「頼もしい仲間が増えたわね!」
ソフィーの顔が明るくなる。
僕も頷いた。
「うん。よろしく、ソフィー」
「こちらこそ、アレク」
アメリアが手を叩いた。
「さて、じゃあソフィーのヒーローネームを決めましょ」
「ヒーローネーム?」
「白い機体に、氷の魔法……」
アメリアは少し考えたあと、指を立てた。
「スノーホワイトはどう?」
「スノーホワイト……」
ソフィーはその名前を何度か口にした。
「カッコかわいい!」
「じゃあ決まりね。変身後はスノーホワイトって呼ぶこと!」




