第17話 どこでも会うよね
最初は、僕と10歳くらい違う女の人と、ちゃんと話せるのか心配だった。
けれど、ゲームの話を始めたら、いつものジャンヌだった。
おすすめの装備も、次に配信されるアニメも、話し始めると止まらない。聞いているうちに、知らない部屋に来た緊張も薄れていった。
「お待たせしました!」
ショットちゃんが、ブドウ色の飲み物を持ってきてくれた。
グラスの中を細かな泡が上っている。ひと口飲むと、冷たい刺激が舌の上で弾けた。
甘いブドウの香りが広がった後、爽やかな酸味が残る。
「これ、すごく美味しい!」
「ハイロニアのゴルドブドウをふんだんに使った、ノンアルコールスパークリングワインよ!」
何だかよく分からないけれど、凄いことは分かった。
もうひと口飲もうとしたところで、ジャンヌがこちらをじっと見ていることに気づく。
「……ライトさぁ、マギクエファイブのヒロインにメチャ似てね?」
「え? 僕、マギクエやったことないから分からないや」
しかも、ヒロイン?
確かに、昔はよく女の子に間違えられたけど。
グラスを置くと、ジャンヌは前髪の隙間から、さらに僕の顔を確かめるように見た。
「……ライトさぁ、コスプレとか興味ある?」
答えに詰まる。
普段から変身して、コスプレしてます、なんて言えない。
そもそも、あれは服を着替えているわけじゃないけれど。
「絶対似合うっしょ。やってみなよ」
「無理無理! 自分でやればいいじゃん」
「はぁ? こんな終わってる女のコスプレなんて、需要ないから」
ずいぶんあっさり、自分を候補から外してしまった。
ジャンヌの顔を見る。
髪はボサボサだし、ジャージもゆったりしている。でも、その隙間から見える顔立ちは綺麗だと思う。
「でも、ジャンヌ、美人だと思うけど」
「……キモオタヒキニート舐めんな」
ジャンヌは顔を背けた。
褒めたつもりだったんだけど。
◇
「レジェマナ3、そんなに面白い?」
「おもろい。気づいたら朝になってるくらいには」
ジャンヌはゲームの山からパッケージを抜き出した。
発売前から何度も見ていた、あの絵だ。
「ただ、今回、寄り道が多すぎ。話進めようと思ったら別の依頼見つかるし、素材集め始めたら終わらんし」
「そういうの好きなんだよね。僕、先に全部やりたくなる」
「知ってる。ライト、宝箱見つけると絶対戻るもん」
言われて、少し笑ってしまった。
一緒に遊んでいるときは、いつも待ってもらっている。
それからもゲームの話をしているうちに、グラスの中の泡はすっかり少なくなっていた。
マナリンクで時刻を確かめる。
そろそろ帰らないと。
「今日はありがとう。ジュース、美味しかった」
「いや、お礼言うのこっちだし。ガンプリンセス、マジありがと」
ジャンヌが棚を見る。
きっちり埋まったフィギュアの列を見ている顔は、さっきより機嫌がよさそうだった。
「またゲームでね」
「おけ。帰り気をつけて」
◇
靴を履き、表の店へ戻る。
入口へ向かいかけたところで、扉が開いた。
「あら、アレックス?」
制服姿のアメリアが立っていた。
その隣にも、同じ学校らしい制服を着た子がいる。女生徒の格好が自然に馴染んでいて、2人で並んでいると、学校帰りなんだとすぐに分かった。
「アメリア。学校、終わったの?」
「ええ。あなた、ここに来るのね」
「今日は友達に会いに来ただけ。もう帰るところだけど」
「ちょうどいいわ。紹介する」
帰るところって、言ったんだけど。
アメリアは隣の子へ手を向けた。
「私の親友のシオよ。こっちはアレックス」
「初めまして、シオです」
「アレックスです。初めまして」
挨拶を終えて、入口へ身体を向ける。
「じゃあ、僕はこれで――」
「待ちなさいよ。せっかく会ったんだから、少しくらい付き合いなさい」
袖を掴まれた。
扉まで、あと少しだったのに。
「さっきまで話してたんだけど……」
「相手が違うでしょ」
違うと、話す時間まで別に用意しないといけないらしい。
アメリアに引っ張られるまま、近くの席へ戻った。
「ごめんね。アメリア、こういうところ強引だから」
シオが隣で言う。
「うん。それは、少し分かる」
「そこ、意気投合しなくていいのよ」
そう言いながらも、アメリアは怒っていなかった。
シオも楽しそうにしている。遠慮なく話せる間柄なのが、少し見ているだけで伝わってきた。
「2人は、昔からの友達なの?」
「幼馴染よ。学校に入るずっと前から一緒なの」
「アメリアは昔から、何をするにも先頭だったよね」
「あなたがついてきてくれるからでしょ」
シオが笑うと、アメリアも笑った。
いつもの僕に向ける得意そうな顔とは、少し違って見える。
「昔は、どっちが男で、どっちが女か分からないなんて言われたわね」
「アメリア、じっとしてなかったもの。私の方が大人しいって、よく言われた」
どっちが男で、どっちが女?
2人の顔を見比べる。
何かの遊びの話だろうか。
首を傾げていると、シオが気づいた。
「ああ、私、性別は男なの」
「えっ?」
思わず声が出た。
もう1度、シオを見る。
制服の着こなしも、話しているときの雰囲気も、女の子だと思っていた。
言われなければ、きっと気づかなかった。
「そうなんだ。全然分からなかった」
「よく言われる」
「その制服、似合ってるから」
シオが少し嬉しそうに笑った。
「ありがとう。こういう格好の方が好きなの」
「うん。好きな格好の方がいいよね」
僕も、着ていて落ち着かない服より、いつものパーカーの方が好きだ。
似合っているのに、わざわざ変えることもないと思う。
「昔は、それでシオをからかう奴もいたけどね」
アメリアの声が、少し強くなった。
「そういう奴は、私が懲らしめてきたわ」
ずいぶん誇らしそうだった。
「私が言い返す前に、アメリアが怒っちゃうんだよね」
「だって、あなたが好きで着ているんだから、他の奴に文句を言われる筋合いはないでしょ?」
シオが慣れた様子で笑う。
きっと、何度もこんな会話をしてきたんだろう。
怪人に向かっていくときも、オートマタを助けたときも、アメリアは迷わず飛び出していた。
プロテウスがあるから、あんなふうに動けるんだと思っていたけれど。
アメリアは、昔から正義感が強かったんだ……。




