↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/64

第15話 それって名乗らないといけないの?

人々の間を抜け、遠ざかる2人の背中を追う。


白銀と紅の姿が、通りの先で曲がった。


路地裏だ。


見失う前に追いつかなきゃ。


カメラを押さえ、必死に足を動かす。声をかけるための息まで、走るのに使ってしまっていた。


ようやく角を曲がる。


「あれ……?」


そこにいたのは、青髪の少年と赤髪の少女だった。


白銀の装甲も、紅い機械の身体も見当たらない。


確かに、ここに入っていったはずなのに。


2人の脇から奥を覗く。もう少し先まで走ったのだろうか。


「ねぇ、ここに騎士みたいな人達、来なかった?」


「い、いえ……見てないです」


小さい男の子が、やけに首を横に振った。


そんなに否定しなくても。


急に走ってきたから、驚かせてしまったのかもしれない。


「それなら……わた──」


隣の女の子が何かを言いかけた。


男の子が慌ててその袖を引く。女の子は不満そうに彼を見たけれど、それ以上は続けなかった。


何か、知っている?


尋ねようとすると、男の子の腕が伸びた。


「あっちに行きました!」


指さした先は、路地の奥だった。


さっきは見ていないと言っていた気がするけれど、思い出してくれたらしい。


「ありがとう!」


今は追いかけるのが先だ。


2人の横を抜け、教えられた方へ駆け出す。


まだ遠くへは行っていないはず。


私は諦めない。


絶対、独占インタビューしてやるんだから!


◇


女の人の足音が遠ざかるのを待ってから、アメリアに向き直る。


「アメリア! さっき、絶対『私です』って言おうとしたでしょ!」


「そうだけど、なんで止めたの?」


本当に分かっていないみたいだった。


「バレたら、普通に暮らせなくなっちゃうよ!」


あのカメラを向けられて、名前を聞かれて。


うっかり答えたことが新聞に載ったら、もう取り消せない。


さっきまで機械の身体だったことも、僕が12歳だということも、全部知られてしまう。


「私は、有名になった方が人助けに役立つと思ったのだけど?」


「なんでそんなに人助けにこだわるの? 治安維持の人に任せようよ?」


オートマタを助けられたのは、よかった。


車も止められたし、誰も怪我をせずに済んだ。


でも、次も同じようにできるかは分からない。今日だって、最初から車を止める方法を思いついていたわけじゃなかった。


「……その治安維持局が、なかなか来ないせいで、被害が出そうだったでしょう?」


モールの屋上が頭に浮かぶ。


女の子が連れていかれそうになったとき、助けてくれる人はいなかった。


それでも、治安維持局の人たちが何もしていなかったとは限らない。


「通報を受けて、確認して、人員を配置して、安全を確保して……僕達の分からない手続きが、沢山あるんだと思うよ」


「だから、身軽に動ける私達が素早く現場に駆けつければ、仕事も少なくて済むわ!」


アメリアは迷わず言った。


いつの間にか、僕も駆けつける方に入っている。


また言い返そうとしたところで、その声が小さくなった。


「……そうすれば、お父様、お母様も早く帰って来られる」


途中まで開いた口を閉じる。


アメリアは路地の出口を見ていた。


さっきまで、あんなに堂々としていたのに。今は僕に言ったというより、つい言葉がこぼれたように聞こえた。


僕の両親も、まだ帰ってこない。


家ではキュナが待っていてくれるけれど、それで両親に会いたくなくなるわけじゃなかった。


何と言えばいいのか分からない。


通りから差し込む光の中で、アメリアはどこか寂しそうだった。


「…じゃあ、こうしましょう?」


アメリアの声が、いつもの調子に戻った。


「変身していることは黙っているから。その代わり、偽名を使って活動しましょう!」


「偽名?」


「アレックスとアメリアって名乗ったら、バレちゃうでしょ? だから別の名前で活動して、あたかもそんな人物がいるように装うの」


白銀の騎士と、僕。


名前が違えば、探している人も、わざわざ12歳の子供と結びつけたりはしないかもしれない。


さっきの女の人だって、目の前にいる僕たちには気づかなかった。


「……それなら、騎士が僕だって結びつかずに、騎士は騎士だって認識してもらえるかも」


「そういうこと!」


ただ、その騎士として活動するのは、結局僕なんだけど。


「でも、偽名なんてすぐには思いつかないよ?」


「私が考えてあげようか?」


アメリアは、もう考え始めているようだった。


「そうね。騎士に合う、かっこいい名前……アレックス……」


何度か、僕の名前を口にする。


「アレク……。アレクス……」


元の名前に、随分近い。


それだとバレないかな、と言いかけたところで、アメリアの声が弾んだ。


「アレクサンダー!」


確かめるように、口の中で繰り返す。


「アレクサンダー……」


なんだか、強そうな名前。


ゲームの紹介映像の最後に大きく出てきても、違和感がなさそうだ。


僕に向かって呼ばれるところを想像すると、少し落ち着かないけれど。


「アメリアはどうするの?」


「ふふふ。私はもう決めたの」


こっちは、今思いついた名前なのに。


「私が変身した時に、耳が魔導器になってるでしょう?」


「うん」


「実は、そこに小さくハートマークが入ってるのよ」


耳元を指さされる。


思い浮かぶのは、赤い髪の両側を覆っていた装甲だ。そこまで細かく見ている余裕はなかった。


「……気がつかなかった」


「だから、イヤーハート」


得意そうに、アメリアが言った。


「縮めて、イアハート」


なるほど。


由来を聞くと、覚えやすい。


「これから変身した後は、お互いにアレクサンダーとイアハートって呼び合うの! いいわね?」


「……うん」


返事をしてから、気づく。


正体を隠すための話だったはずなのに、いつの間にか、これからも活動することまで決まっていた。


拒否権なんてなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。