第11話 呼び名とこれから
◇
戦いの後、僕たちはジムおじさんの店に来ていた。
昨日、僕が寝かされていた場所で、今度はアメリアが手当てを受けている。
「痛い!」
「我慢してくれ」
脇腹に処置をされるたびに、アメリアの足が落ち着かなく動いた。
クラウンに殴られた場所には、変身を解除しても痣が残っていた。機械の身体になっていても、強いダメージを受けると、元に戻った後まで残るらしい。
あの拳を受けたとき、アメリアが動けなくなったのを思い出す。
僕も、針を弾いたからといって安心してはいけないんだ。
「ドレッド──」
話を聞いていたジムおじさんが、その名前を繰り返した。
「確かに、そう言っていたのか?」
「ジムおじさん、知ってるの?」
「確か、生体科学研究所だったはずだ」
マナリンクに触れ、検索画面を開く。
空中のキーで『ドレッド』と入力すると、研究所の案内が出てきた。
『生体科学研究所』
その下には、生物学や、生体と魔法を融合させる技術についての説明が並んでいた。
難しい言葉が多い。
指で画面を送り、医療研究の紹介を開く。
傷ついた身体の機能を取り戻すこと。病気によって失われた働きを回復させること。
身体の悪い部分を魔導インプラントに取り替えるのとは、違う治療を目指しているらしい。
機械に置き換えるのではなく、身体そのものに働きかける。
書いてあることを何度か読み直して、ようやくそのくらいは分かった。
腕を治したかった、とクラウンは言っていた。
事故で動かなくなった腕が、また動くようになる。
こういう説明を見つけたら、話だけでも聞きたくなるかもしれない。
画面のどこにも、あの無数の腕は載っていなかった。
青い血も、消滅も。
ただ、ケガや病気を治すための研究だと書いてある。
僕たちが見たものと、同じ研究所の話をしているとは思えなかった。
「アメリア、そろそろプロテウスについて詳しく教えてよ」
マナリンクの検索画面を閉じる。
ドレッドのことも気になる。でも、その前に、自分の身体に入っているものを知っておきたかった。
「詳しくって、何を?」
「何ができて、何をしたら危ないのか、とか。僕、自分の身体なのに何も分かってないんだ」
アメリアは服を整え、椅子に座り直した。
「プロテウスは、魔導兵器開発研究所が開発したインプラントよ。心臓に融合させて使うの」
「ラグナロク?融合?……」
「刺さっているだけじゃないってこと。単体だとV字の形をしているんだけど、融合すると、心臓に張りつくようになるわ」
胸に手を当てる。
尖ったものが、ずっと突き刺さったままなのを想像していた。
心臓が動くたびに傷ついたりしないか心配だったけれど、そういう状態ではないらしい。
それでも、取り出せないことには変わりない。
「変身すると、脳と顔を除いた身体が魔導器に置き換わるの。服の上から鎧を着ているわけじゃないわ」
「じゃあ、顔が変わるのは?」
「生身のまま、顔立ちも変化するのよ。あなたは随分、大きくなるみたいだけど」
鏡に映った青年の顔を思い出す。
あの顔も、機械で作った仮面じゃなかったんだ。
「変身も解除も、プロテウスが脳内信号を受け取って行うわ。変わりたいと思えば変身するし、戻りたいと思えば元に戻れる」
「急に時間切れになったりはしない?」
「時間制限はないわよ」
それを聞いて、少し安心した。
もし戦っている途中で元に戻ったら、今度こそ逃げられない。
「身体能力も上がるわ。100メートルなら7秒くらい。跳躍は3メートルほどね」
「3メートル?」
家の天井を思い浮かべる。
何も考えずに跳んだら、頭をぶつけるどころじゃ済まなさそうだ。
「私の旧式も、あなたの新型も、基本的な身体能力は同じよ」
「じゃあ、新型は何が違うの?」
「触れた物を魔導器に変えられること。私のには、その機能がないの」
アメリアの目が、こちらを向いた。
「だからって、私を剣にするとは思わなかったけど」
「それは……ごめん」
「次からは、先に言いなさい」
次があるんだ。
そこは聞かなかったことにして、手元を見る。
「触ったものが何になるかは、僕が考えて決まるの?」
「対象に対するあなたのイメージが働くの。おもちゃの銃なら、本当に撃てる銃。風船なら、ああやって攻撃を跳ね返すものに変えられたんでしょうね」
あのときは、ただ防いでほしかった。
アメリアを剣にしたときは、ゲームの魔剣を思い浮かべていた。
どちらも、考えたことが形になったんだ。
「自分自身や、生身の生き物は変えられないって聞いてるわ」
「でも、アメリアは……」
「変身中の私の身体は魔導器でしょ」
そうだった。
だから、できてしまったのか。
「変えたものは、あなたが解除するか、変身を解けば元に戻る。ずっとあの姿のままにはならないわ」
アメリアがそこだけ、少し強く言った。
元に戻せて、本当によかった。
「それから、機械の身体だからって無傷で済むと思わないこと」
服越しに脇腹を押さえる。
「強いダメージを受けたら、元に戻っても傷は残る。身体を戻して変身し直せば治る、なんてことにはならないわ」
「……うん」
「瀕死になるほどの重傷を負えば、強制的に解除されることもある。戻りたいと思っていなくてもね」
針に当たっても平気だった。
それだけで、随分丈夫になったつもりでいた。
でも、今日のアメリアは殴られて動けなくなった。僕だって、パイプから逃げるので精いっぱいだった。
「プロテウスがあっても、無茶をしていいわけじゃないのよ」
胸の下で、心臓が動いている。
僕を助けてくれたものが、今もそこにある。
何でもできるようになったわけじゃない。
何ができるのか、少し分かっただけだ。




