第8話 ここからが始まり
琳寧の好きな服は大抵理解している。
クラスのみんなは琳寧の事を勉強が好きな天才で、大人しく、服には無頓着な子だと思っている。
制服の琳寧も可愛いがみんなはそれより上を知らないため、独り占めできている感じがして嬉しかった。
琳寧はスタイルが良かったが、それを活かすタイトでピチッとしている服ではなく、ゆったりとしていてふわふわしているワンピースや、大人っぽく見せるモノトーンのコーデが好きであった。
私はゆるふわで可愛い琳寧も、大人っぽく色気を見せる琳寧も両方好きだ。
琳寧がいない今どうすればいいか分からなかったが、もし戻ってきてくれた時一緒にペアルックにできるような服を選ぶことにした。
「これください!」
「こちらサイズがそれぞれ違いますが問題ありませんか?」
琳寧より私の方が少し身長が高かった。
「友達とペアルックしようと思って!」
「それは素敵ですね! お友達割引しておきますね!」
「なんですかそれ?」
「当店では学生さん限定で、お友達同士でお買い上げいただくと30%オフさせていただいております!」
「今友達と一緒じゃないのにいいんですか?」
「あなたを見ているとそのお友達が愛されていることが伝わるので全然大丈夫ですよ!」
この店員さんにとって何気ない言葉なのかも知れないけど、私の心には深く響き、心にかかった暗い霧を少し晴らした。
「本当にありがとうございます!」
人の優しさに触れることが出来るのは地元だけでなく、旅先でも同じなんだなと嬉しく感じ、店を出た。
琳寧がどこに行ったのか、そして今何が起きているのかは知る由もなかったが2人で一緒の服を着てまた旅行できると信じていた。
色々買い物をしていたらこんな状況でもお腹は減る。
ここらへんは蕎麦が有名らしく星が3.8の評価の人気店に向かった。
「いらっしゃ〜い!」
腰が曲がりながらも元気の良さそうなおばあさんに迎えられた。
「あの、1人何ですけど入れますか?」
「大丈夫よ! こちらへど〜ぞ!」
メニューの中で、今日のおすすめが目立って美味しそうに見えた。
「このおすすめの、山菜と海鮮の天ぷらセット1つお願いします」
「ざるそばでいいかしら?」
「それでお願いします」
1人知らない土地で、こうして木の香りが漂うどこか懐かしい気持ちにさせる店に入るのもなかなか良いものだと思った。
そんなことを考えていると、ふと祖母のことを思い出した。
最近大会のことや勉強のことで忙しく、なかなか帰省することができていなかった。
「おばあちゃん元気にしているかな」
気持ちを整理するために、この旅行から帰って少し落ち着いたら会いに行くことを決めた。
そんなことを考えているうちに料理が届いた。
「お待ち遠さま! 山菜と海鮮の天ぷらセットです!」
「ありがとうございます!」
「ごゆっくり〜」
すごく美味しそうに見えた。
いつか琳寧に語るために写真を撮った。
山菜はここらで採れたとのことで、黄金色の薄衣が鮮やかな具材を包んでおり、その後ろにはエビやイカなどが並んでいた。
蕎麦は不均一さがありながらも手打ちによる美しさを感じ、食欲をそそった。
空っぽになっていた胃は瞬く間に満たされ、蕎麦湯を飲んだ後、ひと休憩し会計に向かった。
「お嬢ちゃんはどこかから来たのかい?」
「旅行で東京から来ました!」
「1人旅かい? 中々行動力あるね」
答えに一瞬ためらったが、口角を上げて答えた。
「友達と来ているんですけどちょっと別行動してるんです!」
「おや、それは珍しいね、今度はその子とも来なね!」
「はい! とても美味しかったです! ご馳走様です」
腰を曲げながらも陽気なおばあさんに元気をもらい店を出た。
「まだ少し時間があるけど駅のカフェで時間を潰そうかな」
駅は徒歩圏内であったため歩いて向かい、隣接しているカフェに入った。
カフェラテを注文し席についた。
「ここに琳寧がいたらカフェのフリーWi-Fiは危ないって怒られるんだろうな」
そう小声で言い、1人でくすくす笑った。
「ごめんね琳寧!」
通信制限は避けたいのでフリーWi-Fiに接続してSNSを見た。
そこにはもうあの日の陰謀論やデマすらもなく、現実世界と同じく何も無かったかのような空間となっていた。
もしかしたらと思い見たが何も得られる情報は見当たらなかった。
琳寧は旅行が終わったら会えないと言った。
けどその後すぐに何かが起きて琳寧は行ってしまった。
正直何もかも意味不明だった。
琳寧に少し苛立ちを感じていると1通の匿名メッセージが届いていた
"The end repeats itself, but it always comes to an end."
翻訳すると
"終わりは繰り返されるが、いずれ必ず終わりを迎える"
という意味であった。
これが誰からのメッセージで、何の目的を持って送ってきたかは分からない。
ただ、琳寧ではないと感じた。
返信するのは怖かったのでブロックはせず非表示にだけしておいた。
また手掛かりを探すためにニュースを調べたり、記事を読み漁ったりしたが何も進展がなく、新幹線が着く時間が近づいたため仕方なく店を出て、改札に向かった。
帰りの新幹線は行きの何倍も時間が長く感じた。
そして隣の席は空席であるべきなのに、なぜか知らないおじさんが座っていた。
東京駅につきそこから家までの道のりはあっという間であった。
「お母さんただいま〜」
「1人旅楽しかった〜?」
琳寧に関すること全てが消えていることにはもう驚かなかった。
「楽しかったよ〜」
流すように返事をして部屋に戻った。
自分の部屋の安心感と旅路で背負った負担がドッとのしかかり寝てしまいそうになった。
ベッドに寝転がりスマホをいじろうとすると頬にチクっとした痛みを感じてみると1つの手紙が置いてあった。
これは間違いなく琳寧のものとわかった。恥ずかしかったが匂いでわかってしまった。
"紫伊香へ。これを見ているということはもうすでに始まってしまったということだね。実は私は数回過去に意識を送っていたの。紫伊香に負担をかけず私1人で全部止められると思っていたけど無理みたい。この時間空間でもうマナが尽きる。紫伊香の命には変えられないから全てを伝えるね。あなたの名前はエリー・ベンジャミン。絶星リカネアの秘密魔法部隊フォールのリーダーをしていたの。この下にある文字を読み上げるだけで全部思い出せると思うよ。"
意味がわからなかったが言われるままにした。
「エリーはリカネアと地球のゲートを繋ぎ、ここにマナを解放する」
何も起こらないように感じたが、突然手紙が黄色の炎で燃え果て、そこから発生した半透明でカラフルなオーラが体を包んだ。
琳寧は巧妙に、エネルギーを感知させないよう手紙に高度な術式を組み込んでいたのである。
暖かく、心地よさを感じ体が軽くなり、記憶が流れ込んできた。
「1人に全部背負わせてごめんね。琳寧」




