第6話 ごく普通の女の子
到着まで後10分東京とは違った街並みが新鮮に感じられ、旅行をしているんだなと実感した。
「ねえ紫伊香見て! 綺麗だね」
「すっごく綺麗だね!」
2人は豊かな自然に囲まれ、広々とした空間に見惚れていた。
「今日は私がリードしてあげるからね!」
「それは楽しみ!」
色々と話しているうちに到着した。
2人は新幹線の移動で凝り固まった体をほぐすように、伸びをした。
「ん〜っ! ついに着いたね!」
「ね! 旅の始まりだ〜!」
まずは宿に向かうために、ベンチに座りスマホで行き方を調べた。
「バスで20分で行けるね! ――えっと、あのバスかな」
紫伊香は琳寧の手を引っ張ってバスに乗り込み、宿に向かった。
宿は比較的新しく、汚れなどが一切なく綺麗な見た目であった。
「ねえ紫伊香、ここ高いんじゃ?」
「値段なんて気にしなくていいって! 荷物下ろして観光に行こう!」
2人はチェックインをし、不要な荷物を置いて浴衣に着替えて観光に向かった。
二人は食べ歩きする前に温泉街で湯めぐりをする事にした。
「まずこれにしようよ!」
美人湯というもので、アルカリ性で肌にいいというものであった。
「アルカリ性って化学に出てくるあれだよね?」
「よく勉強してるね。pHが7より大きいもののことだよ」
「なんか危なく感じるけどこの温泉は大丈夫なの?」
「化学で出てくるような強アルカリ性は危ないけど、温泉でのアルカリ性は皮膚の表面を少し溶かして、肌をツルツルにしてくれるんだよ!」
「水酸化ナトリウムとか?」
「そう! pHとしては2,3しか変わらなかったとしても対数スケールだから1変わるごとに強さ10倍になるんだ」
「勉強になりました!」
そんな風に学びも得ながら温泉に浸かった。少しエメラルドグリーンに濁った温泉であった。
「すごい綺麗だし、温度もちょうど良くて気持ち良いね」
「そう言ってもらえて嬉しいよ! 連れてきて良かった!」
「恥ずかしがり屋の私にとって、この温泉はありがたい」
「最近一緒にお風呂なんて入ってなかったもんね! 恥ずかしいんだ!」
「うるさいな〜! 別に紫伊香に見られるのなんてどうとも思わないけど他に人がいるしさ」
紫伊香は、私に見られるのがどうとも思わないなんて失礼だなと思ったが、何も言わず笑って誤魔化した。
2人はアルカリ性の温泉を堪能し酸性の温泉も2つ巡って温泉巡りを終えた。
「すごい気持ち良かったし、いろんな種類の堪能できたね」
「一生分の温泉を堪能しちゃったかも」
2人は水分補給をし、少し休憩した後温泉街の食べ歩きに向かった。
温泉街ではあったが、こっちをメインとして人が来ている程沢山の人で賑わっていた。
「ねえ見て琳寧! すっごいよ!!」
紫伊香は琳寧を癒してあげたいという目的を忘れてはしゃぐほど楽しんでいた。
「本当に色々あって楽しみだね、今日は連れてきてくれてありがとうね」
「で、でしょ〜! 琳寧の好きなものぐらいなんでも分かるのさ!」
琳寧の言葉で本来の目的を思い出し、慌てて答えた。
2人は色々な店を見て回って、温泉まんじゅう、カラフルな団子、ソフトクリームに抹茶パフェなど、女の子にとってカロリーを除けば幸せづくしで、2人は一生こうしていたいと思っていた。
「私、温泉まんじゅう食べてみたかったんだよね。食べたことなかったの」
「そうなんだ! けど私も1,2回くらいかな」
「温泉の水を使うとか、蒸気で蒸すとか諸説はあるんだけど、今売られてるお土産のは単に温泉街で売られている饅頭なんだけどね」
「それは知らなかった!! 琳寧が入ったお湯使って饅頭作れば爆売れしそう」
「紫伊香って変態おやじの風格あるね」
「冗談じゃん! やめてよー!」
2人は食べ歩きに満足し、メインの道から少し外れた落ち着いた場所を並んで歩いた。
ただゆったりと暖かくも爽やかな風が通り、木々のみが揺れ動き、2人以外の人間が存在しないかのように感じられた。
「こうやって歩いてるとさ、私たちは普通の高校生で、ただ平凡に休日を満喫しているみたいだね」
紫伊香の言葉に琳寧は返答を返さずただひたすらに長い道を歩き進めた。
「ねえ、そういえば、」
「ごめん」
紫伊香の言葉を遮るように言い放った。
「ん? 何が?」
「黙ってたわけじゃないけど、言えてなかったことがある」
「全然怒ったりしないよ! けど聞きたいかも。」
「実はもう紫伊香の前世の記憶を結びつけて徐々に思い出させることはできるの」
「え! すごいじゃん! 今すぐやって!」
「そうしたんだけど、それをすると大きなエネルギーが発生して次元を超えて観測される恐れがあって、万が一全てに気づかれた場合は取り返しがつかなくなるかもしれない」
「そっか〜そういうことか。ならしょうがないよ! 今できること考えてやればいい! 今は全て忘れて旅行を楽しも!」
「エネルギーを生み出さずできる方法を探してみるね」
そう言い放ち宿に戻った。
宿にも複数の温泉や、露天風呂、そしてサウナなどがあり、一通り堪能した後お風呂上がりのコーヒー牛乳を飲んだ。
「く〜っ! やっぱ温泉のあとはこれだよね!」
「前世が昭和生まれのオヤジかと思ってしまう時があるね。けど確かに美味しいね」
「え!? もしかして私の前世っておっさんなの?!」
「まあまあ! その話はお酒のつまみに残しといて……」
「まだ飲んじゃダメです! あとでジュース飲みながらゆっくり話そうね!」
2人はいつものように冗談を言い合ってコーヒー牛乳を飲み干した。
部屋に戻り晩御飯までまだ時間があったため、会話をして過ごした。
「今日はすごく楽しかったよ! 本当にありがとう!」
「それは良かった! けどまだまだ今日はこれからだよ!」
「まだ何かあるの?」
「なんとね、今日はこの部屋にご飯を運んできてもらってたくさんご馳走を食べれるのさ!」
「本当! あれ憧れだったんだよね。部屋でくつろぎながら食べれるの嬉しい」
「でしょ! 2人きりで話したいこともたくさんあるもんね!」
「うん!」
「そういえば今日、1時間前までお肉料理とお魚料理で選べるんだけどどっちが良いとかある?」
「どんな内容かもうわかってるの?」
「うん! お肉はこの地域のブランド牛を使ったすき焼きで、お魚料理は伊勢海老含むお刺身の盛り合わせか、金目鯛とノドグロの煮付けらしい。追加料金でどっちも頼めるみたい! そうする?」
「流石に食べきれないよ!! 私はお肉料理にしようかな」
紫伊香が自分に対してよくしてくれる気持ちは嬉しかったが、申し訳なさが押し寄せた。
「確かに残すのも失礼だからね! じゃあ私お魚料理にするからシェアする?」
「じゃあそうしよ!」
「うん! 私伊勢海老食べてみたいからこっちにするよ!」
2人はディナーのメインを決めて、運ばれてくるまで他愛のない話を続けた。




