第58話 オムライスはバターライス!
スクリーンが白く光り、開演を知らせるようなブザーの音が鳴った。
それは酷く重く、身体中を凍らせるほどの不気味さがあった。
「何が……始まるの?」
私は魔法を使う事ができ、何度も修羅場をくぐって来た。
けど、震えてしまう。
「怖い、怖いよ紫伊香……」
孤独感と、得体の知れない恐怖。
それが内側から徐々に心を蝕んできているのを感じた。
私の気持ちとは関係無しに明かりがついたスクリーンの映像が変わった。
「紫伊香!!」
そこに映っていたのは、ついさっきまでとは違った少し若返った紫伊香が映っていた。
中学生ぐらいの時かな?
「穂乃果もだ! あれ、この子は? うぅ、いった……」
突然金属バッドで後頭部を殴られたかのように、頭に電気が走った。
後ろを見ても誰かがいる訳でもない。
赤髪の少年など見た事が無い。けど何だか見覚えがある。どこかで会った事があっただろうか。
一体私は何の映像を見ているのだろうか。
そこまで無音であった映像から音が聞こえてきた。
『大事な何かを忘れている気がするな、何だろう。時間を戻す前は私1人で戦っていたし』
紫伊香の声ではっきりそう言った。1人って、まさか——
「紫伊香! ねえ、紫伊香!」
当然私の声など聞こえるはずも無い。
やっと分かって来た。
状況を整理するときっとこうだろう。
あの映像に映っているのは時間を戻した世界だろう。
紫伊香は無事過去に意識を飛ばす事が出来たんだ。
けど、私の事を何もかも——
「嫌だ、そんなの嫌だ! 紫伊香以外が私の事を忘れたって構わない。けど、紫伊香だけは、エリーだけはダメだよ……」
琳寧はその場に崩れ、声が出ないほど胸を詰まらせ、目から溢れるように涙を落とした。
「忘れられるくらいなら死んじゃった方がいい。もう、何でもいい」
琳寧は自暴自棄になり、氷で作り出した槍を自分に向けた。
これでいい、もう私なんて必要ないんだ。
「ばいばい、紫伊——」
『私が世界で一番大切な人は琳寧、青瀬琳寧って言うんだ! 今はどこか遠くにいるかもだけど、必ずまた会う!』
心臓に突き刺さる寸前に、2つ目のスクリーンが動き出し、その中の紫伊香がそう言った。
桜が舞う見知らぬ丘の上で、穂乃果、そして少し年上に見える女性と紫伊香の3人で並んでいるようだった。
胸を突き刺すためだけに生成した氷の槍は、画面に舞う桜の花びらと同じように、原子レベルまで細かく砕けた。
それと同時に涙が止まった。
「どういうこと? 映像の意味は何?」
私は理解が追いつかなかった。
あの4つのスクリーンは何を意味しているのだろうか。
もしかしたら全てデタラメで、私を馬鹿にするための悪戯なのかも知れない。
考えても分からないため、流れに身を任せるしか無かった。
私が座り込むと2つのスクリーンの映像が消え、何もないかのように戻った。
意味不明で疲れてしまった。
疲れはあるが、眠気や、空腹感などは無い。この空間は一体何なのだろうか。
「紫伊香〜? 寝てるの〜? 晩御飯できたけど〜?」
ほらやっぱり起こしてくれた。
「は〜い! 今行く〜」
少し寝る事ができたため、疲れが取れた。
けど寝起きのため頭が少しぼうっとする。
連絡が来ていないかスマホを確認した。
空音から今日はありがとう、とだけ来ていた。
お礼されるような事なんてしてないのに。
けど、私は空音のためにも瑠夏ちゃんのためにも治してあげないと。
スマホを閉じてリビングへ向かった。
「お母さん今日は何作ってくれたの〜?」
「今日はオムライス作ったよ! ご飯はちゃんとバターライス!」
「本当! ありがとう!」
世間一般的にはオムライスのご飯はチキンライス、もしくはケチャップライスが定番だと思うが、私はバターライスが好きだった。
お母さんが私のためにこうやって作ってくれるの、嬉しいな。
紫伊香はここで1つ疑問に思った。
私って、一体なんなんだろう。
あまり気にしていなかったけど、風山家に生まれて、紫伊香として生きているけど私は本当にお母さんの子供なのだろうか。
どこかで全てが入れ替わって、本当の子供では無いんじゃ。
紫伊香の幸せを、お母さんの幸せを奪ったのは私?
私が全て壊したの?
「どうしたの? 具合悪い?」
「う、ううん大丈夫! 美味しそうだね! いただきます!」
ネガティブな考えを一度捨てよう。
私の前世がエリーで今世では紫伊香。それは変わらない事実なんだ。
目の前にいる人は私のお母さん。それでいいじゃないか。
全てが終わった時、上手くいっていればそれでいい。
晩御飯を食べ終え少し休んだ後、散歩をしに外へ出た。
まだ夏ではあるけど、夜はもう涼しい。
秋が近づいてきているのを感じる心地よさだ。
「はあ〜! 歩いてリフレッシュしなきゃ!」
今の時刻は21時を過ぎている。
こんな時間に女子中学生が外を1人で歩いていたら危ないだろう。
けど、魔法を使える私にとって危険なものなどないのさ!
私はそう考えながら歩いていた。
そこの角を曲がれば公園が見える。そんなところに来た時。
強力なマナ反応を感じた。
「公園の方からだ!」
私は急いで角を曲がると、それと同時にマナ反応が消えた。
そしてそこには人影が1つあった。
私は息を殺して近づいた。
「え?! 穂乃果!」
それは私の友達、飯島穂乃果だった。
読んでいただきありがとうございます!
ぜひ、面白い、先を読んでみたいと思っていただけましたら、リアクション、ブックマーク、コメント等していただけると励みになります!




