第35話 何らかの違和感
今どきこんな奴がいるのか。
この不良達に穂乃果が何をされるか分からない。
背に腹は代えられないと思い飛び出した。
「お前ら穂乃果から手を離せ!」
「し、紫伊香!」
穂乃果が震えた声で私を呼んだ。
「なんだお前? てかよく見たらこっちも可愛いじゃん」
「本当だ、ラッキーだな」
汚らわしい男共の会話に虫唾が走る。なんて薄汚いんだ。
目で見て分かる魔法を使わなくても戦う方法はいくらでもある。
電気や、風を瞬時に発生させれば、魔法と気づかれずに加速させられる。
「お前もこっちにこいよ」
こっちに近づいてきて手を掴まれそうになった。
私は急いでそれを振り払い、関節を外した。
「いっってえぇぇ! 何すんだこのクソ野郎!」
涙を流しながら愚かな男が叫んでいた。
残りの男達はふざけて笑っていた雰囲気から一変して、私を警戒した。
「大人しく帰るなら見逃してやってもいいけど?」
情けない相手を私は挑発した。無理に全員傷つける必要はない。
諦めて早く消えて欲しかった。
「ちょ、調子乗んなよ!」
そう叫ぶとともに次々と私に向かってきた。
全てがスローモーションに見え、正確に急所を突いた。
急所といっても汚い下半身など狙いたくもないため、みぞおちを狙った。
あっけなく終わった。全員地べたにだらしなく転がっている。
「まだやる?」
「い、いえ、やりません」
私の問いかけに怯えたように答え、震える足を引きずりながら去っていった。
「紫伊香〜! ありがとう〜!」
穂乃果は泣きながら私に抱きついてきた。
私の肩に触れた穂乃果の手は震えていた。かなり怖かっただろう。
「もう大丈夫だよ。一旦落ち着こうか」
私はそう言いながら穂乃果の頭を撫でた。
妹ができた気分だ。
ようやく穂乃果が落ち着いてきた。
「紫伊香ってさ、あんな強かったけ? 格闘技とかやってた?」
「やってないやってない! 魔法と前世の知識のおかげ!」
運動全般をやったことがあったが、今世で格闘技など習ったことはなかった。
戦闘に関する知識は前世のものだけだ。
「へ〜魔法ってやっぱ便利なんだね! さっきの人達も本当はイチコロでしょ!」
イチコロってなかなか物騒な単語が出てきたなと思った。
「魔法で普通の人を殺めたりなんてしないよ! テロリストとかなら分からないけど」
私のジョークに穂乃果は笑っていた。
過去に戻って1日くらいしか経っていないが、このほのぼのとしてる感じが楽しく感じた。
「それで、今日は私に魔法教えてくれるの?」
「うん! さっきのでまだ辛いとかだったら今度でもいいけど、どう?」
「私なら大丈夫だよ!」
すっかり立ち直っているようだった。穂乃果はこの時から強かったのか。
「よし! じゃあまず閉じてるマナ回路を開くね!」
「私は何をすればいいの?」
「とりあえずそこに座って目を閉じて!」
私に言われた通りの穂乃果は目を閉じ、私の動きを待っていた。
正直こんなことは初めてであったため、上手くいくかは分からない。
穂乃果の背中に手を当てた。
「私が今からマナを流していくから、ゆっくり深呼吸を続けて!」
「わ、分かった」
穂乃果の緊張が伝わってきた。
ゆっくりと穂乃果にマナを流し込んだ。
「んっ、なんか、体が熱くなってきた……」
ここだけみたら変なことしているように見えるだろう。
「大丈夫だから深呼吸止めないでね」
無言で小さく頷いてくれた。
穂乃果の内部にある閉じたマナ回路が少しずつ開いていくのを感じた。
順調そうで安心した。
穂乃果の体は熱を持つように熱くなって来たが、これは回路が開いてってる証拠なのだろう。
「やばい、頭がぼうっとしてきた」
「あと少し頑張って! よし! 終わったよ!」
ようやく終わった。
穂乃果は汗で制服と髪が濡れていた。
立ちあがろうとしたが、ふらついて地面に転びそうになったが、ギリギリで受け止めた。
「大丈夫? 少し座って休も」
「う、うん。ありがとう」
一安心し、穂乃果を再び見ると、なんだか濃い青色のオーラのようなものが内側から出始めていた。
「穂乃果! 自分から出ているオーラみたいなもの見える?」
「オーラ? なんだか体が暖かく感じはするけどオーラみたいなのは見えない」
マナ回路が開き、大気のマナと合わさることによってオーラが発生したのだろう。
それを目で見て分かるようになるためには中級程度の魔法の習得が必須だ。
「とりあえず成功したよ! これで魔法を使用するための準備は完了! よく頑張りました!」
「え?! 本当! 私魔法使えるようになったんだ! 嬉しい!」
ものすごい喜んでいた。魔法を使えるようになるなんてあり得ない話なのだから喜ぶのも当然か。
「じゃあ早速魔法教えてよ!」
穂乃果のやる気は十分にあった。
しかし今は休むことの方が大事だ。
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ! 見えない疲れとかもあるだろうから今日はゆっくり休も?」
「紫伊香の言う通りだね、ありがとう」
そういってくれて安心した。
無理にでもやろうと言ってきたら、教えてしまうだろうから。
「じゃあ今日は帰ろっか。一応家まで送るよ」
「え、いいの? なんか彼氏みたいだね」
「何それ!」
私は穂乃果を家まで届けた。
彼氏か、穂乃果は時間を戻す前千住君と付き合っていた。
そして小雪と康介も。
そういえば、私は——
心から抜け落ちた記憶が何なのか、紫伊香はまだ知らない。
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