第31話 2人きりの世界でのデートはロマンチックだ
「紫伊香〜! 起きろ〜!」
琳寧の声と共に朝を迎えた。
「今日は早起きさんだね! って、あれ?!」
なぜか琳寧は、すでにメイクをしっかりして、可愛い服を着ていた。
「ふふ〜ん! 可愛いでしょ!」
可愛い。
「めっちゃ可愛いよ! けど何で朝からそんなに決めちゃってるの!」
「今日は紫伊香とデートしようと思って!」
突然の言葉に驚いた。
昨日そんな話をしたわけでもないし、いつ何が起こるか分からない状況で浮かぶ発想ではなかった。
「突然だね。外に偵察兵とかいるし、何が起こるか分からないからあんまり楽しめなくない?」
琳寧の提案は嬉しかったが、楽しめる状況だとは思えなかった。
「大丈夫大丈夫! 私の魔法を使えば誰にも見つからず、人のいない世界で楽しいデートできるから!」
いつもに比べて琳寧のテンションが高いように感じた。
「まあ、そんなに言うなら行くしかないよね!」
誰もいない世界で2人きりでデートというワードにロマンチックさを感じた。
「私も準備するから、リビングで朝食でも食べてて!」
「は〜い!」
そう言うと琳寧は部屋から出ていった。
メイクするところも着替えているところも見られることには慣れていたが、大好きな人のために準備する姿を見られることは何だか恥ずかしかったため、出ていってもらった。
「え〜! いきなりデートだって! どうしよう!」
私は1人ではしゃいでいた。
これが付き合ってから初めてのデートなわけだ。
一番可愛い私を見てもらいたい。
「あ、そうだ!」
私は思い出した。
旅行先で琳寧がいなくなった時、可愛い服をペアルックするために買ったのだった。
白と緑のギンガムチェックで、ふわふわとしたワンピース。
「琳寧はもう可愛い服着てるし、今日はペアルックできないかな?」
着替えとメイクを終わらせた。
ちょうどそのくらいに琳寧が戻ってきた。
「え! 何その可愛い服! ふわふわで可愛い!」
部屋に入ってすぐ琳寧は目を輝かせ私の全身を見ていた。
可愛いを何度も連呼してくるため、恥ずかしさと嬉しさが混ざり合っていた。
「あれ? あの服もこれと同じじゃない?」
クローゼットを開けっぱなしにしていたため、見られてしまった。
「あ、これは……」
琳寧はじっと私を見ている。
仕方ない。恥ずかしいけど話すか……
そう思い私は琳寧に教えた。
「前旅行に行ったときさ、琳寧がいなくなってから1人で服買いに行って、そこで琳寧とペアルックできたらいいなと思って買ったんだ!」
そう伝えた瞬間目を輝かせ、服を脱ぎ出した。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! 何してるの!」
咄嗟に顔を逸らした。
急に脱がれると反応に困ってしまう。
少し待った後、恐る恐る琳寧の方を見た。
そこには私と同じ服を着た琳寧がいた。
「え! 着てくれたの?! すごい似合ってて可愛い! お姫様みたい!」
「ほんと! 嬉しいな」
琳寧は顔を赤くし照れていた。
「せっかく琳寧が可愛い服着てくれてたのに、それじゃなくてこれでいいの?」
「当然じゃん! 紫伊香とペアルックしたいし、これ私の好きなタイプの服だし」
嬉しかった。琳寧の好みを把握していて良かったと思った。
「せっかくだし、写真撮ろ!」
「うん!」
琳寧は快く受け入れてくれた。この写真は最高の宝物だ。
「じゃあ出かけよっか!」
「うん!」
私の言葉にに琳寧は笑顔で頷き、2人で私の部屋を出た。
「認識阻害魔法をかけるからこれで自由に外で遊べるよ!」
「ありがとう!」
琳寧がかけてくれる魔法のおかげでデートをすることができる。
こんな状況でも楽しまなきゃやってられないと思い、手を繋ぎ家を出た。
家から出て10分ほど歩いた。
周りに歩いている人はいなく、車も走っていない。
ただ紫色の偵察兵のみが徘徊していた。
「電車もバスも動かないだろうし、どこ行こっか?」
何やら琳寧はニヤニヤしていた。
「紫伊香。私達には魔法があるでしょ!」
「確かに!」
デートの事ばかり考えていたら私達は普通の人間とは違うことを忘れていた。
「けどせっかくのデートだからさ、一瞬で飛んじゃうのもつまんないよね」
私の言葉に琳寧は少し考えていた。
数十秒の間の後、口を開いた。
「——じゃあ、私達で車動かすっていうのは!」
どういう意味か分からなかった。
当然私達2人は未成年のため、免許を持っておらず、運転したこともない。
「運転できなくない?」
「大丈夫、あくまで乗り物としての車で、マナで動かすだけだよ!」
琳寧は自信満々で説明していたが、私は何も分からなかった。
琳寧に手を引かれ、路上に止まっている車の元に来た。
「ま、まさか窓ガラス割って使うんじゃないよね?!」
鍵を持っていないため、琳寧が強硬手段に移るんじゃないかと思った。
「そんなことしないよ! 金属元素を操作すればロックの解除は簡単!」
「盗むわけじゃないし、またここに戻しにくればいいよね」
「紫伊香はこんな世界になってもずっといい子だね。そういうところ大好きだよ」
琳寧はいつも、私に真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
そのおかげで安心できていた。
マナで動かされる車は自由自在に意思を持ったように動き、空を飛ぶこともできた。
「なんかこれ自体がアトラクションみたいで楽しいね! 遊園地に来た気分!」
思っていた以上に楽しい。酔うこともなく安定感があった。
「お客様どこに行きたいですか?」
琳寧が何か始めたそうだ。
「じゃあ、可愛くて素敵な女性とデートできるおすすめの場所まで!」
琳寧は軽く咳き込み、照れていた。
ルームミラーに微かに映る琳寧の顔は、赤く染まっていた。
「わ、分かりました」
目的地がどこかは分からないがドライブデートのようで楽しい。
たわいもない会話や、2人で熱唱したりと楽しんだ。
1時間ほどのドライブが終わり、車が下降した。
「着いた?!」
私は琳寧に確認した。
「うん!」
その言葉を聞き、車から降りた。
ここは鎌倉市であった。
いつか行きたいと思っていた場所に連れてきてくれたのだ。
琳寧と2人きりの鎌倉デートの幕開けだ!




